硬式野球部は9月22日、明治大学とリーグ戦2回戦を戦い、0ー3で敗れた。今季初先発の鈴木太陽(経・4年)が7回2失点の好投を見せるも、打線が2桁三振の散発2安打と抑え込まれ敗北。開幕以来4試合で1得点と冷え込む打線の着火が待たれる秋になりそうだ。(取材・清水央太郎、高倉仁美、丹羽美貴)
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野手としての活躍も嘱望される恵まれた体格に、140km/h台中盤に迫る速球。誰もが認める抜群の身体能力を誇り、2年秋から投打で出場機会を与えられながらも、首脳陣の期待通りの活躍は見せられなかった鈴木。そんな彼も、今季が泣いても笑ってもラストシーズン。内に秘めた部内屈指の能力と悔しさは、今季大敗が続く東大野球部が反転攻勢を見せる上で、きっとこれ以上ない起爆剤になる。諦めの悪い首脳陣、そしてファンの期待を一身に背負い、試練の山場、神宮の先発マウンドに登った。
そんな鈴木は、初回から「らしさ」全開の投球を見せる威力抜群の 速球を全面に押し出し、二つの四球を与えながらも、2奪三振で無失点。荒削りながらも豪快な投球で、スタンドを魅了する「鈴木劇場」の幕が開いた合図だった。
二回表、ここから「鈴木劇場」はいつもと少し違った展開を見せる。得点圏に走者を背負いながらも、落ち着いてゴロ三つで無失点。打って変わって次の回はフライアウト三つで三者凡退。さらに三回表には、自らのバットでチーム初安打を記録。犠打の失敗もあり得点にはつながらなかったものの、脚本は「二刀流開眼」というハッピーエンドを予感させた。
武器である速球に加え、緩急のある投球術も光った鈴木(撮影・清水央太郎)
だが物語はそう単純には進まない。四回表、2死一塁から本塁打を浴び失点。さらに五回にはリーグで一、二を争う韋駄天・飯森に出塁を許す。武器である直球の威力が落ち始める試合中盤、失点が続くとも思われたが、この日の鈴木はここからも一味違った。冷静なマウンドさばきを見せると、意表を突く牽制でスリーアウト。ここまで見せてこなかった引き出しで、修羅場を切り抜けた。
勢いそのままに、物語はクライマックスに突入。六、七回を立て続けに三者凡退に抑えると、終わってみれば7回自責点2の会心のパフォーマンスを見せ、清々しい顔で降板。それは、鈴木が「未完の大器」、「晩成型」といったデビュー以来2年間付きまとった二つ名から解放された瞬間。そして「大器晩成型の逸材の覚醒」という、4年間続いた「鈴木劇場」が完結した瞬間でもあった。
熱投でチームに希望を与えた鈴木。チームも続けるか(撮影・清水央太郎)
一方打線は五回、八回に走者を出すがいずれも走塁死で二塁を踏めず。試合も八回に1点を失い、0ー3で敗れた。これで今季は4連敗となったものの、開幕から続いた連続2桁失点はストップ。4試合で1得点と沈黙が続く打線の調子は気になるが、週末に東大ナインが神宮で紡ぐ「東大劇場」はまだ始まって2週目。この日の鈴木の熱投は、中盤以降に東大が見せる怒涛の逆襲展開の「伏線」になるはずだ。