木村謙介さん(新領域創成科学研究科・博士課程3年)らの国際共同研究グループは、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)デバイスにおいて重要な役割を担う三重項励起子を低電圧状態において選択して作り出すことが可能な新たな機構を発見した。成果は13日付けの英科学雑誌『ネイチャー』に掲載される。
有機ELとは有機分子に電流を流すことで発光する現象。スマートフォンの画面に応用されるなど、次世代ディスプレイや照明パネルにおける技術として実用化や商品開発が進められている。
有機ELはマイナスの電荷を持つ電子とプラスの電荷を持つ正孔が互いに束縛されて形成する励起子が発した光を利用する。励起子には蛍光を発する一重項励起子とりん光を発する三重項励起子の2種類がある。現在主流のりん光を用いた有機ELデバイスは蛍光を用いたデバイスより駆動電圧が高く、さらにエネルギーが高い青色のりん光材料は商用化が困難であるといった問題があった。
今回の研究では、ナノメートルスケールの空間分解能を持つ走査トンネル顕微鏡をベースとした発光分光法を開発。2種類の励起子のうち三重項励起子の方がエネルギー的に低いことに着目して三重項励起子の形成過程を単一分子レベルで詳細に調査した。結果として、三重項励起子を低電圧で選択的に形成できることを理論的に証明した。
三重項励起子形成の新たな機構が発見されたことにより、現在よりエネルギー効率の良い有機ELデバイスや青色のりん光材料の開発、商用化が実現する可能性がある。注目を集める有機ELデバイスの革新につながるとして期待される。