キャンパスライフ

2024年10月23日

課題に追われる日々は英国でも変わらず 連載#3【てるよしかねこのリアルタイム留学記】

 

 留学に行きたいと思いつつ、不安を抱いている人は多いだろう。そんなあなたにおすすめなのが、この企画「てるよしかねこのリアルタイム留学記」だ。2024年の秋から英国に1年間、現在進行形で留学をしている金子照由さん(24年3月東大工学部卒業)が、リアルな留学事情をお届けする。

 

 リアルタイムで留学に行っていることを生かし、読者から質問に答えるコーナーも設けた。「留学先で住む場所はどうやって探したの?」といった金子さん自身への質問はもちろん「日本人留学生の印象ってどう?」といった質問も大歓迎。そういった質問には金子さんに「記者」となってもらい、留学先の誰かにインタビューして回答してもらう。過去の留学を振り返るのではない、フレッシュな記事をお楽しみいただきたい。(寄稿=金子照由、編集=安部道裕、写真は全て金子さん提供)

 

【前回の記事はこちら】

英国で最初に学んだのはラテンのノリ!? 連載#2【てるよしかねこのリアルタイム留学記】

 

【連載第1回の記事はこちら】

テムズ川南岸「人種のるつぼ」で暮らしが始まる 連載#1【てるよしかねこのリアルタイム留学記】

 

授業や課題に追われる日々はイギリスでも変わらず

 

 イギリスについて3週間。イントロダクションウィークを経て、ついに大学の授業が始まった。私のコースでは毎日、朝の10時から座学の講義が始まる。そのため朝の支度や通学にかかる時間を考慮すると7時半には起きねばならない。「いや、無理だろ」と最初は思っていたのだが、心配は無用だった。なんと出欠に何日か連続で遅刻すると、学生ビザが失効するらしいのだ。恐ろしいシステムにより、半ば強制的に寝坊できない仕組みになっている。

 

平均的な平日1日のタイムスケジュール。授業がみっちりと入っており、夜9時ごろまで大学にいることが多い
平均的な平日1日のタイムスケジュール。授業がみっちりと入っており、夜9時ごろまで大学にいることが多い(資料・金子照由)

 

 昼食休憩を挟んで講義は午後4時まで続く。日本の大学のように1日にいろいろな授業があるわけではなく、AAスクールでは、1人の教員が1日中同じ科目の授業をし続けるスタイルだ。そのため集中講義を受けているような感覚である。設計もその日授業をした教員が担当する。曜日が変わればまた違う先生が授業や設計の指導をする。日本とは異なる新鮮な授業形態である。

 

 座学の後は設計課題に取り組む。私のコースは、数理的なアルゴリズムやコンピュータによる計算の力を借りて設計を行う「コンピュテーショナルデザイン」を専門としている。そのため設計課題も少し特殊だ。

 

設計課題の説明会。ところどころに置いてあるのは、先輩たちが過去につくった力作の模型たちだ

 

 最初の週は「有機的な形状を持つ構造体を1枚の合板からつくる」という課題であった。1週間という短い期間の中で、3Dモデルの作成、部材寸法の計算、合板の物性実験、模型の作成までを行ったため、とにかく多忙な1週間だった。

 

 講評会は3人の講師の前で発表し、その後ディスカッションを行う形式。私はまだ自分の英語力に不安があったため、発表内容を記したメモを準備していた。しかし、講師の1人から「メモは捨てなさい」と指摘されてしまった。ぎくりとしたが「こうなるかもしれない」という予知夢的な不安感から発表内容を覚えていたため、緊張しつつも発表は終えることができた。

 

 ディスカッションを始める前に、メモを捨てるようにと言った講師は「これは会話なんだからさ」と言った。その言葉に私は「そうだよな、会話なんだからメモは要らないよな」と気付かされた。軽くなった気持ちでディスカッションに望むことができ、最後には「素晴らしい。写真をきれいに撮っておきなさい」と好評を得ることができた。

 

最初の設計課題で作成した模型。アーチ状に曲げた部材とX字型に切り出した部材をかみ合わせた構造をつくった
最初の設計課題で作成した模型。アーチ状に曲げた部材とX字型に切り出した部材をかみ合わせた構造をつくった

 

 授業と課題に追われる地獄のような1週間なだけに、金曜日の夜はみんなで飲んで踊ってを楽しむ。大学内でパーティが開催されていればそれに参加し、その後はまた飲み直す。遊びも学業も本気で楽しんでいて、これを求めて留学した私としては最高の環境だなと思った。

 

 仲の良い中南米出身の同級生たちは、その後は決まってクラブに踊りにいく。彼らにとってクラブは、日本人にとってのカラオケのようなものなのだ。最初の週の金曜日、やはり彼らはクラブに踊りにいこうと言った。「テルも踊りに行こうよ」と誘ってくれたのだが、勇気がでなかった私はやんわりと断り、帰りのバスに乗り込んだ。

 

 バスに揺られながら、車窓を流れる夜景をぼんやりと眺める。テムズ川を渡る橋に差し掛かると、ライトアップされたビッグベンが目に入ってきた。丸い時計はまるで月のようだ。1年中分厚い雲が空を覆っているロンドンでは、月が姿を見せることはあまりない。「ビックベンの時計は月の代わりに私たちを見守ってくれているのかもしれない」。ふと、なぜだかそう思った。

 

夜のビックベン。闇夜に時計はくっきりと浮かび上がっている
夜のビックベン。時計は闇夜にくっきりと浮かび上がっている

 

質問コーナー

 

 ここからは読者から寄せられた質問に答えるコーナーになります。今回、寄せられた質問はこちら。

 

「留学前に準備した書類や奨学金について教えてください」

 

回答:出願や入学手続きのための必要書類は、大学での成績証明書をはじめ、さまざまあります。特に面倒なのは、成績証明書と戸籍謄本の英訳でした。

 

 成績証明書については東大に特有の問題かもしれません。というのも、東大は成績証明書にGPAを記載していません。そのため「GPAが記された成績証明書を発行することは不可能であることを証明する書類」を準備する必要がありました。東大の事務がそういった書類を出してくれれば良いのですが、作成はできないようです。そのため自分で書類を用意しなければいけません。幸い「GPAを算出していない」と英文で明記されているので、その箇所を示して留学先の大学に説明しました。

 

 戸籍謄本は、ビザの申請時に必要でした。英訳を自分で行うことは可能ですが公文書として認めてもらうことが必要なため、公証役場という場所で認定してもらう必要があります。

 

 奨学金については、AAスクールからのものを含めて五つの奨学金をいただいて、建築系の奨学金やクリエイター向けの奨学金が主です。奨学金の審査に通るのに大事なことの一つは、有名な大学に受かっていることです。奨学金の出願では合格証明書があれば提出を求められます。私はカリフォルニア大学バークレー校に合格していたのと、マサチューセッツ工科大学に合格はしていないのですがウェイトリストには入っていたので、そうした書類を提出できるようになってから、審査に合格し始めました。大学院に合格するまでの1年間は、一度も奨学金に合格できていなかったので、合格実績を作っておく事は重要かもしれません。

 

 

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