吉田浩太監督の映画『女の穴』が、28日から一部映画館で公開されている。
ふみふみこの短編漫画集「女の穴」を原作とし、市橋直歩、石川優実という二人のグラビアアイドルを主演に迎えた、エロティックで痛快なコメディ映画である。
だが、この映画が注目を集めている理由は、そのエロさやコメディタッチの面白さだけではない。登場人物の滑稽さや醜さに垣間見える人間のリアルが、観た者の自意識を揺さぶるからだ。
この映画は「人間との子どもを作りたい」と男性教師に迫る宇宙人の女子高生や、ゲイの中年男性教師を偏愛する優等生女子をめぐる物語だ。
両主演女優の演技はフェティシズムをくすぐり、登場人物の滑稽さは思わず声を出して笑ってしまう。話が進むにつれて見えてくる人間の愚かさや醜さは、観客自身の愚かさと重なり、見るものを不安にさせる。それでいてストーリーはハートウォーミングであり、観終わったあと優しい気持ちにしてくれる。
我々の人生において、決して起き得ない(はずの)ストーリーなのに、どうしてかこの映画は、やたらとリアルに感じられるのだ。それはこの作品が、人間誰しもが持つ醜く愚かな部分を、明瞭に指摘して表現しているからだろう。観客は自分自身にもそういった愚かしい部分があることに気づく。
しかし、この映画は、その人間の醜さを糾弾するわけでも、批判するわけでもない。優しく肯定して手を差し伸べているのだ。
僕らが生きてきた中で、自ずと内面化していた社会的規範、そしてその規範が抑圧してきた僕たち自身の中にひそむ原始的衝動。この映画は観客に、その両方を意識させ「自分が何をしたいのか」考えさせる。
ハートフルで少しエロティックでありながら、観客の自意識を揺さぶる素晴らしい作品だ。東京都内では渋谷ユーロスペースにて、6月28日から公開している。
(文:須田英太郎 @Btaros)