能瀬聡直教授(東大大学院新領域創成科学研究科)らの研究グループは、ショウジョウバエの幼虫のぜん動運動を解析し、動物の体軸方向の運動での新たな速度制御機構を明らかにしたと発表した。成果は8月8日に国際生命科学誌『eLife』に掲載された。
頭尾方向に体軸を持つ動物は、体軸方向の運動の際、筋肉を頭尾方向に順次収縮させる。運動速度の調節には筋収縮が伝わる速度の調節が重要だと考えられ、それをつかさどる神経回路について研究が進んでいた。一方、筋収縮が行われていないタイミングでの速度制御については不明な点が多かった。
今回の研究では、ショウジョウバエの幼虫に注目した。幼虫は、尾から頭の方向に順に筋収縮する「ぜん動運動」を繰り返すことで移動するが、連続するぜん動運動の合間の静止期は筋収縮が行われていない。
幼虫の筋細胞を蛍光タンパク質で標識して幼虫の運動を可視化すると、各体節にある筋細胞のLT筋が静止期に全身で収縮していることが発見された。LT筋を制御する神経回路を調べたところ、A31cとA26fという神経細胞が静止期に活性化していることが分かった。これらの神経細胞の活動を光照射によって制御すると、LT筋の収縮時間と幼虫の移動速度が変化した。一連の発見から、筋収縮が行われていない時間を積極的に制御することで運動速度を制御するという、新たな速度制御の機構が示唆された。
今回の発見は、動物の移動速度を制御する神経回路の解明につながると考えられる。また、こうした動物の速度制御機構の知見は、生体に近い柔らかな運動を行うソフトロボット開発にも貢献すると期待される。