3Dプリンタブームで、誰もがクリエイターになれる時代が近づきつつある。そんな中、「モノ作りの民主化」を起こそうとしているのが、東京大学大学院、博報堂を経てカブク株式会社を設立した稲田雅彦さん。3Dプリンタ技術を活用したものづくりマーケット「rinkak」について、話を聞いた。
−−−今の会社の事業内容を教えて下さい。
「モノ作りの民主化へ」というビジョンを実現するため、3Dプリンタをツールにした個人向けものづくりマーケット「rinkak」を運営しています。クリエイターの方が、1品からでも出品できるプラットフォームです。
今までの製造業では、まず金型を製造してから製品を製造する必要がありました。結果として、ミニマムのロットが数千、初期投資が最低でも3000万円からといった状態で、ハードルが非常に高かった。
そこで、金型製造と実際の製品製造を3Dプリンタに置き換えることによって、1個からでも「モノ作り」ができるようなります。受注に合わせて製造すればよいので、在庫を抱える必要もない。1ロットから、1クリックで、在庫リスクを持たず、製造・発想・販売までできるプラットフォームを目指しています。
−−−具体的な商品を見せていただけますか?
商品をクリックすると、その商品の3D画像が見ることができます。
「PENGUINCAT (TDW_1903)」TDWフィギュアシリーズ
出品も非常に簡単で、データをアップロードし、素材を決めることで、価格設定まで簡単に行えます。
−−−3Dプリンタを活用したビジネスはさかんなのでしょうか?
例えば、Googleは、スマートフォンの廉価版普及に向けて、3Dプリンタを活用した自作スマートフォンのプロジェクトに取り組んでいます。イーロン・マスク率いるSPACE Xでは、ロケット開発に3Dプリンタを既に活用しています。また、電子回路もプリント製造が可能になると、さまざまな産業への活用が見込まれています。
−−−他にはどういった事業をされているのでしょうか?
法人向けのサービスにも取り組んでいます。カルピスさんの「オアシス銅像ファクトリー」というキャンペーンで、3Dプリントを使ったエンジンや製造・販売の部分を担当しました。このキャンペーンでは、顔写真をWebカメラで撮影するかアップロードすると、選択した銅像にアップした顔写真を貼り付けたオリジナル銅像が作れるというサービスです。完成した3D銅像データのダイレクト3Dプリント機能をご提供しています。
−−−学生時代、また博報堂ではどういったことをされていたのでしょうか?
大学院では工学研究科電気系工学専攻の伊庭研究室で、人工知能の研究をしていました。その頃から、技術だけでなくUI/UXといったサービスの設計にも興味を持っていました。今でもIDEOやフロッグデザインといったデザインコンサルティング会社には強い興味があります。ただ、研究だとそういった実用的な設計まで取り組みづらい部分もあり、就職の道を選びました。
博報堂では、クリエイティブ・プランニングの仕事をした後、クライアントの新規事業開発のお手伝いをしていました。CM作りにも携わっていましたが、どちらかと言えばサービス開発の方がメインの仕事でしたね。
−−−そこから、起業に踏み切ったきっかけは何かあるのでしょうか?
博報堂時代に、足立(現 カブク取締役CTO)と知り合ったことが大きいです。もともと彼は日立製作所で研究開発に携わっていました。Androidアプリの「Simeji」を開発し、GoogleのAndroidエキスパートにも認定されています。
彼と、「モノ作りの民主化へ」というビジョンの下、ふつうの人が簡単にモノを作れる世の中にしたいと思い、起業に踏み切りました。
−−−「モノ作り」に興味をもったきっかけは?
もともと学生時代は電子工学をやっていたこともあり、ハードとソフト、両方に興味を持っていました。「モノ作り」をしていて感じたのは、自分のためにプロトタイプ1個作るのは簡単ですが、これを1000個作ろうとするとかなり大変ということ。
そんな時、Kickstarterが登場して、簡単に「モノ作り」できる環境が整い始め、非常にワクワクしたのを覚えています。
−−−現在の事業の課題は何でしょう?
サービスの設計より運用が大変です。日々、試行錯誤しながら、よりよいマーケット作りを目指しています。
日々の仕事のハードさは、博報堂時代と変わっていません(笑)。博報堂時代は、新規事業開発をサポートしていましたが、今はゼロから作り上げ、さらに運用まで自分でやる点が新しいですね。
−−−将来の展望を教えて下さい。
デジタルモノ作りで、スター選手・将来のSONYやパナソニックを作っていきたいです。
ソーシャルゲームがあれだけ成功したのも、しっかりとしたエコシステムを作ることができたからでしょう。「モノ作り」の分野でも、クリエイターが活躍できるエコシステムを作る必要があると思っています。
−−−東大生へのメッセージをお願いします。
「タフでグローバル」が求められる東大生は、リスクを取れるタフさを持っていると思います。まだ働いていていないわけですから、何かにチャレンジすることは、全くリスクではない。むしろ、やらないリスクの方が大きいと思います。ぜひ、リスクをとって、タフにチャレンジしていってほしいです。
(取材・文 オンライン編集部 荒川拓)