「東大PEAKに迫る①」ではPEAKの制度やPEAK生が学業上抱えている悩みを紹介した。では、生活面についてはどのような困難を抱えているのだろうか。PEAK生のみならず留学生全般に関わるこの問題について、今回はPEAK生も含めた海外からの留学生の支援を行っている国際交流センターの矢口祐人教授(総合文化研究科)にお話を聞いた。
(取材・宮路栞 撮影・石井達也)
矢口祐人(やぐち・ゆうじん)教授 (総合文化研究科、国際交流センター)
89年、ゴーシエン大学卒。99年、ウィリアム・アンド・メアリ大学大学院でPh.D.(American Studies)取得。北海道大学助教授(当時)などを経て、13年より現職。
――まず、国際交流センターはどのようなところですか
国際交流センターとは、留学生の相談に乗る留学生相談室、海外大学との連携を深める国際研究協力室、学生交流を推進するグローバリゼーションオフィスの三つをまとめたものです。教養学部の国際化をさまざまな形で支援しています。
――寄せられる相談にはどのようなものがあるのでしょうか
いろいろなものがありますよ。学業や生活に関する相談もあれば、心理カウンセリングも行っています。学年が上がると就職の相談もありますね。
――生活面の相談は具体的にどのようなものがありますか
寮についてのことから食べ物のこと、宗教上の祈りの場所など本当にさまざまです。宗教に関することは東大が国立大学であることもあり、判断が難しいです。
日本での生活全般については4月と秋にオリエンテーションを行っています。区役所での手続き・銀行の口座開設については、保証人の問題や留学生の口座開設には消極的な銀行が多いこともあり、学校でまとめて処理しています。
――PEAK生についてはどのように支援を行っていますか
PEAK生に特化して行っているものはありませんが、PEAKは今年で第6期生になり、先輩から情報を教えてもらえるようになったので前より履修登録などがスムーズに進んでいます。
――支援の過程で見えてくる問題点についてお教えください
東大は日本人・日本語・男性のコミュニティーです。それがデフォルトになっていて、デフォルトからは見えないことがたくさんあるのです。
例えば、4月に入学するのが前提になっていて、9月入学の生徒は駐輪ステッカーを1枚多く購入しなければならなかったり、サークルに入りづらかったりします。
そのように見えないものが見えたときにどうするのか、大学全体で留学生を受け入れ、自らも変わっていく雰囲気づくりが大変です。
――支援の成果はどのようなものでしょうか
成果、というのは判断が難しいです。少しずつ長期的・客観的に見ていく必要があります。ただ、20年前とは確実に変わってきたと感じています。構内に外国人学生の姿が増え、英語の授業はまだ少ないですがそれを受ける機会があるという点で変化があったと思います。
――学生交流の面ではどのようなことを行っているのですか
旅行・歓迎会や日本文化体験プログラムを実施しています。留学生だけでなく、いろいろな学生を集めるようにしています。日本人学生と接することによって交流の輪を広げ、学生同士の助け合いが生まれるのが理想です。
――学生同士の交流を生み出すのが活動の理念ということですね
そうですね。駒場の食堂でメニューの英語表記がないという問題について、学生が積極的に動いてくれました。TGIF(Todai Global Interaction Friends)などの学生団体も活躍してくれています。
交流というのはボトムアップのもので上から言っても仕方のないものです。学生自身の中からそのような気持ちが湧き上がってくれるといいですね。駒場での前期教養課程はそれにぴったりだと思います。
――前期教養課程が交流にぴったりというのはどういうことでしょうか
東大に入学するまでに積み上げてきた考え方を一度リセットして、新しい考え方を身に付けたり新しい出会いがあったりするのが「教養」課程の役割だと思っています。自分の思っていた「当たり前」が実は違うという意識を持つことが重要です。
留学は確かに新たな視点をもたらしてくれますが、それは東大の中でもできます。留学生との交流を通して環境の違いや多様な視点を考えていけば、おのずとグローバルな視点は身に付いていくのではないでしょうか。そのような交流の場所を我々はつくっていきたいと考えています。
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PEAKの誕生をはじめ、キャンパスの多様化は少しずつ進んでいる。現状をどう受け止めるのか、またそれをどのように良くしていけるのか。学生一人一人が留学生との交流を通して「教養」を深めていけるような雰囲気づくりが求められている。
【東大PEAKに迫る】