「食の豊かさの偏差値と勉強の偏差値は比例しない」。そう問題提起するのは、東大卒の食文化研究家スギアカツキさんだ。世界各地の食文化を研究しながら精力的に記事を執筆し、最近ではマルちゃんでおなじみのカップ麺QTTAのCM「国際スパイQ」に「コクを知る女」役で出演もしているスギアカツキさんに、今回は主体的に食事を選ぶこととは何なのか聞いてみた。(取材・丸山莉歩)
「何を食べたら正解」はない
東大生がよく持たれるイメージは、学力や頭脳労働のセンスに長ける反面、日常生活は苦手というもの。実際、食生活の主体性が東大生には不足しているのではないかとスギアカツキさんは指摘する。「例えば出されたものを食べるだけだとか。スーパーの惣菜コーナーを覗けば、もっと安くて美味しい天ぷらが調達できるのに、出来合いの天ぷら弁当をコンビニで買うのも受け身の姿勢ですよね。食生活において物理的・精神的な自立の精神が必要だと思うんです」
そこで提唱するのが「食のコーディネート力」という物差しだ。ここで注意すべきは、食のコーディネート力が高い状態とは、美味しく料理をして毎食栄養バランスの良い食事を取ると言うような、あらゆる人にとって一般に「理想的」とされる食事に拘泥することではない点だ。そうではなく、まずは健康に、ゆくゆくは生きがいとなる食のあり方を考えつつ、何よりも自分にとってより良い状態になれる食生活を主体的に演出できることである。「より良い」の定義は人それぞれである。「ある人にとっては栄養を十分に取ることかもしれない。それなら不足した野菜などを増やす努力が要るでしょう。好物を食べて気分が上がることかもしれないし、今ではなかなか難しいけれど、人との会食に食の価値を置く人がいたっていい」
記者はつけ麺が大好物で、週に1度は1人で近所のつけ麺屋を訪れる。健康にいいとは言えない習慣だが、いいのか聞くと「もちろんです」とスギアカツキさん。「惣菜でもインスタントでもいい。料理しなくちゃと決めつけないでください」。主体的に食事を選択し自分にとってより良い食事を目指した結果であるのなら節約もよし、豪遊もよし。何食か抜いても自分を責める必要はない。
食生活に全員共通の正解はなく、人生を通じて持つべき理想もなくていい。むしろ、「理想の食事」に拘泥せず選択肢をたくさん持つこと、経験することも重要だ。寂しい独り飯も経験。記者は、好物の砂肝をシェア用特大パックで買い、1人で食べきるのに苦心したことがある。これも経験だ。勉強はトレーニングと挫折の繰り返しだと実感している東大生は多いだろう。食生活も同じである。
さて、「食のコーディネート力」を上げるため企画したのが今回の「3000円チャレンジ」である。これは、3000円を持ってスーパーに行き、一人暮らしなら3日分の食事を計画して買ってみることである。大きなスーパーに行けばまず、1人用食材の充実に驚くはずだ。駒場Ⅰキャンパス近くの見慣れた「まいばすけっと」でも、目的を持って訪れれば新たな発見があるかもしれない。「オススメは夜です。値引き品が多く、達成感やコントロール感が成功体験になります。コンビニで買うより安くて美味しい食事を揃えてみてください」。さらにこの度、スギアカツキさんにお題を一つ考えてもらった。それは「一番の好物をリストの中に入れること」。このお題に沿って、早速3000円チャレンジに挑むことにした。
3000円チャレンジに挑戦
一人暮らしの編集部員にも協力を仰ぎ、2人で3000円チャレンジに挑戦。記者は家族と4人暮らしなので、買いに行った昼の食事から翌日の夜ご飯まで、1.5日分の食材の買い出しをした。以下、編集部員と記者自身の買い物リストだ。それぞれの「一番の好物」と、食事のメニューは何かを想像しながら見ていただきたい。
編集部員(22時に買い出し)のチャレンジ結果
から揚弁当(50%引き) ザ・チャーハン さけるチーズ 一平豚焼きそば くらし 絹美人 バラエティパック たまご醤油たれ レーズンロール あらびきポークのホットドッグ 豚こま切れ くらし良好焼そば 伊藤ハムベーコン(20%引き) 明治銀座カリー辛口 もやし×2 小松菜 ふぞろい生しいたけ 白菜1/4 ぶなしめじ 野菜一日これ一本 にんじん 1本 計 |
199円 378円 178円 108円 98円 138円 86円 138円 118円 280円 86円 174円 198円 58円 158円 75円 98円 75円 88円 45円 2998円 |
──好物枠はどれでしょう?
レーズンロールですね笑
──献立は焼そばとカレーとチャーハンといったところでしょうか?
買い出し当日の夜は具だくさんの味噌汁を作って、翌日の昼に焼きそば、夜にコンソメスープでも作ろうかなという感じです。冷凍チャーハンとカップそばも買ったんですけど、この3日で食べきれないかも……。レーズンロールは6個入りを昨日の朝と明日の朝でちまちま食べる算段です。
──感想をどうぞ
一人暮らしを始めて約1年、初めて電卓を叩きながら買い物をしました。何となく1週間分の食材を安価で揃えるいつもの感じとは異なり、一定の金額の中で何を料理し、何を食べると良いかを明確に意識しながら買う物を決められました。そのためか自炊もいつもより積極的に臨めた気がします。
記者(13時に買い出し)のチャレンジ結果
人参バラ チンゲン菜 根ショウガ ポンカン袋 辛口ビーフカレーパン 極みメロンパン 大盛り焼きそばパン キャラメルクイニーアマン 国産豚ローススライス(20%引き) 国産若鶏もも肉 砂肝塩焼き 冷凍さぬきうどん 北味つけ麺魚介豚骨 こくまろバターチキンカレー 計 |
58円 148円 128円 380円 120円 120円 140円 120円 551円 227円 198円 278円 198円 218円 3114円 |
「一番の好物」枠はつけ麺ではなく、砂肝塩焼きだ。実はこの数日前に未調理の砂肝を買い、下ごしらえの面倒さを味わっていたため、今回は調理済みにした。調理済みを食べてみたところ、味付けの調整ができる点は未調理の方がいいと感じた。
買い出し当日の夕食は生姜焼き丼、翌日はカレーを作った。家のカレーは普段辛めだが、自分のバイト代なら心置きなく甘口のルーを選べてうれしい。5玉入りのさぬきうどんは平日の昼にコツコツ消費するつもりだが、週末に家族4人で食べたら1食で無くなりそうだ。
3000円チャレンジは買う間も見せ合う瞬間も楽しく、必ず好物を買うので食べる際にも気分が上がる。読者の皆様も、#3000円チャレンジ とハッシュタグをつけてチャレンジの結果を見せ合っていただきたい。新たな発見があるはずだ。
※3000円チャレンジをSNSで共有するときは、レシートから個人情報が漏れないよう注意!
ご経歴
スギアカツキさん(食文化研究家)
東大農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学・栄養学・発酵学・微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究をはじめる。現在世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。