これからのネットメディアはどうやったら成功し、稼ぐことが可能になるのか。そこに必要な人材とは。若くして自分で会社を立ち上げ、様々な「トライ&エラーを日本で一番繰り返してきた」と語る津田大介氏に、その秘訣をお伺いしました。
※こちらの記事は、ジャーナリスト志望の東大生「くまりん」さんによる寄稿です。
出版社に全部落ちて、仕事求めて150社にハガキを出した
大熊 僕はいま21歳なんですけど、津田さんも同じぐらいの時分からライターをやってましたよね。その頃からネットの活用とかって頭にあったんですか?
津田 当時はまだここまで自分の仕事とインターネットが結びつくとは思ってなかったですね。1994~95年頃のパソコンはとにかく使いにくかったし、インターネットにつなぐのにも一苦労でした。
高校のころから僕はとにかく物書きになりたかったんですけど、いきなりフリーで活躍できるわけもないので、まずは経験を積もうと思って出版社を受けました。筆記試験はほとんど受かったんですが面接で全部落とされちゃったんです(笑)。どうしようかなって思って本屋に行ってみると、当時はパソコンやインターネット関連の雑誌がとにかく信じられないぐらいあったんですね。とりあえず自分で仕事を作らなきゃいけないと思って、当時アルバイトで働いていたライターさんの名前で売り込みのハガキを出しまくったらいくつか反応があってそこでおこぼれの仕事をやることで雑誌ライターデビューを果たしました。それが1997年のことですね。
コンテンツの黄金時代をかえたiモードとプレステ2
大熊 出版業界の市場規模のグラフを見たことあるんですが、本当にちょうその頃ピーク迎えてその後ひたすら下がっていますね。
(「電子書籍情報まとめノート」より)
津田 書籍に限らず、音楽・CD・パッケージのゲームとあらゆるコンテンツが90年代後半に売り上げがピークだったんです。ピークアウトした1999年にNTTドコモがiモードを始めてそれがコンテンツ・メディア業界の大きな転換点になったんですね。1999年は僕も小さな会社を立ち上げて起業した年で自分にとっても大きな転換点の年になりました。
会ってもらうために色々なことが試せる
大熊 ちょうど僕が小学校に入った年ですね(笑)
津田 それは時代を感じるなあ(笑)いま大熊さんが取り組んでいることと僕が当時やったことで似ているなと思ったのは、ほかの人がやらないようなところに目をつけて、とにかくやってみるっていう“絨毯爆撃手法“なんだと思います。これはいくらネットが普及しても変わらないし、いつの時代でも有効なやり方ですね。
大熊 そうですね、僕がやってる「いろんなジャーナリストに取材する」という企画も、当初構想を練ったはいいけどぶっちゃけ「これ、誰かから本当に返事来るのか?」って思っていました。でもやってみると案外反響があってびっくりという感じで。
津田 依頼の文面がきちっとしていると、それだけで会ってみようと思う大人は多いと思いますよ。あとはメールでレスポンスがなければ、目当ての人が出演するイベントに行って、終わってから駆け寄って名前と大学名とやっていること書いた手書きの名刺を出してみるとか。やっぱり、リアルであった人の依頼って断りにくいですし(笑)
あとは、「ランチ中の30分でいいんでお話聞かせていただけませんか?」とお願いするのもいいんじゃないかな。どんなに忙しくてもメシ食べる時間はあるわけでそれをおすそわけしてもらうみたいに。そんな感じで色々試して断られても何度も何度も繰り返せば、いつかその人が罪の意識にさいなまれて会ってくれるかもしれないでしょ(笑)
(flickr/T M)
仕事で得た関係性を次につなげていく
大熊 大変参考になります。津田さんも、ライターの仕事を獲得された後もそういった営業の連続だったんですか?
津田 いや、僕が個人の物書きとして人生で唯一やった営業は最初のハガキだけですね。一回やると関係性ができて次も君に頼むよ、という流れで仕事が決まっていきました。まず大事なのは仕事をすることで、大熊さんもアメリカ東海岸でインターンすることが決まっているわけだから、そこでこんな仕事やっていましたということが次の仕事につながるキャリアになるんじゃないかと。
大熊 なるほど。お話を伺っていて、津田さんの目のつけどころもよかったのかなと思います。
津田 その頃は業界全体が猫の手も借りたいという状態だったからたまたまうまくいったんでしょうね。売れてる業界は人が足りない。そういう当たり前の話ですよ。その意味でウェブメディア業界は今後そういう状況になっていくんじゃないかと思いますね。ただ、無料が前提のオンラインメディアをマネタイズするのはどこも苦労している。だから、「メディアをどうマネタイズするのか?」ということのプロになれば引く手あまたの存在になれると思いますよ。
日本で一番トライ&エラーを繰り返してきた
大熊 そういった意味合いではやはり津田さんの立ち位置は絶妙ですね。
津田 いや、難しいし、成功する確率も低いから誰もやらないという話ですよ。オンラインメディアはプラットフォームビジネスじゃない分急成長が期待できないので、あまりファンド入れて成長してという仕組みが成り立ちにくいですし。資金的な意味で独立してやっている人は本当に少ないですね。寂しい話ですけどね。僕が創業に関わった「ナタリー」という媒体があって、これは音楽・コミック・お笑いなどのエンタメ系をニュースを記者が独自取材して配信するというコンセプトのサイトなんですが、エンタメジャンルにおいて独立系で大きくなった唯一のメディアだと思います。
(ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」公式ページより)
じゃあ僕はどうやってメディアを作ろうとしているのかというと、自分の現在の収入源の1つはラジオやテレビの出演料。もう1つが月額制のメルマガ。これらで稼いだ資金を使って、お金にならないネットメディアをどんどん作っていきたい。そういう無駄なトライ&エラーを日本で一番繰り返してきた人間なんじゃないかとは思っていますね。単にそれは自分が不器用であることの言い訳でもあるんですが(笑)。最近手がけた仕事でいうと「ポリタス」の都知事選特集があるんですが、あれはシステム開発費やデータ調査費、アルバイトの作業比で700万円くらいかかりました。突っ込んで、月間のPVが120万PV、ユニークユーザーが50万人くらい。一応Google Adsenseは貼っていたんですがその広告収入はわずか7万円でした(笑)。その赤字を体感することでとりあえず次はもう少しやり方考えようと学習するんです。
大熊 有料メルマガを大きな収入源にできている人は、ホリエモンさんとか佐々木俊尚さんみたいに日本では数えるほどしかいないですよね。しかも津田さんが始められたのは後発でした。それでなぜ成功したんでしょうか?
津田 確かに始めたのは2011年後半だから有料メルマガブームの中で最後発になりますね。
なるべく多くの人が購読しやすくなるように、3つの方向性から「入口」を考えたんです。1つ目はいわゆる”津田ファン”のような人。それが千人ぐらいは登録してくれるだろうと。2つ目は「ポリタス」で既存の新聞や政治メディアがやんないことをしますって宣言して、それにはお金が要りますと作りたいメディアの方向性を示すことでクラウドファンディングのように登録してくれる人たちのことを考えました。3つ目は、もともと僕が好きだった雑誌のように単にメルマガで面白い記事を作って話題になれば、記事そのものを楽しんでくれる人も出てくるだろうと。その3つを掛け合わせて「メディアの現場」を作りました。
(「津田大介公式サイト」より)
絶対に必要なのが「広告営業」
大熊 ほかの人に真似できないのはなぜでしょう?
津田 「真似できない」じゃなくて「真似しない」んだと思いますよ(笑)。ただ、オンラインメディアを作るとなると1人で全部やるのは難しい。だから、スタッフを雇ってチームワークでやるしかない。チームでメディアを作らないんだったら単に「ブロガー」になればいいんです。
オンラインメディアにアクセスが集まってきたら重要になるのは、「広告営業」です。面白くて話題になる記事を作ればアクセスは集まる。でもそこから先マネタイズで壁にぶつかる。
ここでいう広告営業というのは自分で記事も作れるような企画広告が大事。記者の目線でコンテンツの価値を企業と結び付けて、「テレビみたいなナショナルクライアント相手じゃなくて、それより1個も2個も桁が少ないところだからこそこういう面白いことができる、一緒にやりませんか」と提案して案件を取ってこれる人間が必要なんですね。
ナタリーも最初は3人、300万円の元手でスタートして2年間はずっと赤字でした。ある時期から黒字に転換する過程で広告営業が果たした役割は大きかったですね。
大熊 そういう人が引く手あまたになるんでしょうね。
津田 オンラインメディアで少数の人数が食べていくだけならそこまで大変な話ではないと思うんです。でも、それだと絶対にマスメディアには勝てない。そういう意味で僕自身今自分がやれることの限界も見えてきていて、さあこれからどうしようかって思ってますね。まぁ一生試行錯誤が続くんだと思います。
雑誌編集の仕事は本当に面白い
大熊 確かに、ある程度のPVが稼げれば、ウェブメディアから得られる広告収入で、個人や少人数で食っていくことは出来ますよね。それに津田さんが仰るように、自分たちで色々と挑戦できる。では、あえて大きいところに所属して得られることって何でしょう?苦境とはいえ、出版社や新聞社などには様々な恵まれた環境があると思うんです。そこでしか出来ないこと、身につけるべきことって何だと思いますか?
津田 僕が雑誌好きということもあるんだけど、雑誌の編集者って本当に面白い仕事なんですよ。企画も立てられるし、コンテンツをどういう風に作ればいいか全般的に学ぶことができる。あとはその分野にくわしいひとと一緒に取材できるし、面白い書き手や取材者とつながれる。その一方で、自分で原稿書かなきゃいけなかったりもする。雑誌づくりを一からやれば一通り応用可能な経験ができるんです。
でも、出版業界にはまだまだたくさん有能な編集者がいますけど、そういう人に限ってみんな雑誌が大好きだからそのままとどまってウェブの世界に来ないんですね。ウェブの世界観で雑誌の良さを活かせる人がもっと増えないとオンラインメディアに未来はないでしょう。だからピース・オブ・ケイクを起業した加藤さんなんかはユニークな存在ですね。アスキーやダイアモンドといった出版社で「もしドラ」などのたくさんの雑誌や書籍をヒットさせてから起業したから。
大熊 ピースオブケイクといえば、最近始まった「note」というサービスについてはどう思いますか?クリエイター側が自由に課金できるという仕組みですが、課金するのはどういう人なんだろう?と考えています。
津田 コンセプトは簡単で、”RT機能をなくして送金機能つけたTumbr”ですよね。面白いと思うし、応援したいですね。課金についてもすでに使用者が出つつあると聞いてますし。加藤さんの周囲にも、いろんな協力者がいますから、彼は僕なんかよりずっとチームワークがうまいんだろうなと思いますね。
津田大介(つだ だいすけ)
1973年生。日本のジャーナリスト、メディア・アクティビスト。Twitterにおける実況をいち早く取り入れたとされ、28万人以上のフォ ロワーを有する。主著に『動員の革命 – ソーシャルメディアは何を変えたのか』(中公新書クラレ)や『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)