国立情報学研究所(NII)と三井住友DSアセットマネジメント(SMDAM)が共同で設立した、金融スマートデータ研究センターが2021年3月をもって、5年間にわたる共同研究を終了する。NIIの教授であり、今回の共同研究にも参加した佐藤真一教授に、研究内容や成果ついて話を聞いた。
*本連載記事は国立情報学研究所金融スマートデータ研究センターの依頼を受けて作成されています。
(取材・松崎文香)
──佐藤教授の専門分野について教えてください
大規模データの画像解析が専門です。コンピュータの解析技術そのものの開発というよりも、その技術を応用して大量のデータを調べるというのを主たる研究課題としています。実は画像解析というと、一つの画像の中からなるべく詳細な情報を読み取ることを目的にする、小規模データの画像解析の研究が主流なのですが、私は大量のデータを解析して検索などの技術に応用したり、二つの大規模データ間にどういった因果関係があるかを探ったりしています。画像認識の技術の向上により、こうした研究の幅も広がってきています。
例えば、長年取り組んでいる研究としてテレビ放送のアーカイブの解析があります。現在の画像認識技術を使うと「画面に動物が映っている」といったことが、かなり高い精度でわかります。20年分のNHKの7時のニュース映像のデータと、その間の視聴率のデータを組み合わせると面白いことがわかりました。画面に小動物や子供が映し出されると、視聴率が上がるのです。「動物は視聴率が取れる」という神話のようなものがテレビ業界にはあるようですが、この研究によって証明されたと言えると思います。ただ残念なことに、動物の中でもイルカや魚などの水生生物ではなく、ふわふわした小動物でなければダメなようですね。
──金融スマートデータ研究センターに参加された経緯を教えてください
私はセンターが設立されてから1、2年後に参加しました。SMDAMの研究者の方が画像解析技術を金融分野の研究に使えないか興味をもっていて、私自身も金融の研究に自分がずっと行なってきた画像解析が応用できるなら、面白そうだと思って参加することになりました。
──センターではどのような研究をされたのですか
衛星画像のデータを解析して、金融情報を取り出すという研究に取り組みました。例えば、ショッピングモールの駐車場の画像からどのくらいのお客さんが来ているかを分析したり、工場の駐車場の画像に写る、従業員の車や出荷待ちの車の台数から工場の稼働率を推定することを目的としました。また、外国の都市の発展具合を衛生画像から読み取り、それを元に投資をするかどうか判断することができるのではないかと考えました。
こうした研究は前例がないので、センターで行なったのは、新たな研究視点を作り出し「おそらく出来るだろう」と言うことを示すところまででした。それでも十分な研究成果が得られたと考えています。
この研究の意義は、衛星画像という極めて客観的でリアルタイムなデータを元にした分析だと言うことです。投資家の意図が反映されている株価のように人の手が入る恐れはほとんどないですし、決算書のようなタイムラグはありません。その意味では、分析結果は信頼できるし有用だと思います。
──センターでの研究は今後の研究活動にどのように生かされるとお考えですか
金融業務を扱うSMDAMの方々は研究者や製造業の方とも違う価値観をお持ちだったので、新たな視点を知ることができて面白かったですね。今まで企業との共同研究というとメーカーが多く、売れる商品を作るにはどうすれば良いかといった視点に立っていたのに対し、SMDAMの方々はそうした会社の動きを見て予測することを目標にしていました。これまでと違う価値観を知れたのは、面白いなと思いました。
また、今回ターゲットとして選んだ衛星画像は、今後ビジネスとして広がっていくと思います。研究を通じて、衛星画像ならではの面白い特性も感じましたね。これまで研究対象としてきたテレビ映像は、カメラマンによって撮影されているのでカメラ位置が安定せず、解析が難しいという難点がありました。一方で、衛星画像は取られた位置が衛星の軌道から正確にわかるといった利点があります。衛星画像のそのような良い特性を活用して、新たにできることを広げていくのも面白そうだなと考えています。