留学に行きたいと思いつつ、不安を抱いている人は多いだろう。そんなあなたにおすすめなのが、この企画「てるよしかねこのリアルタイム留学記」だ。2024年の秋から英国に1年間、現在進行形で留学をしている金子照由さん(24年3月東大工学部卒業)が、リアルな留学事情をお届けする。リアルタイムで留学に行っていることを生かし、本編とは別に読者から質問に答えるコーナーも設けた。過去の留学を振り返るのではない、フレッシュな記事をお楽しみいただきたい。(寄稿=金子照由、編集=安部道裕、写真は全て金子さん提供)
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街を歩けばクリスマスソングが流れ、イルミネーションが輝く。そんなクリスマスムードの高まりと同時に、ようやく大学の1学期が終わった。東大では春学期・秋学期の2学期制だが、AAスクール(金子さんが留学している建築学校、Architectural Association School of Architecture)は3学期制である。そのため冬の長期休暇は東大より長く、約1カ月ほどある。
さて、2024年最後となる今回の記事では、私が取り組んだ設計課題を紹介させてもらおう。AAスクールの設計課題の内容は、東大とは大きく異なる。東大では基本的に意匠設計が課題とされるのに対し、AAスクールでは工学と意匠を結節点を模索するような設計が求められる。では一つ一つ課題を振り返っていこう。最後までお付き合いいただけると幸いだ。
一つ目の課題の発表は突然だった。入学後、最初の顔合わせで「来週の月曜日に、紙で高さ40cmほどの構造物をつくってこい」と言われたのだ。その言葉で、ロンドンを満喫する暇もなく設計課題が始まった。座学の授業でソフトの使い方や、アルゴリズム、力学、幾何学を習い、それをすぐに設計に応用しながら作品を制作しなければならなかった。
1週間後、講評が終わりホッとしていると、紙でつくった作品を木の板でつくる課題が出題された。「簡単だろ」と最初は思っていたが、これが本当に難しかった。木と紙では曲がりやすさなどの性質が全く異なるからだ。繊維方向を間違えて曲げるとバキバキに割れるし、紙のように折ることもできない。そこで、接合部を嵌合(かんごう)させるのではなく穴に差し込んで固定する方法に変えたり、木が曲がる限界の曲率を超えないように全体形状を再設計したりした。
その次の課題からはグループワークだった。最初は、前回と同じ課題を4人1組で2週間かけて行った。そこではコンピュータ上で設計・解析を行い、模型で実験をして、その結果をコンピュータでの設計に反映させて再度試す、という反復を4、5回繰り返して作品をつくっていった。
続いて、バイオミメティクス(生物模倣)の課題が始まった。各グループにお題として一つ生物が与えられ、その生物について自分たちで研究し、建築に応用する課題である。私たちのグループはドリアンだった。ドリアンは棘のシェルで有名だが、私たちのチームはその棘同士を結ぶ繊維に興味を持った。そうした下調べを基に、ドリアンの殻を鉄フレーム、繊維をグラスファイバーに置き換えて全体を構成した。
最後の課題では、気候や環境が生活するのには厳しい敷地を選び、その環境に人間が適応できるような建築もしくは構造物をつくることが要求された。私はインドとパキスタンの国境にある砂漠の村を選んだ。暑さと砂嵐が激しい地域で、暑いときには展開することで日陰を生み出し、風が強くなると折り畳んで風荷重に耐えられるような構造物を広場に設計した。
この学期を通して学んだのは、エンジニアリングの設計は、コンピュータやアルゴリズムに全てを任せるわけではないということだ。どの部分をアルゴリズムに任せて、どこに自分たちの意図を組み込むか、という棲み分けが大切だ。この設計のアプローチは私には新鮮だった。少し未来の建築のあり方、設計のあり方はいかなるものか。この学校はそれを追求するのにいい刺激で溢れている、そう感じた1学期だった。
質問コーナー
ここからは読者から寄せられた質問に答えるコーナーになります。今回の質問はこちら。
「東大になくてAAスクールにあるもの、または東大にあってAAスクールにはないものは何ですか」
回答:例えば設備が挙げられます。東大にも3Dプリンターやレーザーカッターがあると思いますが、AAスクールには東大の倍以上の数があり、大型のロボットアームも2台配置されていたりと、充実しています。他には建築模型の写真を撮るためのフォトスタジオが東大にはないですが、AAスクールにはあります。
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