「僕は別に真面目な人間というわけじゃなくて、社会のために良いことをしようと思ってリディラバをやっているわけでもない。ただ、この現状を受け入れるわけにはいかないから、社会に対してアクションを起こそうとしている。腹が立つから、変えようとしているんです」
東大教養学部で行われた全学体験ゼミ「ソーシャルビジネスのためのチームビルディング」。このゼミで学生を指導したのは、ゼミの開始当時24歳という若さだった安部敏樹さんだ。安部さんは「一般社団法人リディラバ」の代表として、「社会の無関心を打破する」を理念に、社会課題に取り組んできた。
インタビュー第2回では、
・日本の教育格差での最大の問題は「体験の格差」
・社会課題を解決するために必要なビジネスの視点
・良いことをしたいのではなく、社会がムカつくから変えたい
ということについて聞いた。1時間半にわたってノンストップで話す安部さんの勢いに、記者は終始圧倒されっぱなしだった。
(リディラバの詳しい活動はこちらをご覧ください。http://ridilover.jp/)
日本の教育格差における本当の問題は「体験の格差」
東大に入ってくる人は、体験が「画一化」してしまっているよね。中高生のときにみんな同じような体験をしているんです。それは、進学校で学習の効率が追求されたせいかもしれない。体験が乏しい人って、それっぽいこと言ってるんだけど、抽象論・一般論でしかなくて、人をなかなか巻き込めないんです。
優秀で、問題を解くのは速くても、自分で問題を作るのは下手な人は多い。社会に出たら、自分で問題を作る力のほうが大事ですよ。東大生にかぎらず、「課題設定能力」が劣ってるのを変えたいと思っています。子供のうちからそういう力を育てるために、リディラバとして修学旅行や体験学習を企画しています。
「体験格差」が生まれていることについて問題意識を持っています。体験って、お金がかかるんだよね。東京の私立校出身の学生は、まあまあ親も裕福だし理解があるから、いろんな体験させてもらっているわけ。でも地方の公立校でガリ勉だけしてきた学生は、同じ偏差値でもそこらへんはやっぱり不利。体験への投資がされていないんですね。
体験格差は、これからもさらに広がっていくでしょう。だからその格差を埋めるための試みを、学校教育にもちゃんと導入していきたい。体験することで、勉強にもよい影響がありますよね。
――体験がないと社会課題にも関心が持てないのかもしれません
フランスのテロ事件が起きたとき、メディアで見てどれだけの人が当事者意識を持てたでしょうか。自分にとって身近ではないものに当事者意識を持たせるのは、本来ジャーナリズムや教育がやるべきことだけども、今それがうまくいっていない。
人間の関心というのは限られている。関心というのは時間に換算することができて、新聞の社会面を読んだりテレビのニュースを見たりするのに、その人が1日15分を使うとすると、多くのNPOや社会的な活動をしてる人は、その15分のパイを奪い合うことになる。でも、テロや災害が起きたら、そのパイはすぐになくなってしまう。大事なのは、15分をどうやって150分にするかということなんです。
リディラバを始めるとき、「まとまった時間を使ってもらって、かつ社会課題の現場に連れていけるってなると、旅行だね」ということで、スタディツアーをやることになりました。
――親は子どもにどういう体験をさせればいいでしょうか?
例えば何か親と一緒に体験したときに、親が「これどう思う?」って問いかけをすることが大事。ただ体験するだけではだめで、学びに落とすっていう意図がないと。
地方には確かに自然はありますよ。でも、その自然と都会を比較するような問いを投げてくれる大人はいるのか。どんな体験をしても、それを別のものと比較して考えさせてくれる機会がいないと意味がないんです。
人間は生きてるんだから、何かしら体験しますよ。ただその体験に対して、意味づけをし、考える機会を提供してくれる人っていうのは、地方には少ない。その格差は、目に見えないからこそ、どんどん広がっている。体験による学びを深めてくれる機会の格差はすごく大きな問題で、教育の中にあっちゃいけない不平等だよね。
人間は、自分の身体とその外部とのインタラクションを通して実感知を深めるわけですね。テレビやPCの画面だけじゃ、その身体性が弱いんですよ。強い身体性のあるメディアとなると、旅行などで現場に行くことだよね。リディラバのツアーは、ただ連れてくだけじゃなくて学びとしてデザインしています。
スタディツアーをソーシャルメディアに
だれでも自分の関心に合わせてスタディツアーを作れるようにするのがリディラバの最初の取り組みでした。僕らはメディアとして旅行をとらえているんだけど、人生が変わるのって、テレビで見ることじゃなくて、現場に行って、実体験として当事者意識を持つことで起こるものでしょう。
だから、スタディツアーを“ソーシャルメディア”にしたいと思った。自分の問題意識を相手に伝えるには、口で言うより現場に連れて行った方が早い。リサーチをして、現場で学ぶ体験と、その参加者からの反応も含めてツアーを作る。そういうツアーを誰でも作れるようにしましょうというのがリディラバの原点なわけです。
ソーシャルビジネスで、ちゃんと給料をもらう
――日本で社会課題に取り組むのは「ボランティア」「慈善活動」というイメージですよね
リディラバでは雇用してスタッフとしてフルタイムで働いてもらうこともあります。ボランティアでも雇用でも、どっちでもいいんです。目的はあくまでも課題の解決であって、そのためのオプションのひとつとして雇用がある。
ボランティアで強くコミットしてくれている人というのは、理念に共感してくれているわけです。そうした人を誇りに思うし、とても感謝している。だからこそ、価値ある時間や学びを提供したい。でも、ボランティアだからってなあなあでやっていると、サロンみたいになっちゃう。課題の解決ではなく居場所を提供することが目的だったら、本末転倒じゃないですか。
ボランティアと雇用では、どっちがえらいとかもないんです。例えばイベントを運営するならボランティアがいいかもしれないけど、5年のスパンでノウハウを蓄積することを考えたら、雇用したほうがいいかもしれない。
マーケット全体で見ると、こういうソーシャルイシューのために働く選択肢があるんだ、ということを認知させないと、本当に優秀な人はやってこないでしょう。
リディラバには、大手企業から転職してくる人たちもいます。理念に共感したからといっても、人は無償で働けるほど「ノブレス」にはなれない。だからこそ、ちゃんと働ける場所を提供して、ちゃんと給料も払う。社会を変えるという難しい仕事してるんだから、理想をいえば、上場企業並に出してもいいぐらいですよ。
今はそこまでは給料を払えていないけれども、普通のNPOと比べたらずいぶん出しているとは思う。そういう方針を持っていることが、自分たち自身と、ソーシャルイシューを扱っている団体へのメッセージでもある。
良いことをしたいのではない。社会がムカつくから変えたい
――社会課題に取り組むことがかっこわるい と思われがちなのを変えるには?
学校には、「真面目なことをやるのはかっこわるい」という雰囲気があるよね。後ろ指さされちゃう。そうじゃないよねっていうロールモデルも提供していきたいんです。
子どもを変えるには、評価の基準と環境を変える必要がある。子どもってすごく周りのこと見て、自分の行動を抑制しているわけですよ。一生懸命やるのを促す環境を作ることと、それを評価することが大切。
僕は別に真面目な人間というわけじゃなくて、社会のために良いことをしようと思ってリディラバをやっているわけでもない。ただ、この現状を受け入れるわけにはいかないから、社会に対してアクションを起こそうとしている。腹が立つから、変えようとしているんです。
自分がやろうとしていることを、きれいごとだと思われたくない。仕事って泥臭いものですよ。それは、社会貢献だってそうです。人は善意だけじゃ踏ん張れない。怒りとか、コンプレックスとか、ちょっとエゴイスティックな気持ちが、仕事の土俵際で踏ん張る力になる。リディラバでたくさんの人を見て、そう思います。
第1回:ノブレス・オブリージュだけでは社会課題は解決できない リディラバ安部敏樹さん1
第3回:現場の課題を見つけ、問いを作る力を身につけるには。 リディラバ 安部敏樹さん3
安部敏樹さん
1987年生まれ。東大在学中に「リディラバ」を設立。教養学部で行ったゼミをまとめた著書『いつかリーダーになる君たちへ 東大人気講義チームビルディングのレッスン』が12月11日に発売となる。