留学に行きたいと思いつつ、不安を抱いている人は多いだろう。そんなあなたにおすすめなのが、この企画「てるよしかねこのリアルタイム留学記」だ。2024年の秋から英国に1年間、現在進行形で留学をしている金子照由さん(24年3月東大工学部卒業)が、リアルな留学事情をお届けする。リアルタイムで留学に行っていることを生かし、本編とは別に読者から質問に答えるコーナーも設けた。過去の留学を振り返るのではない、フレッシュな記事をお楽しみいただきたい。(寄稿=金子照由、編集=安部道裕、写真は全て金子さん提供)
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年末の過ごし方にカルチャーショック
新春到来、と言ってもまだまだ寒いこの季節。読者の方々は元気にお過ごしだろうか。さて、2025年第1回となる今回は、イギリスのクリスマス、お正月事情についてお伝えしたいと思う。というのも、ロンドンの年末の過ごし方は初めての私にとっては軽く衝撃だったのだ。
日本にいた時は、クリスマスはにぎやかな街に繰り出してイルミネーションを楽しんだりし、お正月は家族と家でゆっくり過ごす、というのが普通だった。ロンドンで迎える最初の年末もそのように過ごそうと思っていたのだが、それは叶わなかった。なぜならロンドンのクリスマス、お正月の様子は日本とは対照的だからだ。クリスマスには街は静まり返り、かと思えばお正月は花火やパーティーやらでどんちゃん騒ぎ。日本とは真逆だ。
前回の記事でも書いたかもしれないが、ロンドンは11月末からクリスマスムードで溢(あふ)れている。そのため私は、1カ月もの間「クリスマス当日はどこまで盛り上がるのだろうか」と思っていた。12月25日、いつもより早く起き、意気込んで支度をし、家を出てバス停に向かう。前日にクリスマスマーケットの場所も調べておいたから完璧だ。期待に胸を膨らませていながらバスを待った。しかし待てど暮らせどバスは来ない。いや、バスどころか車もほとんど走っていなかった。
これはおかしいと思い、ChatGPTに何故バスが来ないのか尋ねてみると「クリスマスの日にバスは動きません」。そこで初めて、ロンドンでバス・電車を含めた全ての公共交通機関がクリスマスの日は動かないこと、スーパーやコンビニなどのお店もほぼ全てが閉まっていることを知った。
結局その日はすぐ家に戻って七面鳥を調理することにした。実は前日にスーパーで大量に売られている七面鳥を目にして衝動買いしていたのだ。6ポンド(1200円)ほどで、一羽丸ごとの七面鳥が購入できた。調理は簡単で、売られている袋ごとオーブンで1時間焼き、その後30分ほど蒸らせば完成する。あらかじめ肉の中に入れられていたチキンブイヨンがオーブンで溶けて、肉汁とあわさる。そのスープにほぐしたお肉をつけて食べるのだが、これが本当に美味しい。こんなに街が静かなクリスマスは経験したことがなかったが、七面鳥のおかげで満足に過ごすことができた。
クリスマスを終え、一息ついているとすぐに大晦日になった。日本では鐘の音を聞いて静かに新年を迎えるのが典型的な/旧来的な過ごし方だと思うが、ドカンと花火で迎えるのがロンドン流だ。テムズ川沿いの花火大会は大変な人気で、チケットは3カ月前ほど前から予約できるのだが、瞬く間に売り切れてしまうくらい。私は幸運にもチケットを取ることはできていた。
12月31日、人で溢(あふ)れる街をぶらついた後、花火大会の会場へ向かった。テムズ川沿いの道路・橋を封鎖して花火大会は行われる。入場時間は8時からと、年越しの瞬間から4時間も前なのだが、スペースを確保するべく私は8時から入場した。中ではすでに争奪戦が始まっていた。やっとのことで場所を確保し、友人と座ってスマホで映画を観ながら待っていると、他の人に横入りされて、じわじわと場所が奪われていく。「スリのリスクが高いよ」とフラットメイトのイギリス人が言ってたのを思い出し、神経をすり減らしながら時間が経つのを待った。
年越しまであと20分のところで、立ち上がって周りを見てみた。道路は身動きが取れないほど人で溢(あふ)れ、みんな携帯をロンドンアイの方向に掲げて撮影の準備をしている。すると前の方で「Get Down, Get Down!(下げろ、下げろ)」という声が聞こえてきた。どうやら子供を肩車した人がいるらしく、そのせいでロンドンアイが見えなくなった後ろの客からブーイングが起こったのだ。段々、周りもブーイングに乗っかり騒がしくなってきた。こういう世知辛さはなんともロンドンらしい。思い返せば、バスでの乗客と運転手との喧嘩も日常茶飯事だった。最終的には親子は肩車を諦めたらしい。
そんな様子を見ていると、テムズ川沿いの電灯が消えていった。いよいよだ。カウントダウンが始まる。3、2、1、という掛け声の後、ビッグベンの鐘が鳴った。「Happy New Year!」と皆が叫ぶ。ロンドンアイのゴンドラ一つ一つから花火が発射され、地面からも打ち上げられる。先ほどの出来事で少し悲しくなった気持ちが吹き飛ぶほど、豪快で綺麗な花火だった。ふと視線を正面に戻すと、建物が花火に照らされている。花火も綺麗だが、花火色に染まるテムズ川沿いの建物はひと際美しかった。新年を祝う花火より建物の方に目を奪われた私は、やはり建築学生だった。
質問コーナー
ここからは読者から寄せられた質問に答えるコーナーになります。今回はお休みです。
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