インタビュー

2016年2月28日

現場の課題を見つけ、問いを作る力を身につけるには。 リディラバ 安部敏樹さん3

 「リディラバの中で人間が成長する瞬間が見られるのは嬉しいし、面白いなと思います。スタディツアーや企画した修学旅行で子どもたちが変わっていくのも興味深い。リディラバに参加する学生も、活動を通してすごく変わっていきます」

 東大教養学部で行われた全学体験ゼミ「ソーシャルビジネスのためのチームビルディング」。学生を指導したのは、ゼミの開始当時24歳という若さだった安部敏樹さんだ。安部さんは「一般社団法人リディラバ」の代表として、「社会の無関心を打破する」を理念に、社会課題に取り組んできた。

 インタビュー第3回では、

・これまでのソーシャルビジネスの課題

・大企業や官公庁での人材育成の問題点

・リディラバの今後の展望

について聞いた。1時間半にわたってノンストップで話す安部さんの勢いに、記者は終始圧倒されっぱなしだった。

(リディラバの詳しい活動はこちらをご覧ください。http://ridilover.jp/ )

 

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この記事は、

第1回:ノブレス・オブリージュだけでは社会課題は解決できない リディラバ安部敏樹さん1

第2回:日本の教育格差における本当の問題は「体験の格差」 リディラバ安部敏樹さん2

の続きです。

 

――やりがいを感じるのはどんなときですか?

 他人の評価にはあんまり興味がないんです。リディラバの中で人間が成長する瞬間が見られるのは嬉しいし、面白いなと思います。スタディツアーや企画した修学旅行で子どもたちが変わっていくのも興味深い。リディラバに参加する学生も、活動を通してすごく変わっていきます。彼らは、社会を変えるための一歩一歩がいかに泥臭く、いかに葛藤にあふれていて、いかに非合理的なものなのかが感じられるんじゃないかな。

 

――社会的起業への関心の高まりをどう思いますか?

 全体としてはすごくいいと思う。僕らが企画・運営している社会的起業に特化した起業家カンファレンス「R-SIC」ももう3年目。かつてソーシャルビジネスといえば、「共感をもとにした抽象論」の話ばっかりだったのが、もっとナマの社会的起業について議論できるようになったし、課題設定のレベルもより深くなってきました。

 

 もちろん、感情による共感は大事なんだけど、もっとマクロ的に見て、社会にとって必要なものは何かを考えて、社会を変える一歩としてソーシャルビジネスを作ることが、東大生ならできるんじゃないかな。定量的な分析や、事実(ファクト)をもとにしたビジネスをやる素地はあるはずなんだよ。それに気づいてもらう機会になればと思って、東大でのゼミを引き受けたんだ。志がある人に、どうすれば社会に最もインパクト与えられるかというのを考えてもらいたかった。

 

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――官公庁や大企業だとどうしてそれができないのでしょうか

 日本の官公庁や大企業からリディラバに転職してきた人を見て思うのは、大企業や官公庁では、業務は習うんだけど、能力開発はあまりされないんだよね。研修はあっても、組織で役に立つ「作法」ばっかり習って、肝心なことは身についていない。例えば、基本的なコンセプトを考えるとか、企画を作るとか、ディスカッションとかはあまり訓練されていないんです。この本(『いつかリーダーになる君たちへ 東大人気講義チームビルディングのレッスン』)にはそういった能力の基礎的なことについても書かれています。

 

 あと、大企業や官公庁では、既存のものをどう引き継いでミス無くやるかっていうのが大事だから、ゼロから事業を作る訓練はやらない。だから今、大企業や官公庁が研修でうちのやり方を学ぼうとするんでしょうね。

 

――問いを作る力はどうすれば身に付くんですか?

 フレームワークを学べばすぐできるものではないから、社会の現場で実践することかな。自分で実際にプロジェクトを立ち上げたりしなくても、課題解決が学べるような教育システムを作りたいという気持ちはあります。

 

 リディラバのスタディツアーは、そういうつもりで作っています。まず「現場の課題は何か」という問いを作らないといけない。そして、見積もり作って小さく黒字を出してく。社会課題の現場の葛藤を尊重して、それを人々に伝えていくことを訓練としてやっているわけです。

 

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 渋谷の商業ビルを立て替える際に、地主さんたちがコンセプトをまとめるのを手伝ったことがあります。合意形成のプロセスをデザインして、そのためのツアーを組んで、参加者に共通体験を積み重ねてもらいながら、ディスカッションで合意形成する過程ではファシリテーターを担いました。

 

 こういったことは誰もやっていないけど、事業になるんですよ。当事者は、何がだめでコンセプト作りがうまくいかないのかわからなかった。つまり、課題設定ができてなかったんです。だから、そこを我々がお手伝いした。

 

 今後は、タウンミーティングなどで、過疎の村が自治体を解散させるような場合に、合意形成のプロセスに関わることもビジネスになってくる。それは人間の感情に寄り添う仕事だから、数字が云々って言ってるだけじゃできないよね。

 

 今まで社会課題の現場で、当事者の意思決定にも立ち会ってきたし、それをマニュアル化もしてきた。そういったことが、コモディティ化しない専門性を作るということだと思う。

 

 リディラバは、現場の課題からスタートしている。そういうところにコミットするのは、「自分が納得しないと前に進めない人」だったりします。それって、ある意味理屈っぽいし、ちょっとひねくれた奴かもしれない。そういう人を受け入れるために、リディラバのような組織を作っているともいえる。そういう人たちとも一緒に、社会を変えたいですね。

(取材:須田英太郎、日高夏希 文:須田英太郎)

 

第1回:ノブレス・オブリージュだけでは社会課題は解決できない リディラバ安部敏樹さん1

第2回:日本の教育格差における本当の問題は「体験の格差」 リディラバ安部敏樹さん2

 

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安部敏樹さん

1987年生まれ。東大在学中に「リディラバ」を設立。教養学部で行ったゼミをまとめた著書『いつかリーダーになる君たちへ 東大人気講義チームビルディングのレッスン』が2015年12月11日に発売された。

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