ふわふわとしたロリータ服を可愛く着こなし、女性向けカルチャー雑誌での執筆でも活躍している大石蘭さんは、現在東京大学総合文化研究科に所属する、れっきとした東大生。
偏差値48から東大を目指し、みごと合格をはたした経験のある大石さんは、3月20日にコミックエッセイ『妄想娘、東大をめざす』(幻冬舎)を出版します。一見、”東大生っぽさ”を持たない大石さんは、なぜ東大を目指したのでしょうか?
―― 大石さんはエミリーテンプルキュートなど、フリルやレース、可愛いイラストがついたお洋服が好きということですが、今日も素敵な格好ですね。
大石 ありがとうございます。でも別にそんなにたくさんの服を持っているわけじゃないんですよ。このスカートは最近買ったものなんですけど、コートは中学3年生から着ているものです。
―― 大石さんが雑誌『spoon.』で書いた「そんなお洋服ばっかり着ていると、バカに見えるよ」にも登場するコートですよね。「そんなお洋服ばっかり着ていると、バカに見えるよ」は、大石さんがいかにして東大受験を乗り越えたかを、イラストと文章でつづった内容です。あれを書くことになったきっかけはなんだったんでしょうか。
大石 『spoon.』は、女性向けのカルチャー誌なんですが、もともと大好きで、中学のころから愛読していました。縁があって、2012年の末からいろいろ書かせていただいていたんですが、そうしたら、たまたま「ロリータと装甲」という特集をすることが決まって。「蘭ちゃんの、”ロリータ×受験”という軸は新しいから、何か書いてみないか」と言われて、書かせていただくことになりました。
―― それが反響を読んで、今回『妄想娘、東大をめざす』というコミックエッセイを出すことに。
大石 はい。それまでイラストは好きで描いていたのですが、マンガを描くのは初めてで、しかも140ページ描きおろし……正直東大受験よりぜんぜん大変でした(笑)。
―― すごくパンチのあるタイトルですよね、「妄想娘」って。妄想、趣味なんですか?
大石 かしこまって趣味というほどのものでもないんですけど……。マンガや小説を読んでいても、つねに誰をキャスティングしたら面白いだろうと考えてしまいますね。受験のときも、未来の楽しい自分を全力でイメージしたり、好きな音楽や本に助けてもらいながら、乗り切りました。
―― もともと勉強ができなかった、可愛いものや妄想が好きだった大石さんが、どうして「東大受験」を目指したんでしょうか。
大石 やっぱりまず、東京に行きたいという気持ちがありました。福岡の田舎で育ったので。エミリーのお洋服を買いに行きたいというだけでなく、椎名林檎さんや蜷川実花さんなどが表現している世界が東京にはある、自分もそちらへ行きたいという憧れがありました。
―― そのときに東大以外の大学を受験することは考えませんでしたか?
大石 小さいころは、なんでもいいから東京に行きたいと思っていたんですけど、受験を決心したときには、東大以外考えませんでしたね。やるからには一番を目指さないとだめだと思ったんです。そもそも勉強をがんばろうと思ったのには、東京に行きたいという気持ちのほかに、自分を変えたいという決心があったからなので。
中学3年生のときに進路を考える機会があって、自分についていろいろとふりかえってみたんですけど、自分には何も最後まで頑張り通した経験がないなと気づいて。絵や文章は好きだけど、その実力を認めてもらえるほどの努力はできていない。これじゃだめだ……って自信をなくしかけたときに、いっそこれまでまったく頑張ってこなかったことを一から頑張ってみたらどうだろうって。
―― 自分を変えるには、東大しかないと。
大石 ダイエットと同じ発想なんです。最初から平均体重を目指しても、それがたとえ成功してもあまり自分が変わったように感じたり、自信を持ったりできないと思うんですよね? どうせやるならモデル体型を目指したい。ドMなんです(笑)。
といっても、あくまで自分が頑張ればできることを選んではいます。たとえば、私は集団のために貢献するのが、ほんとう、体質的に無理なので、スポ根の部活に入ってがんばろうとかはぜんぜん考えませんでした(笑)。
―― なるほど(笑)。『妄想娘』を読んで、勉強仲間の少ない環境で頑張っていてすごいなと思ったのですが、むしろ一人のほうがラクなタイプなんですね。
大石 それ、自分でも原稿を読み返して実感しました。学校では、東大を受験することはあまり言わないようにしていたし。
―― 周りから何か言われたりすることはありましたか?
大石 本当に一人でやっていたんで、ノイズも少なかったですね。誰も東大を目指さない学校だったので、「東大に行く」なんて言うのは、「わたし、宇宙に行く」と宣言するようなものなんです。
―― 宇宙(笑)。ふつうの人間の行くようなところじゃないと。
大石 ちょっと成績が良かったときに「進路、東大って書いちゃえば?」なんて冗談を言う人はいても、本当に目指している人は一人もいませんでした。だから、私も、言ってしまうとプレッシャーになってしまう気がして、それが嫌で内緒にしていましたね。結局、なんとなくバレていたみたいですが(笑)。
塾でも、基本的には、一人で行動していましたね。学校から帰ったらエミリーのお洋服に着替えて、ひとりで黙々と通っていました。
―― 服装について何か言われたことはありましたか?
大石 直接言われたことはないですね。でも、この間ひさしぶりに当時お世話になった職員さんと話したら、「『あのヒラヒラした服の子なんなの?』って浪人生がケチをつけてきたことがあったから、『あの子、あんたより成績いいよ』って教えた」と言っていました(笑)。
―― やっぱり、人を服で判断しちゃいけないなと思いました。
大石 いやいや、実際、最初はほんとうに成績わるくて、「バカ」でしたし。でもそんな私が描いたコミックエッセイだからこそ、伝えられることもあるんじゃないかなと。これから受験をむかえていて、不安や悩みを抱えている人たちにぜひ読んでほしいと思っています。
あとは、なにか壁をやぶらないといけないことって誰にでもあるじゃないですか。就職だったり人間関係だったりいろいろなことに悩んでいる人が読んでいて一緒にがんばれるような、気持ちになってもらえたらいいなと思います。
次回、好きなものをバカにされたくないなら、やるしかない。大石蘭さんインタビュー2
大石蘭(おおいし・らん)
東京大学総合文化研究科に在籍。雑誌研究のかたわら、女性向けカルチャー誌『spoon.』などで絵や文章を執筆。絵や文章を書くのが大好きな妄想少女だった自分が、いかにして東大合格をはたしたかを描いたコミックエッセイ『妄想娘、東大をめざす』が3/20に発売。3/18〜3/22には、原宿のカフェ・シーモアグラスで『妄想娘』原画展も開催。
Twitter:https://twitter.com/wireless_RAN
ブログ:http://fatale.honeyee.com/blog/roishi/