「もしもし? 原稿、読みました。正直あんまりおもしろくないね」
東大生を50人近く取材して書いた原稿は、出版社からの電話一本で、あっさりボツになってしまいました。本作りの裏側は、なかなかに厳しい。
私達のサークル、「PICASO~東大・早慶ベストセラー出版会~」の目標は、学生の手でベストセラー本を作ること。実用書や学習参考書、就職活動書などの企画立案・原稿執筆を行い、出版社に持ち込むのが主な活動です。自費出版ではなく、出版社から印税や原稿料をもらって本を書くという、日本で唯一の商業出版サークルなのです。
PICASOの既刊 教育や就職など「学生だからこそ書ける」テーマを選ぶ
PICASOの代表作は、主婦の友社から出版された『東大生だけが知っている「やる気スイッチ」の魔法』。2012年に発売し、現在までに7回重版しました(重版とは、本が売れたときに追加で印刷すること。増刷ともいう)。今でこそ、ちょっとしたヒット作になった本書ですが、出版するまでの道のりは、長く険しいものでした。
『「やる気スイッチ」の魔法』のテーマは、「東大生の心」です。東大生の勉強術や、ノート術に関する本は数ありますが、そのメンタル面に注目した本は、いまだかつてありませんでした。サークルのメンバーや出版社の編集者の方と会議を重ね、「コツコツ努力を積み重ねる東大生の、メンタルの秘密」を探ることにしました。
企画会議の様子 出版社に持ち込むため、アイディアをぶつけ合う
東大生への取材は、サークルのメンバーで分担して行いました。取材を受けてくれる東大生を探すのはなかなか大変で、東大のキャンパスで見知らぬ学生に声をかけて不審がられたり、友達の友達の友達の友達に無理やり頼み込んで話を聞いたり。半年かけて東大生50人にインタビューして、原稿をまとめました。
ところが、あちこち駆けずり回って仕上げた10万字の原稿は、出版社側から「これでは売り物にならない」と言われてしまった! 「キミたちには読者の目線が欠けているよ」という指摘を受けて原稿を読み返すと、いかにも東大生らしい抽象的な精神論が多く、分かりにくかった。読者は「今すぐ東大生級のやる気を出す方法」を求めているのに、具体的な話がほとんどなかったのです。
「私たち、原稿を書くのに精いっぱいで、読者の気持ちを全然考えていなかった……」
ベストセラーは、ありとあらゆる人の心をつかむからこそ、ベストセラーに成り得る。どんな人でも気軽に実践できる、具体的なやる気メソッドを求めて、メンバーたちは再び取材へと走りました。
構想から2年以上かけ、『「やる気スイッチ」の魔法』はついに出版。取材した東大生は100人を超えました。完成した原稿には、「マニキュアを塗る」「音楽でゾーンに入る」「嫌なことにも”ありがとう”と言う」「携帯を解約する」といった、独特なやる気アップ方法50個を、具体的なエピソードとともに紹介しました。
ついに完成した『東大生だけが知っている「やる気スイッチ」の魔法』
PICASOで活動していると、最高だな、と思う瞬間が2つあります。本が出版されたときと、作った本の感想が読者から届いたときです。メンバーみんなで力を合わせて書いた本が、書店に並んでいるのを見つけたときの喜びは格別。「『やる気スイッチの魔法』、トイレに置いて家族で読んでいます。トイレに入るたびにやる気出ます!(笑)」という感想をもらったときは、自分たちの想いが読者の心に伝わったことを実感し、しみじみと嬉しくなりました。
取材や原稿執筆は、地道で根気のいる作業。しかし、その先にある読者の顔を思い描けば、度重なる取材も、徹夜でパソコンに向かうことも、つらくはない。
読者の心を動かす本作りを目指して、今日もPICASOのメンバーは、原稿を書いています。
メンバーの集合写真 一緒に本作りをしたい学生を、随時募集している
<サークル基本データ>
- 創設 2004年
- 活動人数 約25人
- 大学 東京大学・早稲田大学・慶應大学・お茶の水大学・明治大学・日本大学など
- 活動場所 早稲田大学学生会館
- 活動日 毎週土曜日
- HP http://picaso.jp/