イベント

2023年5月11日

誰もが健康でいられる社会を目指して 政策立案コンテストイベントレポート

 

 

 学生団体GEIL(ガイル)主催の政策立案コンテストが3月18、19日にLMJ東京研修センターで開催された。ミッションとして据えられたのは「政府が行う健康医療データの収集、加工、公表、活用を通じて、自身の健康に関する自由な選択を可能にする社会を実現するための政策を提案せよ」。さまざまな大学から集まった参加者が2日間かけて考えた政策のプレゼンテーション(2日目)の模様をレポートする。(取材・松本雄大)

 

 プレゼンテーションは3月19日午後2時20分から開始された。審査員は野口なつ美さん(美容皮膚科医、渋谷美容外科クリニック渋谷院副院長)、藤岡雅美さん(経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 総括補佐)、古谷雅彦さん(学校法人駒澤大学フェロー)、森川敬太さん(医療法人鉄蕉会 亀田総合病院・亀田ファミリークリニック館山 家庭医診療科)の4人が担当した。

 

 審査の基準は「学生ならではの視点」や「課題の表層ではなく構造を理解しているか」「社会にとっての利点と個人にとっての利点の両方が考えられているか」など多岐にわたる。

 

 1グループ3〜4人で割り振られ、計8グループが構成された。参加者が対面で交流を行うのは2日間のコンテスト期間のみ。しかしながら、Zoomで事前に交流を図る機会を設けるなどの運営チームの工夫で、参加者同士が打ち解け合い、会場は和気あいあいとしていた。

 

チーム内での交流の様子
チーム内で交流(写真はいずれもGEIL提供)

 

 プレゼンテーションではテーマを基に、特に「健康」という言葉がどのような意味を表すのかを軸に現状分析を行い、各チームが問題点をあぶり出した。医師側が保持している治療法に関する情報が患者側に十分に伝わっておらず、患者の治療法に関する自由な意思決定が阻害されているという「医師と患者の情報の非対称性」が現状の制度の問題であると考えたチームは患者が自身の患った症状を入力し、どの診療科に行けば良いかや、治療にかかる一般的な費用を示すチャット式の対話型AIの開発を提言。AIに学習させる情報は診療ガイドラインや最新の論文、診療報酬表などだ。提言を国家が政策として進める意義は、扱う内容が患者のプライベートな側面に大きく関与するものであり、安全性の担保のためだとした。

 

 「医師と患者の情報の非対称性」を扱った別のチームは処方される薬に患者が十分に情報を持てていないことだけでなく、薬は家庭で使うものであるため、医師も患者のライフスタイルを把握できず、適切な処方が難しい「情報の非対称性の逆転」が起きると指摘。薬剤師も巻き込み、医師、薬剤師、患者の情報共有に関するガイドラインを定め、スマホアプリで「e-お薬手帳」を作成。処方されている薬をいつ服用しているかなどを記録し、共有することで問題を解決できないかと考えた。

 

 プレゼンテーション終了後は審査員の森川さんから、患者が医師に対して情報を伝えるのは患者の義務であり、e-お薬手帳の構想はすでに実行されているため差別化が必要などのアドバイスがなされた。

 

 与えられたテーマから「自身がなりたい健康状態を誰もが目指すための選択肢を獲得できる社会」を目指し、医療に参加できない人々の存在を問題に設定したチームもあった。貧困を理由に医療に参加できない子どもの存在を問題にしたチームは「家庭環境により健康状態でいるという意識そのものが欠如した子どもの存在」を指摘。貧困が子どもの健康状態に影響を与えていることを述べた。政策に貧困層の子どもの健康的な生活のサポートのため、電子母子手帳のアプリ作成を提案した。審査員の古谷さんからはネグレクトを含めて顔を合わせて現場の人が対応するしかなく、アプリで解決できる問題ではないという厳しい指摘を受けた。

 

 全てのチームが発表を終えると、審査員から全体への講評が行われた。審査員の古谷さんは「全体的に国が主体となって行う案を発表するチームが多かったが、国がルールを策定し、民間企業におろすという観点で政策を考えてみるのも良い」と参加者に向けてアドバイスした。コンテストを主催した学生団体GEILへは参加者に与えたテーマは問題点が明確ではなく、政策立案コンテストを行う上では課題点がもう少し明確であるべきだと指摘。参加者、運営側ともに非常に学びの多い時間であったと感じられた。

 

講評の模様
講評の模様

 

 閉会式を迎え、優勝チームが発表された。優勝したのは「不平等な医療の解消」を目標とし、地域医療の中でも特にへき地医療の推進に関する政策を考えたBチーム。医師の偏在を解消するために用いられる医師偏在指標を取り上げ「医師偏在指標で見ると埼玉県は医師不足だが、埼玉県は東京都と隣接し、交通の便も良く、本当に埼玉に住んでいる人が医師不足で悩んでいるかはこの指標では分からない」と現状ではどこに医療が行き届いていないのかが考慮された地域医療の改革が行われていない点を指摘。国勢調査やオンライン診療時にアンケートを行い、病院までのアクセス方法や時間、どの診療科が必要とされているのか患者を対象に実態調査を実施することを提言した。具体的な問題点を指摘し、班員の発表もはつらつとしていた。審査員からはテーマの斬新さや、医師偏在指標の問題点の指摘の有意義さなどが評価された。

 

 濃密な2日間で得た経験を糧に、参加者と本夏に再びコンテストを開くGEILの運営陣がさらなる飛躍を遂げることを期待したい。

 

 

優勝者の写真
優勝チームの4人

 

優勝したBチームのコメント

 

小林駿斗さん(早稲田大学)

 

 大学で弁論部に所属していて、東大弁論部の友人に誘われたのが参加したきっかけです。政策立案をするという点で、弁論作成と共通することはあるものの「医療データ活用」というテーマに全く馴染みがなかった点は苦労しました。理想とする社会像は大きく取り、問題はできる限り具体的に、政策は現状分析や問題と一致するように心掛けました。

 

 多種多様なバックグラウンドをもつチームで政策立案できて、とても楽しかったです。自分の弁論や所属する弁論部にも大いに参考になりました。チームの仲間にもとても感謝しています。端的に言えば「優勝できて嬉しい!」が素直な感想です(笑)。

 

森元隼人さん(國學院大学)

 

 大学の学部は宗教系で、政治に関心があると言っても医療関連に触れる機会は多くなく難しかったです。「政策立案」という性質上、どうしても国を主体にし、理想状態に至るために国がアプローチをする立案になってしまいがちだったが、実現可能性と合理性について俯瞰(ふかん)で考える点で苦労しました。

 

 普段は1人で思案に耽(ふけ)ったりすることが多いので、他の人と意見を共有させながら一つのプランを立てていく過程が新鮮でとても面白かったです。チームのメンバーそれぞれ特徴的で、時にはわちゃわちゃ、時には真剣と、そのスイッチの切り替えがとても上手だったのかなと思います。とても楽しく、実りの多い二日間でした! 運営の皆様ありがとうございました!

 

チャンタンズンさん(一橋大学)

 

 私は政治の潜在的な力と国民の力を最大限に活用できるダイナミックな政治家になりたいと思っています。そのためには、政治と社会に関連する政策がどのように立案されるのかより深く理解する必要があると思い参加しました。

 

 政策立案において、取り組むべき課題を明確に把握し、その背景や要因を深く分析することを意識しました。今回のコンテストへの参加は自分にとって非常に興味深く、挑戦的であり、多くのことを学ぶことができました。政策立案には問題の背後にある要因を理解するために広範な情報収集が必要で、それですごく大変でした。私たちの活動に協力してくださったガイルの皆様に深く感謝しています。

 

井戸萌さん(東京女子医科大学)

 

 医系技官という職業にかねてから興味があり、友人のインスタのストーリーで医療系のテーマで政策立案を体験することのできるコンテストがあることを知り、参加を決めました。個性豊かなメンバーのそれぞれの強みが活かせるよう、自分ができること・できないことを意識しながら話し合いをするようにしたのが工夫した点です。

 

 政策立案を通じて大変勉強になる時間を過ごすことができた上に、普段は関わることのない他学部の学生と交流を持つことが非常に楽しく、とても充実した2日間でした。

 

GEIL代表 加納孝祐さん(経・3年)コメント

 

━━代表として初めてのコンテスト運営を終えた感想は

 

 コンテストを終え、まずはほっとしたというのが正直な感想です。GEILでは4月の入会から半年後に、すぐ自分たちの執行代が来ます。ノウハウが少ない中での、団体運営やコンテスト運営はチャレンジングなものになります。失敗を経験する中で、課題を認識し、夏のコンテストでベストを尽くせるよう改善に努めたいです。

 

━━準備の面で大変だったことは

 

 GEILでは政策立案コンテストという枠はありますが、内容や形式は自分たちが一から作って行くことができます。決められた正解が存在するわけではなく、自分たちで何が正解かを決めていく作業には、経験したことのない難しさがありました。個性の強いメンバーが多い(笑)中で、意見をまとめあげていくことは大変でしたが、その過程でメンバー全員が成長することができたと感じています。

 

━━夏のコンテストに向けて

 

 8月27日~9月3日に行われる「第25回学生のための政策立案コンテスト」では科学をテーマに掲げ、参加者を全国から80人集め、7泊8日の合宿形式で行います。

 

  日本最大規模の政策立案コンテストの実施に向けて、今回の反省も踏まえ、準備に邁進(まいしん)します。密な議論を体験したい、現役の官僚の話を聞いてみたい、優秀な同世代の仲間と出会いたいと思った方はぜひ参加してください!

 

<夏のイベント詳細>

https://waavgeil.jp/25th2023-contest/ 

・いきなり1週間のコンテストは不安だという方向けには、6月17、18日に今回同様の2日間のコンテストを開催しますので、奮ってご応募ください!

https://waavgeil.jp/2days-geil/ 

 

GEILホームページ

https://waavgeil.jp/

 

【記事追記】2023年5月11日22時46分、「優勝したBチームのコメント」の追記などを行いました。

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