新たな落語ブームの到来が叫ばれている。東大卒落語家の春風亭昇吉が話題になっていたが、新しく東大卒落語家が生まれるなど、落語に注目する東大関係者も増えつつある。そこで、東大を卒業して音楽雑誌の編集長を務める傍ら、落語評論家としても活躍する広瀬和生さんと東大落語研究会のメンバーに、落語の魅力や楽しみ方を聞いた。
(取材・中井健太)
演者選びにはご用心
1世代前の落語ブームは、05年、ドラマ『タイガー&ドラゴン』(TBS系)をきっかけとして起きた。現在落語評論家として活動する広瀬さんは、当時「落語評論家が落語を見ていない」「本当に面白い落語の情報を伝える、落語ジャーナリズムが存在していない」と感じていたという。当時の落語評論家らは、破天荒な振る舞いで有名だった立川談志が創設した立川流をタブー視。「一流の落語を演じていた」にもかかわらず、評論として取り上げなかった。
落語に興味を持った人が「どこに行って何を聞くか」のガイドを欲していると感じた広瀬さんは『この落語家を聴け! いま、観ておきたい噺家51人』(アスペクト)を著した。「当時も、寄席の存在を紹介して『とにかく寄席に行け』という雑誌特集やムックはありました。ただ、本屋に行けば本がある、映画館に行けば映画をやっている、ということを紹介するだけのものを評論とは呼びません」。落語ファンとして現代の落語、落語家を追い続けていた広瀬さんの著書は落語関係の書籍として異例の売り上げを見せ、落語ブームの追い風となった。
落語の聞き方には2種類ある。一つは毎日落語を催す寄席で聞く方法で、もう一つは事前にチケットを買い決まった演者が出演するホール落語で聞く方法だ。広瀬さんが落語初心者に薦めるのはホール落語。「主催者が演者を選ぶホール落語は、寄席と違ってクオリティーがある程度担保されています。寄席にふらっと入って楽しめるのは相当なマニアといえますね」
固定されたテキストがない落語。演者によって演じられ方が全然違うため、誰を聞くかが重要になる。今、特にお薦めなのは春風亭一之輔、桃月庵白酒、三遊亭兼好、柳家三三の4人だという。「この人たちが出ているホール落語のチケットを取れば間違いありません」。初心者に一番理想的な入門は立川志の輔。「独演会も1席目で分かりやすい新作、2席目で分かりやすい古典の大作をやるなど、初心者に優しい構成が多いです」
落語の魅力はそのシンプルな形態にあると話す広瀬さん。「使うものは扇子と手ぬぐいだけ。最低限の道具でシンプルにやるからこそ、観客の想像力で世界が広がる、何でもできるのが最大の魅力ですね」。着物を着て座布団の上に座り、上半身だけで表現する制約があるからこそ、観客の想像が広がる。
ストーリーの中にある矛盾、無理を感じさせないのも落語家の腕だ。文七元結という話の中で、主人公が娘を売って得た50両という大金を、自殺しようとしている人にあげてしまう場面がある。「普通はそんな大事なお金を見ず知らずの人に渡しません。そこで、悩んだら渡せないと考え、思い切って渡す演出にする落語家、悩む過程を見せることで感情移入させる落語家など、さまざまな工夫をして噺を聞かせます」
落語を聞きに行く際、気を付けるべきことは「特にない」という。昔は着物で行くべきかなどを聞かれることが多かったというが「今は落語を聞きに行くのにルールがないことは知れ渡っています」。しかし「とにかく誰かを聞きに行けばいい」というのは間違いだとのこと。同じネタでも演者によって雲泥の差があり、それこそが落語の良さだという。「落語を見てつまらなかったら、落語がつまらないんじゃなくて、その落語家が面白くなかったんだと思ってください」
娯楽を楽しむのにこんなことをするのも面倒かもしれませんが、と前置きして広瀬さんは語る。「一度聞いた落語がつまらなかったからといって落語に見切りをつけず、根気よくいろんな演者の落語を聞いてください。1回はまってしまえば、落語のユニークさ、エンターテインメントとしての底の深さから抜け出せなくなりますよ」
番組から入るのも手
東大落語研究会の伊東広香里(東京外国語大学・2年)さんは、落語の魅力は「準備の必要のなさ」にあると語る。手ぬぐい、扇子は必要だが、それがなくても自分の身一つで成立させられるのは大きな魅力だという。今道周作さん(農・3年)は「自分1人のしゃべりで、客を30分間笑わせられ続ける、独占できる」のは他のお笑いにはない魅力だという。
伊東さんお薦めの落語家1人目は春風亭百栄。「マッシュルームカットの中年男性です。不思議な雰囲気があって、はまると抜け出せなくなりますね」。2人目は桂春蝶。「落語を好きになるきっかけとしては邪道かもしれませんがとても声がいい落語家です」
今道さんは落語家よりも、落語のネタから入るタイプ。「落語のばかばかしさが好きですね。好きなネタを見つけて、いろんな落語家の演出の違いを聞き比べても面白いです」
初めて落語に触れるのはテレビやラジオなどの落語番組でもいいのではないかという今道さん。「最初はそういう形の方がとっつきやすいかもしれません。もし生で見たくなったら、落研の寄席に来てもらえれば(笑)」
この記事は2019年9月17日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。
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