報道特集

2024年11月26日

藤井総長「先延ばしになっていた改定を一刻も早くやった方が良い」 学費問題を総長に聞く

藤井輝夫総長インタビュー

 

 「総長対話」の開催や4回の総長メッセージの公表など、学費問題で東大の藤井輝夫総長の言動に注目が集まる機会が多かった。藤井総長は任期が始まった21年に計18回の学生・教職員との「総長対話」を開くなど、「対話」を重視する総長として知られている。しかし今回の「対話」の試みの中では改定案に対する反対意見とともに、改定の検討プロセスにおける「対話」の在り方そのものに対する批判も見られた。藤井総長は授業料値上げの必要性や学生支援策の在り方、「対話」についてどのように考えているのだろうか。東京大学新聞社のインタビューに藤井総長が答えた。(取材・岡拓杜、金井貴広、撮影・渡邊詩恵奈)

 

このタイミングでやらなければならない「待ったなし」の状態

 

──東大は9月24日、授業料を約10万円値上げすることを発表しました。今回の授業料改定の必要性について教えてください

 

 長期的な視野に立って東大の学修環境を向上させていくために必要だと考えています。コロナ禍を経て新しい教育ツールが出てきました。オンライン授業も定着してきましたし、生成AIも重要なデジタルツールになっています。教育内容の面では、経験を通じて学ぶ機会をどれだけ増やせるかも大切で、国際的にさまざまな大学が、こうした学修環境の向上に努めるべく競争しています。東大についても、世界中から優秀な学生に来てもらい、良い学修環境で学んでほしいと思っています。これは1、2年で達成できることではなく、数十年にわたって継続的に手を打っていかなくてはいけない改革です。改定の時期の問題もありましたが、このタイミングでやらなければならない「待ったなし」の状態だと考えました。

 

第1案と第2案の違い
(表)授業料値上げに関する第1案と第2案(東大の発表資料や「総長対話」での説明を基に東京大学新聞社が独自に作成)

 

──(表)に示されるように、6月に示された第1案では、値上げの目的として体験活動プログラムなどの「維持」が中心的に説明されていましたが、最終案となった第2案では学修支援システムUTokyoONE(UTONE)の機能改善など教育学修環境の「改善」が強調されています。増収分の用途について改めて教えてください

 

 プレゼンテーションの仕方が少し違いましたが、両案で中身は変わっておりません。第1案を説明する際には授業料改定の前提として、施設の老朽化など短期的に取り組まなければならない課題についてもお話しました。ただ、実際の使い道は第2案として発表したものと同じで、UTONEを含むデジタル環境を充実させたり、グローバルな学びを進めたりするなど、長期的な改善策が中心です。

 

──授業料値上げに伴う増収分を、UTONEの機能強化や体験活動型の学修プログラムの拡充に用いる予定です。どのようなビジョンがあるのでしょうか

 

 体験活動プログラムの参加者数はかなり増えてきていて、昨年度は490人弱でした。フィールドスタディ型政策協働プログラムも今では年間80〜90人が参加しています。学生の皆さんに何らかのプログラムに参加いただけるよう、海外の要人が来学した際に学生と対話するセッションをお願いするなど、バリエーションの強化や機会の拡大に努めるとともに、発信の手段と頻度を増やしています。また、体験活動などで遠方地域、特に外国に行くことになるとコストがかかりますが、今は一人一人に対し手厚く活動支援金を支給することができておらず、その点は心苦しく思っています。

 

 今回の授業料改定で得られる増収分を用いて、いろいろな質の高い学びのメニューを用意した上で、UTONEを用いて学修や諸活動の履歴・成果を手元に集約し、各自の進路や目標に応じた授業やプログラムを提案できるようにしたいと思っています(写真)。UTONEは、学生が大学での学びを主体的に設計できる環境を整えるための重要なツールだと位置付けています。これは世界中の大学で見られることです。授業料改定に伴う計画としてではなく、UTokyo Compass(藤井総長の就任後に示された、東大の基本方針)の目標の一つとして以前より掲げてきました。すでにPEAK(教養学部英語コース)で試験的に導入している段階です。UTONEは、より広い東大コミュニティーを構築するツールとしても活用できると期待しています。将来的には、卒業生用の機能も導入して、在学生と卒業生がつながれるプラットフォームとするつもりです。在学生が卒業生に話を聞けたり、卒業生が東大で学び直しをしたりする機会を提供できるかもしれません。

 

UTONEの画面
(写真)スマートフォン版の UTONE の画面(左からホーム、シラバス検索、カレンダー。写真は東大本部広報課提供)画面は2024年10月1日現在のもので、画面構成や提供される機能については今後変更される可能性がある。表示されている情報は個人情報等に配慮して加工・修正したもの。

 

学生を混乱させ申し訳なかった受験生への影響「なんとも言えない」

 

──授業料改定に対する学生からの反発をどのように受け止めましたか

 

 授業料改定の検討を進めていることが期せずして5月中旬に報道されたため、学生の皆さんからすると唐突に感じたのではないかと思います。本来は最初に私たち執行部と部局長の先生方で、ある程度素案を固めた上で皆さんにお伝えする形で意見を聞ければと考えていましたが、公にする情報を管理できずに学生の皆さんを混乱させることになってしまい申し訳なかったと思っています。

 

 第1案を固める前の段階で、教員からさまざまなご意見があったため、もっと多くの声を聞きながら案を作り込んでいかなければならないと思っていました。そこで総長対話を通じて前向きな議論ができればと考えていたのですが、これがうまくできませんでした。この点は反省すべきだと認識しています。

 

 コミュニケーションの観点でもう一つ付け加えますと、今回の総長対話やその後のアンケートを含めて、学生の皆さんからいろいろなご意見をいただく中で、授業料改定の有無にかかわらず、経済的な状況を含め、さまざまな困難を抱える人がたくさんいるということが認識できました。例えばアルバイトをして学費や生活費を捻出していて、本来行うべき学びに充てられる時間がなかなか取れないといった声を聞きました。こうした個別の事情に可能な限り対応できるような体制を速やかに整えようということで、それぞれの学部、研究科を回ってお話を聞く機会を準備しています。

 

──教育学修環境の向上を長期的な視野で捉えているのであれば、もう1年かけて丁寧な対話を行うこともできたのではないでしょうか

 

 東大はずっと授業料改定が「できていなかった」わけです。改定のタイミングがずっと延びてしまって、このタイミングでやらなければならないというのが私の感覚でした。3年前から東大の財務自体をどのようにしていくべきか議論する中で、授業料改定はずっと課題になっていました。設備や施設の老朽化の問題、更には新しい教育プログラムを本当は増やしたいけれど増やせないという事態も生じていたので、そうした喫緊の課題に優先的に取り組みつつ、長期的観点からも今のタイミングで着実に学修環境を整えていくべきだと考えて決断しました。もちろん、先は長いから1年遅らせても問題ないという見方もあるとは思うのですが、これまで先延ばしになっていた改定を一刻も早くやった方が良いという判断から踏み切ったのだとご理解いただきたいと思います。

 

──学生への配慮として博士課程の授業料据え置きを第2案では発表しました。例えば、東大生の大学院進学率(2022年)は文系で21%、理系で74%で、修士課程への進学の壁の高さも分野によって異なるようにも思われます。文理にかかわらず一律で博士課程のみの据え置きとしたのはなぜでしょうか

 

 文理の特性を踏まえて判断するというよりは、全体の意見を踏まえて博士課程の課題については研究環境の充実という形で解決するということにしました。

 

 博士課程学生は、まさに卓越した知見によって今後の学術を作っていく方々でもあるので、授業料の負担が大きくならないように配慮しました。前回の2005年の授業料改定の際に博士課程への適用を見送ったときも同様の趣旨でした。教員から博士課程の据え置きを望む声が強かったということも背景にあります。また、博士課程学生については、以前より研究面を通じた経済的支援の充実にも鋭意取り組んでいます。

 

──在学生は原則として大学院まで現行の授業料のまま東大に通えることになりました。一方で、授業料値上げに伴って期待されるのは長期的視点での環境改善です。このため在学生とこれから入学してくる人たちの間では、教育学修環境にそれほどの差がないことが想定されます。それにもかかわらず入学年度によって授業料負担が異なることについて、どのように考えていますか

 

 在学生は卒業や修了までに必要な資金を現行の授業料を基に入学時に把握し、計画していると思います。逆に言えば来年度の入学者は、今回の改定を踏まえて必要な資金を想定した上で入学ができると考えています。学内からも、在学中の学生は大学に通うにあたっての資金計画があるはずなので、入学年度にかかわらず一斉に授業料を改定することになると非常に大変だという意見がありました。もちろん受けられる教育は均質になるわけですが、できる限り早く良い環境を学生の皆さんが享受できるように努力していきたいと思っています。授業料改定だけでは必要な資金を賄えないので、他の財源も含めて検討し、進められるところから順に実行していきます。

 

インタビューに答える藤井総長
学生への支援策について説明する藤井総長

 

──来年度の授業料が確定したのは今年の9月末でした。学部入試の第2次試験の出願期限まで4カ月程度というタイミングでの発表について、受験生が資金計画を考えるのに十分な期間が残されていたと思いますか

 

 以前から遅くとも募集要項が発表される11月までには最終決定をするという話をしてきました。毎年、11月の募集要項の公表時に来年度からの授業料が示されていますので、その時点でのアナウンスで問題ないと思っています。これについては東大に限った話ではないはずです。

 

 一方、大学院については、夏の時点で出願が始まっているところもあったので、修士課程をどうするのかは非常に大きな論点になりました。そういう事情もあり、少なくとも今大学院を目指している学部生の方は授業料が進学後も基本的に上がらないよう、激変緩和措置を採りました。

 

──受験生への影響についてどのように想定していますか

 

 どのような影響があるかについてはなんとも言えないところがあります。ただ、受験生を含めて、自分の授業料が免除されるのかどうか、確認しやすい仕組みを作っていきたいと考えています。授業料免除や奨学金の制度は分かりづらいですよね。現状では、自分がどのカテゴリに当てはまって、どこまでが支援の対象になるのか理解するのが難しいと思っています。日本学生支援機構(JASSO)がウェブ上で導入しているシミュレーター(進学資金シミュレーター)のように、東大としても親切な情報提供の方法を考えていきたいと思います。

 

 また、受験生に対しては難しいかもしれませんが、少なくとも在学生が在学中の資金計画などについて相談できる窓口を作る予定です。在学期間の経済的プランを立てられないと安心して何かに打ち込むこともできないので、経済的な相談ができる学生支援体制を強化していく必要があります。アドバイスを受けながら必要な手続きを進めることができると良いと思っています。

 

大学経営の視点と学生の環境との間で理解のギャップがあった

 


【資料1】UTokyo Compass の公表にあたって(抜粋)

私は、実現のプロセスにおいて、また創造の方法において、「対話」を重視します。対話とは、たんなる話し合いや情報の交換ではなく、知ろうとする実践です。知るためには、問う必要があります。大学が育てる「問いを立てる力」は、対話の始まりに不可欠です。ただ問うだけでなく、その問いかけが問いの共有、すなわち「ともに問う力」を生みださなければ、対話は深まってゆきません。問題にともに向かいあい、対話を通じて関わりあうことで、ともに見る、ともに感じる、ともに考えることを基盤とする理解が形成され、信頼が醸成されます。対話がもたらすのは、議することで推し進められる、多声の協奏です。そのように多様性が創造する未来を描くには、不公正や差別の理不尽、さまざまな社会的弱者の存在に対する鋭敏な感性をもち、課題と真摯(しんし)に向きあう主体的な姿勢が要請されます。


 

──藤井総長は就任当初から「対話」を重視してきています(資料1)。6月にも「総長と授業料および東京大学の経営について考える」というテーマで「総長対話」が開かれました。この総長対話では、問いについて一緒に考えるというより、学生からの反対意見に対して総長が理解を求めるような発言をする形になっていました。「対話」のプロセスにおいて学生をどのように位置付けますか

 

 やはり、一緒に考えていく存在として対話できると良いと思っています。対話というのは、ある課題や対象について、それぞれの思いは違っても一緒に向き合うことなのだろうと思っています。今回の一連のプロセスの中では、その対話の前提となる問いへの向き合い方がうまく共有できなかったということはあったと思います。ただ、オンライン方式での「対話」は、コロナ禍でも何度も行ってきていたので、その感覚は学生の皆さんと共有できていると思っています。その一方で今回は、大学経営という視点と、学生の皆さんが現に置かれている修学環境の間で、お互いに理解のギャップがありました。本当は6月の総長対話でも増収分を何に充てていくのかという議論の中で、普段講義を受ける中で気になる点やデジタルツールの導入など、いろいろな提案をしてもらって、一緒に考えることができたらと思っていました。

 

 私たちが大学の経営陣として決めなくてはいけないこともありますが、学生の皆さんと一緒に考えて作った方が良いこともたくさんあります。例えば、UTokyo Compassでも重視しているサステナビリティに関連する話ですが、UTokyoSustainableNetwork(当時・現・東京大学GX学生ネットワーク)の皆さんからの提案でキャンパス内にウォーターサーバーを設置したことがありました。ペットボトルを消費していくのではなく、マイボトルを持って来てウォーターサーバーで給水できるようにした方が良いという意見は「総長対話」を経て採用されたものです。大学を一緒に良くしていくというところでは、同じ方向を向いて進んでいきたいと思います。

 

本郷の立て看板「こんなDX嫌だ」
オンラインで開催された「総長対話」をやゆする本郷キャンパスに立てられた立て看板

 

──総長の「対話」の姿勢を批判する意見や立て看板も見聞きします。授業料改定に関する議論を踏まえ、今後は学生とどのように対話を行っていきますか

 

 授業料改定に関連したプロセスの中で、学生と直接話ができなかったことなど、コミュニケーションの回路が非常に限られていた感覚がありました。それを改めようということで、1段階目として「学修環境向上のための総長懇談会」を11月から順次開き、各部局で皆さんとお話をしようと思っています。経済的な状況も含め、困難を抱える学生が多いと聞きましたので、どういう状況を想定しなければならないのかを、できることならば教えていただきたいと思います。また、どのような制度を作れば学生の皆さんが言い出しやすくなったりアクセスしやすくなったりするのかも聞きたいと思っています。

 

 2段階目として長期的には、学生に関係するトピックについて一緒に考えられる恒常的なコミュニケーションの回路を作っていきたいです。対話する際に提示する「問い」を固める前に、学生の皆さんと直接話ができるチャンネルとして想定しています。

 

 東大の場合、学生も教職員もかなりの人数が所属しています。多様な教員がいて専門も幅広いですし、学生の皆さんも非常に多様です。徐々に理解を広げていく努力が大事だと思っています。問いを共有し、同じ方向を向いて議論ができる場を作るために、今後どういう方法で対話をしていけば良いのかということも含めて、ぜひ学生の皆さんの意見も聞きたいと思っています。

 

「一方的対話≠対話」と書かれた立て看板
総長の「対話」の在り方を批判する駒場Ⅰキャンパスの立て看板

 

──最近ではいくつかの学部で自治会再建の動きが見られます。学生と一緒に考える仕組みを構築する上で、自治会などをどのように捉えていますか

 

 学生の皆さんにとって自治会自体がどういう存在なのかも知りたいです。自治会の皆さんとの関係の築き方も一つの観点だと思いますが、他にもいろいろな観点を考慮して、学生の皆さんとやり取りができる仕組みの作り方を考えていきたいと思います。その過程では皆さんの声も聞くことになると思います。まずは大学執行部としてどのような形が良さそうか、少し準備をしてから、皆さんに相談する段取りになると思います。自治会のような組織が良いのかも含めて、まだ具体的なアイデアはありません。

 

大学が自律的にアクションを起こせる力を持っておかなくてはならない

 


【資料2】UTokyo Compass2.0 0-1【「自律的で創造的な大学モデル」の構築】

学問の自由に基づき、真理の探究と知の創造を通じて世界の公共性に奉仕する大学を支える基盤として、構成員の自律的かつ持続的な創造活動を拡大するための「大学ならではの経営モデル(新しい大学モデル)」を確立する。財務・法務・産学連携等におけるリスクガバナンス体制を高度化するとともに、研究・教育・社会連携等の実績を全学的に集約し、参照・共有できる仕組みを整備するなど、大学という「公共を担う組織体」の活動の総体を、社会との関係において最適化するモデルを構築する。


 

──授業料改定はUTokyo Compassで目標とされている多様な財源の活用とも関わっています。財源の多様化で総長が目指している「新しい大学モデル(資料2)」の「新しさ」とは何でしょうか

 

 国立大学は元々の設置者が国なので、運営費交付金を基盤に教育・研究・社会貢献を行うという国からのミッションが与えられていると思っています。それらには当然取り組みますが、今の大学には国からのミッションにとどまらない役割があると考えます。例えば、社会で必要とされているケアを大学がカバーしたり、人類の知の地平を広げることで社会全体に貢献したりすることが重要だと考えています。今までが国からの負託に従って運営費交付金を元手に運営するというモデルだったとすれば、そこから拡張した大学の機能を自ら定義して、大学の自律的判断でいろいろな教育や研究、社会貢献を進めていくモデルが「新しい大学モデル」です。

 

──専門領域によって社会や国との距離感の捉え方は異なっていますし、学問分野ごとの自律性も尊重しなければならないはずです。東大構成員の多様性ゆえに、大学が一体となって何かに取り組むということは必然的に困難が付きまとうようにも見えます

 

 その通りで、全体で合意するということはなかなか難しいです。UTokyo Compassを作るプロセスやその後においても、D&IやGXといったテーマごとに総長対話を開催して、学生の皆さんとも一緒に考えてきました。しかし、UTokyo Compassで示されているような東大の目指す方向性の共有が、まだまだ全員に行き渡っていないとすれば、ここは工夫のしどころなのだろうと思っています。

 

 ただ、学問として何かをする、あるいは学知を何かに活かしていくのは現場です。例えば新型コロナウイルスに大学全体としてどのように向き合うかというときは、医学の専門家が何をすべきか考えるように、課題に対して何が必要か、それぞれの専門家が専門性の観点から考えることも重要だと思います。あらゆる分野に専門家がいる、この多様性が東大の強みでもあります。何を大学としてやるべきかについて各分野からの提案を受け、全学的に協力して方向性を決めていく、それが、大学として自律的にアクションを起こすということなのだろうと思います。

 

 その際、大学が自前でそれが実行できるだけの力を持っておかなくてはいけません。東大を日本社会ひいては、世界全体のものとして捉えると、大学自身が重要だと考えたことを自分の意思で展開していける力をどのくらい持てるかが非常に重要です。国に申請して与えられる補助金だけでなく、大学が考えていることを学外に向けて発信し、共感していただける方々から寄付などの支援をいただき、その支援をもとに研究・教育活動を行い、その成果を学外にまた発信するというように、大学と社会との間で共感と支援に基づく循環を生み出すことが大事だと思っています。

 

──近年は産学連携に力を入れていますが、藤井総長が想定する「社会」の中には、産業界以外にどのような主体が含まれているのでしょうか

 

 例えば量子分野ではIBMやGoogleといった企業の他にシカゴ大学ともパートナーシップを結んでいます。自治体であれば、熊本県などと地域連携協定を締結したり、学生が実際に足を運んで課題解決に取り組むフィールドスタディ型政策協働プログラムで市町村と連携したりしています。このように、産業界のみならず自治体、研究機関とつながっています。

 

 その上で、産業界との連携の中で大学に求められているのは、大学が持つある種の中立性だと思います。大学は公的で中立的な存在として、いろいろなものをつないでいく役割を果たしていきたいと思っています。

 

──東大憲章などで掲げられてきた大学自治が、ここでの中立性に関わってくるのでしょうか

 

 一番大事なことは、自分たちがなすべきことを自分たちで決めていくことです。そのためには自分で決定したことを実現できる経営力も持たなくてはいけません。財源を多様化するというのは、社会の中のいろいろなステークホルダーからサポートしていただくということです。社会との対話を進めて大学としての役割を果たしていくことが、自律性を高めることにもつながっていくと思っています。

 

藤井輝夫総長
藤井輝夫(ふじい・てるお)総長/93年東大大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。07年から21年3月まで東大生産技術研究所教授。総長補佐、生産技術研究所長、大学執行役・副学長、社会連携本部長、理事・副学長などを経て21年4月より現職。

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