政治家に近い仕事は記者だと思う。そんなことを語る政治家がいる。2013年より北区選出の東京都議会議員を務める、おときた駿議員(32)だ。
おときた議員は、都議ブロガーとして知られている。当選以来、毎月30回以上のペースでブログの更新を続け、最近の月間PV数は20万~30万に達する。2014年の東京都議会やじ問題では、女性差別的なやじを強く批判した記事が大きな反響を呼んだ。政治の世界にネットを持ち込んだ異色の都議は、政治家をどのような仕事だととらえているのか。
インタビュー第3回では、政治家のやりがいを聞く。
―政治家として仕事をしていて、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
これは、すべてが自分の仕事になる、というところですね。ドキュメンタリーを見たり本を読んだりして、「子どもの貧困が…」とか「虐待が…」とか見て、みんな「悔しい」とか「なんでこんな悲しいことが…」と思って何かしようとするけれど、結局、何もできないじゃないですか。
すぐに寝て忘れたりとか、せいぜい募金したりとかですけど、政治家だったら翌日行政に一本電話をかけて、「この問題なんだけど現場を見たいです」と視察に行って、何でこんな問題が起きるのかとか、改善できないかとか、自分の仕事として動ける訳ですよ。
東京都政なんて大体「社会問題すべて」なので、テレビだろうが本だろうが、何か気づいたらそれは翌日、即自分の仕事になります。それはすごくやりがいのあることで、何かを変えたいとかよくしたいと思っている人には、ものすごく面白い仕事じゃないかと思います。
―じゃあ今、働かれていて楽しいですか?
楽しいですよ、基本的に。お金には一銭にもならないけど、人と会えば仕事が生まれるので。ブログ毎日書いていて大変ですねとか言われるけど、ネタはいくらでもあって、なぜなら生きているだけで仕事が増えていくから。
今日だって「学生の投票率が低いんですよ」と言ったら、選挙管理委員会が東京都にもあるから、「何でですかね」とか「今何してるんですか」って聞けば、それでもう仕事になります。
―今の話を伺っていて、議員の仕事ってジャーナリズムと重なっているところがあると思いました。
僕はまさに、政治家に近い仕事は新聞記者だと思っています。とにかく張り込んでいって、「何かネタないですか」と話を聞きに行くうちに、面白い話がどんどん出てきて、という。自分でネタを引っ張ってくる訳ですよね。
政治家も同じで、とりあえず現場に行って「これ何か問題あるぞ」と思ってつついてみたら何か面白いことが出てきて、それをたどっていって「お金の流れおかしいじゃん」とか「もっと改善できるじゃん」というところを見つけていく仕事です。発見力というか、自分から動かなければ何も生じない。
―何かを変えたいと思ったら翌日現場に行くことができるとおっしゃっていましたが、実際に何か変えることができた例はありますか?
最近だと、社会的養護と言われる、親がいない施設で暮らす子どもたちの問題に取り組み続けています。それに関しては、今年児童福祉改正法が改正されて、国や地方自治体でも予算がつくようになりました。当然僕だけではないけれども、ドラマの「コウノドリ」もヒットして、社会事象になってきて、去年結構盛り上がりました。政治もそういうことで動き始めるので、そこで一部貢献できたかなと思います。
それは僕が施設出身だった訳でもないし、知り合いがいた訳でもないけど、「おときたさん、児童養護施設 行ってくださいよ」と言われて、「じゃあ行くよ」と軽い気持ちで見に行ったら、すごい衝撃を受けて、「こんなことが世の中にあっていいのか」と速攻でブログを書きました。そうしたら別の団体から「うちのところにも来てください」と言われたりして、どんどん広がって、一年半くらいずっとその活動をしています。
―(おときた議員の所属する)かがやけTokyoさんって、割と小さな政党だと思いますが、その中での活動を変化につなげるために、どうやっているんですか?
これはもう、基本的に世論の後押しですね。政治家って人の話を聞かないって言われているんですけど、世論にはすごく敏感で、票になることはやる訳ですよ。票にならないことを野党がワーワー言ったって「へっ」と言って終わりなんですけど、ネットでこれは問題だとなって、それを新聞とかテレビが拾い始めると、自民党さんとか耳がピクピク動き始めて、あたかも自分たちが最初から取り組んでいたかのように実現するんですよね。
だから僕らの手柄にはならない。それはもうしょうがないんですよ。でも結局変わったならいいんじゃないっていうことで、最後は自民党・公明党に花を持たせて、「自民党・公明党さんの提案でやってください」という気持ちでやってもらうというのが、野党の生き様ですね。
―自身が触媒になるような感じですね。
そうですね。単独で何かをやるということは不可能で、どこかで与党とはうまくやらなきゃというか、彼らを動かさなければ物事は動かないので。
だから僕はブログを書くし、みんなに知ってもらって、皆さんから「これおかしいじゃないか」と都議会に電話が100本入れば、彼らも何事かと思って動くんですよ。僕らみたいな小さな政党は、世論がなければ何もできない。でも逆に言うと、それがあれば動かすことができるので、それをどう作っていくかというところが腕の見せ所でしょうね。
取材を終えて
政治とメディアの関係に興味を持つ私にとって、「政治家に一番近い仕事は新聞記者」というおときた議員の話は、非常に興味深かった。
ブログという手段の出現以前、テレビにせよ新聞にせよ、巨大な組織の中で多様な職種の人々と協力しなければ、記者の仕事を成立させるのは難しかった。しかし、インターネットとSNSの出現がその障壁を取り払い、おときた議員のような「ジャーナリスト的政治家」の誕生を可能にしたと言えるだろう。そうした議員は、情報の発信に長けた政治家としても、政治の世界を内面から理解するジャーナリストとしても、今後重要性を増す可能性がある。
次のインタビュー第4回では、おときた議員が政治家を志した経緯を聞く。