2月28日(日)、青空の下、真っ青なTシャツを着た7人組が東京の街を駈け抜けた。「難民かけはしプロジェクト」のランナーたちだ。
先週の記事(東大生が東京マラソンを駈ける!世界の難民のため、難民の背景を持つ学生とともに)でお伝えした、東京マラソン2016に、難民問題に関心を持つ学生と、難民というバックグラウンドを持った学生がチャリティランナー制度を利用して挑戦し、難民問題への関心を広め、ファンドレイジングをするという「難民かけはしプロジェクト」。出場したランナーの7人全員が、42.195kmを走りきった。
インドシナ難民二世というバックグラウンドを持つ学生ランナーであるアンさんに、フルマラソンを走り終えた今の思いを聞いた。
(聞き手:川畑真帆(難民かけはしプロジェクトメンバー、東京大学法学部3年))
-アンさん、完走おめでとうございます!
アン:ありがとうございます!
-アンさんは、インドシナ難民二世ということですが、それについて詳しく教えてもらえますか?
アン:僕はベトナム難民(インドシナ難民)二世です。僕の父は、ベトナム戦争後に難民として日本に避難してきました。その後ベトナムから母を呼び寄せ、生まれたのが僕です。
-今回はなぜ「難民かけはしプロジェクト」で東京マラソンを走ろうと思ったのですか?
アン:大学へ進学してから、勉強とアルバイトづけの毎日で、これだけでいいのだろうかという思いがありました。そんなときにこのプロジェクトの募集を目にして、これだ!と考えました。今までとは違う挑戦をしてお世話になった方々への恩返しをしたい、同じ境遇の子どもたちに勇気と元気を与えたい、という思いで応募を決めました。
-お世話になった方々というのは?
アン:僕が小学生のころから通っている、城東町補習教室(通称センター)の、金川先生をはじめとする先生方のことです。センターは、日本語や教科の学習が無償でできる場所で、ベトナム人の子ども達の心のよりどころとなってきた場所でした。そこで進路について先生方に相談したり、勉強を教えてもらったりしていました。大学受験も、金川先生に言われてきた「努力は必ず報われる」という言葉を胸にコツコツ頑張り、関西学院大学に進学することができました。
今回は、お世話になった皆さんに、マラソンを走る姿、がんばって生きる姿を見ていただくことで少しでも恩返しがしたいという思いがありました。
-素敵ですね。今もセンターには行っているんですか?
アン:今はセンターでボランティアとして子どもたちに勉強を教えています。後輩たちに学ぶことの大切さを知ってもらい、「努力は必ず報われる」ということを伝えるためです。
マラソンを完走することで、僕と同じ立場にある難民の子どもたちに、努力は必ず報われることを伝え、勇気と元気を持ってもらいたい、彼らの道しるべになりたい!という思いも持って走りました。
-走り終えてみて、今の気持ちはどうですか?
アン:完走できて本当に嬉しく、ほっとしています。お世話になった先生たちに「完走できなかったら姫路に帰ってくるな」と冗談で言われていたのですが、これで胸を張って姫路に帰れます(笑)
-走っている間はどんなことを考えていましたか?
アン:途中で、走るのがどうしても辛くなってしまいました。その時、お世話になっていた金川先生に電話したんです。そうしたら、先生が「アン、頑張ってるやん、いけるいける!」と励ましてくださって。それで元気が出て、頑張ることができました。
-一人で走るのではなくプロジェクトのメンバーと一緒に走って良かったことはありますか?
アン:一人では完走できなかったと思います。最後のほうは、共同代表の金井くんがずっと隣で声をかけながら走ってくれたので、ゴールまでなんとか気持ちを保って、諦めずに走りきることができました。また、ペース配分をしっかりしてくれるメンバーがいたので、走りやすかったですね。
-沿道からの応援はいかがでしたか?
アン:プロジェクトのランナー以外のメンバーからの応援が本当に力になりました。5km、15km、30km、ゴール地点のそれぞれでみんなが応援してくれていたので、会うたびに元気になりましたし、応援地点の間も「あと〇kmでみんなに会える」と思うことで頑張ることができました。
声援だけでなく、食べ物や飲み物を渡してくれたり、替えの靴下を渡してくれたり、全面的にサポートしてくれたのもとてもありがたかったです。
-アンさん自身の頑張りと、周りの人たちの応援とが、完走につながったんですね!
アン:まずは完走できて本当に良かったです。これからも、難民として異国で苦労している人々のために自分ができることをしていきたいと思います。
-アンさん、ありがとうございました!
(聞き手・文 川畑真帆、 写真は難民かけはしプロジェクト提供)