丸の内の高層ビルJPタワー/KITTEの2階に、東大が所有する剥製や化石などの貴重な学術資料が並んでいる博物館がある。現代社会のミュージアムの役割を追求するべく2013年に生まれたインターメディアテク(間メディア実験館)だ。(取材・堀添秀太)
標本の重要性
インターメディアテクには、良質で貴重な鳥類の標本のコレクションが展示されている。中にはかつて皇室に献上されたものもある。このような標本の大切さを、松原始特任准教授(東大総合研究博物館)は次のように語る。
「現在は標本自体のデジタル化の動きが進んでいますが、全てのデータをデジタル化することはできません。いま分かっている点に着目するならデータがあればいいですが、研究というのは新しいことを探求するので、すでにわかっている点に着目したデータでは引き出せる知識に限界があるため、標本が必要になるはずです」
また、インターメディアテクの展示物は東大で使われていた研究資料で、作られた理由や、どのように保存され使われたかに着目することもできる。また、職人によって作られた美術的価値があるものも多い。標本は教材としての価値は下がっているが、美術品としての価値などの多面的な価値に着目するとまだまだ興味深いという。
伝えるためのデザイン
インターメディアテクの大きな特徴の一つは、デザインにこだわっていることだ。博物館には貴重な資料があるが、それだけでは一般層の関心を得ることは難しい。松原特任准教授は、一般層向けに科学知識を伝える際には「パッケージ」が大事だと語る。インターメディアテクには専門のデザイナーがついており、展示やプリント類が統一されたトータルデザインでできている。また、展示に使うキャビネットやケースは大学で1世紀以上前に使われていたアンティークを使っている。そのため、純粋に見ていて綺麗だから来る人、アンティークが好きで来る人や、雰囲気を楽しむ人などもいるという。「どう楽しんでもらってもいいし、一般向けの教養書を読むことで知的な興奮を得る人もいるように、サイエンスとエンターテインメントの境界は曖昧です。しかし、インターメディアテクは大学のアカデミックな空気を漂わせて、背景に研究してきた人がいるということも伝えないといけないです」
松原特任准教授自身も『カラスの教科書』(雷鳥社)という本を執筆し、一般的に誤解を受けていると感じているカラスの魅力を発信するなど、サイエンスコミュニケーションに携わり一般層に科学知識や身近な動物の魅力を伝えている。発信するにあたっては特に文体に気をつけているという。
松原特任准教授がうれしいと思う瞬間は、自分がプロデュースした展示をお客さんが見てくれたときだという。「展示の前で誰かが足を止めて、解説を読んでいたりじっくり観察していたりするのを見ると、何か響くものがあったのかなと思います」。また、著書を読んだ子供が自由研究の相談に来たり、将来は鳥を研究したいと言ってくれたりしたこともあり、やりがいを感じている。
インターメディアテクの入場料は無料。ぜひ気軽に立ち寄り、美しいデザインに彩られた歴史の重みを背負う展示を鑑賞してみてはいかがだろうか。
開館時間:午前11時〜午後6時(金・土は午後8時まで)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休館)
東京都千代田区丸の内2−7−2 KITTE2・3階
JR東京駅丸の内南口から徒歩1分/丸ノ内線東京駅地下道より直結