今秋設立された東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)のセンター長に就任した小島武仁教授(東大経済学研究科)。人と人、人とモノの最適な組み合わせを考える「マッチング理論」を研究している。今年9月に米スタンフォード大学から東大に移籍してきた小島教授に、学生時代の話や日本でこれから成し遂げたいことを聞いた。(取材・本多史)
「ふひと」という少し珍しいお名前ですが、どのような由来ですか
父が農学者で、当時研究していた小麦の英訳「wheat」に最も近い日本語にしたようです。由来を知った時には少しショックでした(笑)。
小島教授はもともと理Ⅰで入学されていますが、経済学部に進学された理由は
もともと数学が好きで数学者や物理学者に憧れていました。ただ、大学入学後に優秀な人々を目の当たりにして自信を喪失し、自分のやりたいことを見失う時期がありました。
そんな折に経済学部に進学した友達の影響で、科学的な手法で社会について考える経済学に興味を持ちました。頭脳一つで戦っていく数学や物理などに対し、社会と泥臭く向き合う経済学の方が自分に向いていると思いました。
経済学部のゼミには複数入っていましたが、特に大きな影響を受けたのは松井彰彦教授(東大経済学研究科)のゼミです。当時お若く年の近かった教授が親身に相談に乗ってくださった影響もあって、松井教授の専門であるゲーム理論に興味を持っていきました。
博士課程ではハーバード大学に進学されましたが、その理由とそこでの経験について教えてください
ハーバード大学とプリンストン大学で一番悩みましたが、周囲から話を聞き、ハーバード大学に決めました。当時のプリンストン大学はゲーム理論研究の牙城のような印象でした。一方、ハーバード大学は当時まだ認知度の低かった行動経済学なども含め多様な経済学の研究が行われており、自由に学べそうだと感じました。
ハーバード大学でも自分のやりたいことに悩む時期がありましたが、数学パズルのようなマッチング理論に出会い、面白いと感じました。当時はまさに指導教官など周囲の人間がマッチング理論の社会実装に動き出している時で、理論だけでなく直接社会と関わることができるのが魅力的でした。
キャリア選択で悩むことはありましたか
昔から漠然と学者に興味がありました。学部生の頃は企業や官公庁の説明会にも足を運びましたが、自分が自信を持って企業戦略や政策の立案をすることができるか不安を感じました。自信を持って意思決定するためにももっと世の中のことを知りたいと思い、学者を目指すことにしました。
スタンフォード大学から東大に移籍した理由は
一番大きな理由は、夫婦で行けるチャンスを頂いたからです。妻も学者ですが、夫婦2人での職探しは難しいです。東大からこのようなチャンスを頂けたのは幸運でした。ちなみに、こういった2人一緒でのマッチングもマッチング理論の研究対象であり、自分の研究のモチベーションにもなりました。
また、研究をしているうちに、日本に解決したい問題が多いということに気付きました。例えば、待機児童問題や医師人員の地域格差を防ぐ研修医マッチングの研究をしてきましたが、これらは特に日本で取り沙汰されることの多い問題です。やはり興味対象に近い方が研究も社会実装もしやすいので、日本に来たい思いがありました。
学生時代にお世話になった東大に還元したいという気持ちもあります。特に最近は制度改革に積極的な印象を受けるので、東大の今後が楽しみですし、自分も変革に関わっていきたいです。
今後日本で成し遂げたいことは
研究者として研究の発展に貢献したいという思いと、研究を活用して社会をより良くしたい思いがあります。理論と社会実装の両輪をうまく回していきたいです。人材育成にも力を入れていきたいです。
既に自治体と連携してマッチング理論の社会実装をした事例はありますか
連携した社会実装はまだできていません。ただ、協力的な自治体に待機児童データを提供していただき、私が作ったアルゴリズムでどれほど改善できるかシミュレーションしたことはあります。社会実装についても、これからセンターのリソースなどをうまく活用して自治体にアプローチしていきたいです。
先日、株式会社KAKEAIの顧問にも就任されました
民間との提携の第一歩と考えています。マッチング理論の社会実装例では、先程挙げた研修医マッチングや保育園の受け入れなど、公的なところが多いです。しかし、公的なところに限定する必要はなく、企業内人事など広く活用していくべきだと思います。株式会社KAKEAIは人事の最適なマネジメントを支援する会社ですが、マッチング理論と人事は相性が良いと思います。
最後に、東大生に向けてメッセージをお願いします
東大はリソースが豊富にあるのでそれらを生かしてさまざまなことに挑戦してほしいですし、自分も教員としてサポートしていきたいです。もちろん勉強も大事で、経済学、マッチング理論に興味を持ってくれるとうれしいです。
この記事は2020年10月20日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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