「推し活」。最近この言葉をよく耳にする。2021年には新語・流行語大賞にノミネートされた。意味は文字通り「推し」であふれている生活を送ること。自分のことを知らない「推し」を追いかけ、近づくことを目標にする。舞台やライブに参加して、グッズ購入などに力に入れる。しかし、実際にどんな生活しているのか理解している人は少ないだろう。
第164回芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』(河出書房新社、2020年)はアイドルの「推し」を追いかける女子高校生の物語。高校生の生活を送りながら、ファンとしての幸福や苦労、他のファンとの絆や他人から受けた偏見について主人公が語る。
本書の主人公は・あかりは、姉と両親と一緒に4人家族で暮らし、学校とアルバイトの日々を送っている。彼女の推しは男女混合アイドルグループ「まざま座」のメンバー、上野真幸。しかしある日、上野がファンを殴って「炎上」。物語が始まる。
推しを生きがいにするファンとして、姉と比較される妹として、母親に将来を心配されている娘として、学校とアルバイトがうまくいかない高校生として──あかりのさまざまな立場の目線で本書は語られる。「ふつう」ではないあかりにとって「推し」は支えである。
「推し活」は消費活動である一方で、生きがいでもある。物語では後者の「推し活」について、あかりの目線から体験することができるだろう。
本書は宇佐見りんの2作目の作品。宇佐見は19年にデビュー作『かか』で第56回文藝賞を受賞し、20年には史上最年少で三島由紀夫賞も受賞した。彼女の文体の魅力は、現代のトレンドや用語を使用して若者の世界観を表すことだろう。例えば本書でも、主人公のあかりがインターネットのブログに日記や感想を書いてネット上の友だちとやりとりをする姿が見られる。本書の物語で時代を感じられるのではないか。
また、主人公の気持ちや考えは、発言だけではなく、句点や読点、文章の長さなどの文体で表されている。例えば、アルバイトで慌てるあかりの気持ちは、4行の句点なしの文章で説明されている。悲しみも、ストレートな表現ではなく短い文章を並べることで描写される。
ただ推しを応援すれば「推し活」になると思うかもしれないが、そう簡単に片付けられないことが本書で分かるだろう。知っているような、知らないような、「推し活」の姿を本書で確かめてみたらどうだろうか。【澪】
著者
宇佐見りん(うさみ・りん)
1999年静岡県生まれ、神奈川県育ち。2019年『かか』で第56回文藝賞を受賞、第33回三島由紀夫賞を史上最年少で受賞。『推し、燃ゆ』で第164回芥川賞を受賞。