(前回から読む)
現在は、東大の大学院に在籍しながら、雑誌などでの文章や絵の執筆活動でも活躍している大石蘭さん。就職活動をせずにフリーの文筆家として身を立てていくことを決心した理由とは。そして、東大受験・学生生活での経験は執筆活動にどう役に立っているのでしょうか。
―― 大石さんは現在東大の大学院に在籍しながら、雑誌などで文章や絵を執筆する仕事もされています。もともと小さいころから絵や文章を書くのが好きだったということですが、東大に入ってから就職を考えたりしたことはなかったんですか?
大石 じつを言うと、1回も考えなかったです。
―― おお!
大石 でもそれは、自分の実力に自信があったからとかではないんです。何度も言っていますが、集団にあわせるのがほんとうに無理なので、会社員は無理だと思ったからです(笑)。
―― (笑)。でも実際に『spoon.』などの雑誌で仕事をし始めて、今回コミックエッセイまで出すことになったのは、本当にすごいですよね。学部在学中から、執筆業で自立するためにいろいろ行動されていたんでしょうか。
大石 いや、そんなことは全然ないんです。『spoon.』で書けることになったのは、通っていた6次元というブックカフェギャラリーの常連さんに偶然編集長がいて、作品を見てもらう機会があったからですし。
というか、もともとは今のようなかたちでの表現活動じゃなくて、小説家を目指していたんですよ。大学では4年間文芸サークルに所属していて、文芸賞への投稿もしていました。
―― どういう小説を書いていたのか気になります。
大石 よしもとばななさんが好きだったので、多少影響を受けた作風のものを書いていましたね。これがサークルのメンバーに不評で。
―― 人物描写が甘いとか、ストーリーがよわいとか、批判を受けていたということでしょうか?
大石 そういう指摘もあるんですけど、そもそも純文学ではないものを書いている自体が不満らしくて、ずいぶん説教されました。私が執筆や読書以外のことにハマりだすと「もっと本読んだら?」なんて言われたり。まあ、たしかに私も急にヨガを始めてみたり、パン屋でバイトしてみたり、結構まわりから見るとフラフラしているように見えたんだと思うんですけど……すみません、ちょっと愚痴っぽくなってしまいました(笑)。
―― なるほど。でも、そうした環境でも、頑張り続けられるのがすごいなと思います。あまり人の批判は気にしないタイプなんでしょうか。
大石 作品を世に出す以上、人に認められないとやっていけない部分もあるとは思いますけど、やっぱり自分で自分を認めたい気持ちがつよいですね。そういう性格なんだと思います。
親によれば、わたし、1歳のころから絵を描いていたらしいんですけど、絵を描きながら、頭をかかえていたそうなんですよ。「なっとくがいかない」「なっとくがいかない」ってつぶやいて。
―― えええ(笑)。それは筋金入りですね。でも、だからこそ、成果を出せているのかもしれないですね。
大石 ありがとうございます。もちろん私も、小説で認められたわけではないですが……でもエッセイでもイラストでも、自分が感じたときめきを人に伝えられることは変わりないですし、書いていてとても楽しいです。そこからいろいろ仕事が広がって、今回コミックエッセイを出すことになりましたし、いつか小説も発表できたらなと思っています。
―― 何の縁が自分のやりたいことにつながっていくか、ってわからないものですよね。
大石 私はちっちゃいことにいちいち感動する性質なんですよね。周りからは「そんなのたいしたことないじゃん」って言われることも結構あるんですけど、小さい感動を大切にすることでつながっていくものもあるなあと思っています。
そうそう、さっきパン屋でバイトを始めたという話をしたんですけど、じつは『spoon』の編集長に出会ったブックカフェ、6次元に連れて行ってくれたのは、パン屋のバイトでできた友達だったんです!
―― おお!
大石 あのときは本当、自分のやりたいことを信じてよかったです。人に言われたことだったり、「こうでなければいけない」とか「まちがっちゃいけない」とかいう先入観を優先して、いろいろな機会を逃すのは、もったいないじゃないですか。
私達の世代は、とくにそうした「まちがい」に対する強迫観念がつよいのかなと感じます。でも、自分のやろうとしていることが正しいかなんて、すぐに答えの出るものではないし、正解自体、かならずあるものじゃない。だから、もちろん人に迷惑をかけるところもあるんですが、いろいろ飛び込んで、試行錯誤したほうが人生楽しくなると思うんです。
―― 東大受験での経験が、執筆活動に生かされていると感じることはありますか?
大石 たくさんあります。本をつくるのは、もちろんいろいろな人の支えがあればこそなんですけど、自分が考えたり書いたりしないと進まないことなんです。経験のある人にどうしたらいいんですかって聞いたり、怒られるの覚悟で教えてもらったり、ダメだって言われて落ち込んだり、ということの繰り返しです。それは、受験のときに勉強についてやっていたこととまったく同じだった。そういう意味では、東大受験での苦労は、いまの進路にとって必要なことだったなとつよく思います。
―― 大石さんは現在、大学院に進んで研究をしていますよね。学問を続けることは、執筆活動とはちょっと離れた方向のようにも思うのですが、そこはどうでしょう。
大石 そんなこともないんですよ。じつは大学院に進んだのは、表現活動に生かすためなんです。
―― そうなんですか!
大石 というのも、私は院で雑誌研究をしているんです。過去の雑誌についていろいろ知ることは、自分の執筆活動にすごくプラスとなるんですよ。自分の表現を磨くうえで役に立つし、あと、わたしは雑誌というメディアが好きで、それを盛り上げるために何かできる書き手になりたいので。
研究と執筆活動の両立はなかなか大変で、すでに窮地に立たされているのですが(笑)、まずは『妄想娘、東大を目指す』ができるだけ多くの人に届くようがんばりたいと思います。
(おわり)
大石蘭(おおいし・らん)
東京大学総合文化研究科に在籍。雑誌研究のかたわら、女性向けカルチャー誌『spoon.』などで絵や文章を執筆。絵や文章を書くのが大好きな妄想少女だった自分が、いかにして東大合格をはたしたかを描いたコミックエッセイ『妄想娘、東大をめざす』が3/20に発売。3/18〜3/22には、原宿のカフェ・シーモアグラスで『妄想娘』原画展も開催。
Twitter:https://twitter.com/wireless_RAN
ブログ:http://fatale.honeyee.com/blog/roishi/