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2021年3月31日

【金融スマートデータ研究センター研究報告書④】水野貴之准教授 企業のスピード感を研究に

国立情報学研究所(NII)と三井住友DSアセットマネジメント(SMDAM)が共同で設立した、金融スマートデータ研究センターが2021年3月をもって、5年間にわたる共同研究を終了する。NIIに所属し、今回の共同研究にも参加した水野貴之准教授に、研究内容や成果ついて話を聞いた。

*本連載記事は国立情報学研究所金融スマートデータ研究センターの依頼を受けて作成されています。

(取材・松崎文香)

 

──水野准教授の専門分野について教えてください

 

 現在の専門は計算社会科学という、10年前に始まったばかりの新しい分野です。社会科学とビッグデータ、IT、コンピュータサイエンスを融合させ、膨大な量のデータの中から必要な情報を取り出す、という研究をしていました。

 

 ビッグデータそのままでは、人間がその意味を理解することが出来ないのです。人間が必要な情報を咀嚼することが出来るように、解析する必要があります。

 

──金融スマートデータ研究センターに参加された経緯を教えてください

 

 そもそもこのセンターは、金融ビッグデータの解析が人の手では追いつかないため、機械で情報を要約したいという問題意識の元に設立されました。

 

 私は大学院生の頃から金融のビッグデータを研究してきたのですが、5年ほど前からアナリストたちの人力で解析を行うことに限界を感じ始めました。その頃、喜連川優所長(国立情報学研究所)と三井住友アセットマネジメント(当時)の代表取締役社長兼CEOの横山邦男氏が、この問題をAIで解決しようと、センターの設立に向けて動きだしていました。私も同じ問題意識を持っていたため、参加させていただきました。

 

──センターでの研究内容について教えてください

 

 まず初めに、世の中にあるビッグデータはどのようなものがあるのか、リスト化を行いました。その際に、それぞれの情報ソースがどのくらい信用できるか、そのデータを扱っている会社が世界にどれくらいあるのかなども併せて調べました。

 

 次に、会社が自分の金融取引によって市場を動かしてしまうリスクがあるのかを調べる「取引コストモデル」の研究を行いました。今回協働したSMDAMなどの大きな企業や銀行は、日本の金融資産のうちの大きな割合となる金額の取引を行います。そうした企業が取引注文を出すと、それが原因で市場の価格が動いてしまいます。自分の取引に周りが追随することで、市場の価格が高騰・暴落することは避けなければならないので、自分がどれほど市場を動かすリスクがあるかを測る必要があるわけです。今回はそれを、他の人が「いくらの注文をだしているか」というビッグデータを用いて、いつ取引するとどのような銘柄の価格が動くのかを調べる研究を行いました。

 

 三つ目は市場の価格が大きく変動する転換点の前に、どのようなところで「異常値」が検出されるのか、という研究でした。アナリストたちは少なくとも、300個程度の経済指標や市場の指標を見ながら取引を行っていますが、そのなかに普段の値とは外れた異常値があったとしても見落としてしまうことがあります。そこで、異常な値が出たことを検知してくれるシステムが欲しいといった要望がありました。価格の大きな変動の前にどの金融指標にどのような「異常」が起きてきたのかを機械学習させて、市場の転換点の前に変動の予兆を知らせるという、市場のトレンドの転換リスクの測定という研究を行いました。

 

 四つ目として、オルタナティブデータと呼ばれる画像データや携帯電話のGPSのデータを用いて、どこの店舗にどれほどの人が集まっているのかなどを調べ、不動産の本来の価値を調べる研究を行いました。集客の情報の他にも、どの製品をどのくらいのタイミングで仕入れているかなど、企業の経済活動が金融市場にどのような影響をもたらすのかを調査しました。

 

──SMDAMとの共同研究には、どのような利点があったのでしょうか

 

 一番は、研究成果が取引の場で使えるものなのか、実際に試してチェックすることが可能な点ですね。取引のマネージャーたちは、その時入ってきた情報をすぐに処理しなければならないのですが、機械を用いてそうした処理が可能なのかどうかを、SMDAM内で実装してテストできるわけです。研究者が研究をし、企業が実社会で使えるかテストをして研究のフィードバックを得る、これが産学連携のポイントですね。

 

 あとは、実世界のスピードを知ることが出来ました。研究者は何年もかかって新しいものを生み出そうとしているのに対して、彼らは3カ月で実装できるかを求めてくる。このタイムスケールの差などを知ることで、研究面と実務面をどのように調整すれば良いのかがお互いに分かったというのも良かったと思います。

 

水野貴之(みずの・たかゆき)准教授 国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授 2005年中央大学大学院理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。一橋大学講師、筑波大学准教授などを経て、13年より現職。

 

2021年4月1日16:56【記事修正】本文中に「オルタナディブデータ」という記載がありましたが、正しくは「オルタナティブデータ」です。お詫びして訂正いたします。

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