学術ニュース

2019年10月25日

遠赤色光が植物の光合成の効率を上昇

(図)強光下では、光の一部は熱として散逸され、光化学系Ⅱの活性を抑える。弱光下、ほとんどの吸収した光エネルギーは光合成に利用される(河野特任助教ら発表の資料より転載)

 

 河野優特任助教(理学系研究科)らは16日、単独では植物の光合成を駆動しない「遠赤色光」が光合成の効率を上昇させることを明らかにしたと発表した。光合成能力の高い作物の創出による、将来的な食料不足解決が期待される。

 

 光合成では光化学系Ⅰ、Ⅱが機能し、強光下では光化学系Ⅱにある、光エネルギーを熱として散逸する機構が、光の過剰吸収で光合成装置が壊れるのを防ぐ(図)。光合成に利用される光の範囲は400〜700ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1メートル)の波長域に限られ、光合成有効放射と呼ばれる。

 

 700〜800ナノメートルの波長域「遠赤色光」は光化学系Ⅰに作用するが、光合成による酸素発生や二酸化炭素固定を駆動しないためか、光合成との関連は研究されてこなかった。従来、光合成測定の多くは遠赤色光を含まない光合成有効放射で、光強度が一定の環境で行われており、野外植物の環境を再現できていないという問題もあった。

 

 河野特任助教らは、遠赤色光を含み、光強度が変動する環境下で、シロイヌナズナの葉の二酸化炭素交換速度、光化学系Ⅱの活性と光化学系Ⅱの熱散逸機構の活性を算出。吸収した光エネルギーの光合成への利用と熱散逸を素早く切り替えることで遠赤色光が光合成効率を上げていることが判明した。その効果は強光から弱光に変わる際に顕著であることも分かった。


この記事は2019年10月22日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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