全体を眺めてみると、IOCの決定により、ロシア選手の多くが出場停止処分を受けていることがまず非常に大きな影響を与えると考えられる。例えば女子棒高跳びの世界記録保持者であるエレーナ・イシンバエワ(34)は、世界選手権で金3銅1、五輪で金2、銅1のメダルを獲得した実力者であるが、正式にロシア選手団が出場停止になったことを受け、出場を断念した。彼女の他にも現役の世界トップクラス選手が多数存在している中で、この決定がどのように作用してくるのだろうか。
日本選手団に話を移すと、今回は全体的にフレッシュなメンバーが揃い、また(世界選手権含め)初出場の選手も多い。経験値に関していえばベテランには劣るかもしれないが、その分いい意味で予想を裏切るパフォーマンスを見せてくれるかもしれない。今回は日本選手団の中で、注目すべき選手をピックアップしてみた。
まず注目したいのは男子短距離である。100mでの9秒台突入への期待ばかりが注目されがちだが、全体的な実力自体を見ても、格段に底上げされていると言える。100mでは桐生祥秀(19=東洋大)、山縣亮太(24=セイコーホールディングス)、ケンブリッジ飛鳥(23=ドーム)がそれぞれ非常にハイレベルな自己記録を有している。3者共9秒台への手ごたえは既に持っており、レース展開や番組編成次第では決勝進出も可能だ。また200mでも、飯塚翔太(25=ミズノ)、藤光謙司(30=ゼンリン)、高瀬慧(27=富士通)がそれぞれ日本歴代2位&3位&4位の自己記録を有し、過去最高レベルの代表だと言えるだろう。また同時にこれは、400mリレーのメンバーもかつてないほどの高水準であることを示している。2008年の北京大会以来2回目のメダル獲得も十分狙うことができる(参考までに、代表選手団内で上位4名の合計タイムは北京の時のそれを凌駕している) 。
実力派が揃うのは何といっても男子競歩である。20km競歩の世界記録保持者、鈴木雄介(28=富士通)は故障の影響で残念ながら代表入りを逃したが、入賞やメダルに絡んできそうな選手ばかりだ。20kmでは元日本記録保持者の高橋英輝(23=富士通)、学生チャンピオンの松永大介(21=東洋大)、ロンドン五輪代表の藤沢勇(28=ALSOK)。50kmでは昨年の世界選手権銅メダルを獲得した谷井孝行(33=自衛隊体育学校)、それに次ぐ4位入賞を果たした荒井広宙(28=自衛隊体育学校)、世界選手権入賞経験もある森岡紘一郎(31=富士通)が出場する。非常に過酷な競技であり、当日のコンディショニング能力がモノをいう競歩。逆に言えば番狂わせも起こりやすく、どれだけ「巧く」レースメイクが出来るかが鍵である。
次に長距離。男子では日本選手権5000m、10000mの2冠を達成した大迫傑(25=ナイキ・オレゴンプロジェクト)の入賞に期待したい。2015年世界選手権では決勝進出まで1秒と迫った。女子長距離では鈴木亜由子(24=日本郵政グループ)が、昨年世界選手権女子5000mで0”29差で9位と敗れたリベンジを誓う。彼女も5000m、10000mの2種目に出場する。マラソンは女子がメダル争いに関われる可能性がある。前回の世界選手権7位入賞の伊藤舞、前々回のモスクワ世界選手権銅メダルの福士加代子(34=ワコール)等、実力は十分である。
フィールドに目を移すと、男女やり投の新井涼平(25=スズキ浜松AC)&海老原有希(30=スズキ浜松AC)のスズキ浜松ACコンビにも注目したい。新井は日本歴代2位の86m83の自己記録を持ち、昨年の世界選手権では決勝進出こそ逃したものの、その差はわずか6cm。年を重ねるごとに高いレベルで安定した記録を出しており、ハマれば決勝進出はもとより、メダル獲得も現実味を帯びてくる。海老原は女子やり投の日本記録保持者でもあり、世界大会でのチャレンジは毎回「あと少し」で足踏みしているだけに大舞台でしっかりと実力を発揮したいところだ。
跳躍種目は入賞ラインにはもう一声必要なものの、今季は様々な方面で活気づいている。今年の一気に盛況になったのは、何といっても男子三段跳であろう。長谷川大悟(26=日立ICT)が今季五輪標準を一番乗りで突破すると、5月の関東学生陸上選手権大会で大学生の山下航平(21=筑波大)が標準記録ピタリで優勝をかっさらい対抗馬に。日本選手権ではなんとそのどちらでもない選手が優勝したが、近年稀に見るハイレベル決戦であった。長谷川が日本選手権で内定、山下が追加召集で代表入りした。また男子棒高跳にも注目したい。山本聖途(24=トヨタ自動車)はで入賞経験もあり、どこまで戦えるか。また今季復調し日本選手権優勝、土壇場で標準を突破したベテランの日本記録保持者澤野大地(35=富士通)の跳躍も見逃せない。女子走り幅跳の甲斐好美(23=VOLVER)の日本記録更新にも期待がかかる。ポテンシャル十分の大器が1発ハマれば、決勝ラインも見えてくるかもしれない。
東京大学運動会陸上運動部
松本大樹(副将)
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