学術ニュース

2019年9月6日

細胞内へのリン脂質輸送機構解明

 平泉将浩さん(理学系・博士1年、田辺三菱製薬)らは、細胞を構成する生体膜において、リン脂質を膜の外側から内側へ運ぶ酵素「P4―ATPアーゼ」の立体構造を解明するとともに、詳細な輸送機構を明らかにした。P4―ATPアーゼの変異が原因となる神経系疾患や代謝疾患のさらなる理解が期待される。成果は8月15日付の米科学誌『サイエンス』(電子速報版)に掲載された。

 

(図)P4-ATPアーゼとCDC50の複合体のトポロジー図(左)とクライオ電子顕微鏡構造

 

 

 生体膜は、外側の層と内側の層で異なるリン脂質が分布することで、さまざまな生体反応に関与している。P4―ATPアーゼは「CDC50」と呼ばれるタンパク質と合体し、外側から内側へリン脂質の輸送を仲介することが知られていた。しかし、P4―ATPアーゼの立体構造や輸送機構については明らかになっていなかった。

 

 今回平泉さんらは、P4―ATPアーゼとCDC50の複合体の立体構造を解析するため、液体窒素で冷却した試料に電子線を照射する「クライオ電子顕微鏡」を使用。撮影した多数の像から立体構造を再構成する「単粒子解析法」によって構造を特定した(図)。さらに、P4―ATPアーゼがリン脂質を輸送する過程の複数の立体構造を明らかにすることで、従来考えられていたものとは異なる輸送機構の解明に成功。リン脂質の親水性(水に溶けやすい)部位が、P4―ATPアーゼの親水性の溝を通過することで、外側から内側への輸送が行われていることが分かった。


この記事は9月3日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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