留学に行きたいと思いつつ、不安を抱いている人は多いだろう。そんなあなたにおすすめなのが、この企画「てるよしかねこのリアルタイム留学記」だ。2024年の秋から英国に1年間、現在進行形で留学をしている金子照由さん(24年3月東大工学部卒業)が、リアルな留学事情をお届けする。リアルタイムで留学に行っていることを生かし、本編とは別に読者から質問に答えるコーナーも設けた。過去の留学を振り返るのではない、フレッシュな記事をお楽しみいただきたい。(寄稿=金子照由、編集=安部道裕、写真は全て金子さん提供)
【前回の記事はこちら】
【連載第1回の記事はこちら】
日本を離れて1カ月、思い出すのはラーメンばかり
なんだか良い香りがする。ラーメンの匂いだ。「でも何で?」。そう思って辺りを見回すと、そこは見慣れた本郷の横浜家系ラーメンの店「家家家」だった。隣には日本の友人もいる。「お待たせしました」。ラーメンが運ばれてきた。がつんと香るニンニクが食欲をかき立てる。悪魔的に美味しそうだ…..。箸を割り、麺を持ち上げる。そして一口目を口に運ぼうとした瞬間、目が覚めた。そこはいつもの留学先の部屋だった。「なんだ夢か……。夢なら食べさせてくれよ……」。イギリスでの生活が始まって1カ月、日本食が恋しくて仕方がなくなってきた私にとっては何とも後味の悪い、いや、食べられなかったのだから後味すら「しない」夢であった。
さて、私の夢の話で初めてしまったが、今週はイギリスでの食事、特に大学での昼食事情について記事にしようと思う。ラーメンが食べられない夢にうなされるほど日本食が恋しくなってきた私が、料理がまずいことで有名なイギリスでどう凌(しの)いでいるか、皆さんにお見せする。
イートインは「危険」
昼食の選択肢は基本的には三つ。食堂で食べるか、テイクアウトするか、食べ物を持ってくるか、である。もちろん家でお弁当を作って持ってきたり、レストランに行って店内で食べたりすることも可能ではある。
しかし、朝から授業に出席しなければならない私に、早朝から弁当を作る余裕などない。また、資金的に余裕のない私にとって、イートインは「危険」なのである。なぜならイートインの場合、ほとんどの店で消費税に加えてサービス料を12.5%払わなければならないからだ。外食の価格はそもそも日本より高いため、例えばマクドナルドのハンバーガーはセットにすると10ポンド、日本円にして約2000円になる。ラーメンでも食べようとするものなら、一杯20ポンド(約4000円)はくだらない。そういうわけで、先ほどの三つの選択肢に絞られるのだ。それぞれ見ていこう。
大学の食堂は、一食4ポンド(約800円)ほど。メニューは日替わりが2、3種類あるのみで、ラザニアやトマト煮込みといったラインナップだ。学期が始まった当初は皆が食堂を利用していたのだが、その数は徐々に減り、今や誰も行こうとしない。理由はお察しの通りだ。例えばラザニアは、具材が少ないせいかあまり味がしない。お米もあるのだが、日本米のような粘り気があるお米ではなく軽くパラパラなお米で、あまり食べた気がしない。ある友達は「medical taste(病院食のよう)」と表現していた。
次はテイクアウトだ。先ほど説明したように、イートインは高くなりがちであるため、大学の近くで食事するのであればテイクアウトすることがほとんどである。私がよくテイクアウトするのは「Seoul Bakery」という韓国料理店のビビンバ(7ポンド・約1400円)、「Wasabi」という日本料理店のカツカレーとカツ焼きそば(4.5ポンド・約900円)、そしてメキシコ料理店「Chipotle Mexican Grill」のトルティーヤ(9ポンド・約1800円)である。
Seoul Bakeryでは日本米に似たお米を食べることができる。韓国料理店であるのに日本の風味を最も感じられる食事で、1番のお気に入りだ。Wasabiは日本料理店を名乗っているのだが、テイストはすこし日本と違う。お米はパラパラなお米で、焼きそばは少し甘い。しかし安さと日本語に惹かれて購入してしまうことが多い。最後のトルティーヤは毎週火曜日にみんなで買いに行くことが多い。火曜日の昼は2人買うと半額で食べられるからだ。スパイシーだが、とてもボリューミーで毎週楽しみにしている。
最後は、食べ物を持ってくる、という選択肢であるが、実は私はほとんどこれである。毎週末にりんごやバナナなどの果物をスーパーで買い溜め、昼食に持っていくことが多い。朝食にパスタを大盛りで食べているため、昼は果物だけでも問題がないと思っているのだ。しかし、友人にはとても心配される。特にインドの友人は無理矢理にでも彼らの昼ごはんを分けてくれようとする。初めの方は喜んでもらっていたのだが、最近は遠慮することが多い。というのも、スパイスが効きすぎて口に合わないのだ。エクアドル出身の友人が、インドの友人から昼ごはんをもらった結果、お腹を壊して発熱したくらいである。
「イギリスの食事はまずい」と言われるが、そこまで悪くないと私は思う。どちらかと言えば、日本の食事が食べられないことが私には大問題だ。日本料理屋に行ってもどこか違うし、物足りない。かと言って自分で作ろうにも、日本の食材や調味料は高くて買えない。日本食に飢えている私はその鬱憤を、ラーメンを作る動画を夜な夜な見ることで晴らしている。そのせいで、この前はラーメンの夢にうなされたのだ。「日本のご飯に勝るものはないから、海外には住めないな」。日本にいた時に、帰国子女の友人がそう言っていた。その意味が今ようやく分かった。
質問コーナー
ここからは読者から寄せられた質問に答えるコーナーになります。今回、寄せられた質問はこちら。
「錚々(そうそう)たる名門の大学院に合格されていますが、それらに合格できたのはなぜだと考えていますか? 学部時代にどのような事をしていたのかお聞きしたいです。」
回答:まず大学院の難易度は大学の名前よりも専門分野や志望先の教授によって大きく変わります。なので、明確に何をしていたということはないです。ただ、僕はとにかく建築が好きなので、勉強や設計を楽しんで頑張れるのは強みかもしれないです。あとギャップイヤーなく大学院留学をしたい東大の建築学生へのアドバイスになりますが、2年半しかないスケジュールで作品の質と量を満たすのは難しいので、コンペに参加したり、自主的に展示会などを開いたりすることで、積極的に作品をつくることをおすすめします。
◇
質問募集のフォームはこちらから。
質問だけでなく、ご意見・ご感想も募っております。たくさんのご質問・ご感想をお待ちしております。