新型コロナウイルスの感染拡大は、授業の実施方法や形式だけではなく、学生の生活の在り方そのものをも大きく変えた。東京大学新聞社の取材でも、特に人間関係の面での不安や心配を吐露する学生も多い。今回は、自粛中の東大生をオンラインでつなぐ取り組みを展開する学生や教員に話を聞き、取り組みの内容や問題意識に迫った。
(取材・中野快紀)
東大工学部4年生の2人が主催する「東大シャッフルランチ」では、毎日昼休みの時間帯に学生のマッチングを行い、コミュニケーションの場を提供。4月25日から開始され、現在は各回20人弱の学生が参加する。
主催者の1人、笹倉まおさんは、新型コロナウイルスの感染拡大以前から東大内での学部を超えたつながりの機会を求めていたという。自粛期間が長引く中、自分で取り組みを始めることに。「興味のある分野について語れたり、新たなことに一緒に挑戦できたりする人を見つけられることが東大の魅力。出会いのきっかけとなるような、授業後や空きこまの偶然の会話の機会が失われている今、その役割を果たすオンラインコミュニケーションの可能性を模索していました」
もう1人の主催者、佐野由季さんは現在実家を離れて1人暮らしをしている。時々実施されるミーティングや友人との通話を除けば人とコミュニケーションを取る機会はほとんどなく、ただ授業を聞いてばかりの生活が続いていた。「特に1人暮らしを始めたばかりの新入生は、オリ合宿もなく授業にも行けず友達をつくるチャンスが少ないと思います。この取り組みが友人づくりのきっかけになってくれればと思います」
参加者からも「普段学年が離れた学生と話す機会は少ないため参加してよかった」「ランダムにマッチングするという仕組みが、いろいろな東大生と話せるため良い」といった声が上がっているという。毎回行っているアンケートの結果によると満足度は高いそうだ。
ただし、目的や興味などに応じてマッチング基準を多様化したり、交流の場を必要とする学生によりリーチしたりするには知名度の向上が不可欠だと語る笹倉さん。Twitterを通した告知を行うとともに、口コミの拡散を期待している。「世界中の学生が集うオンライン上の食堂のような存在になればいいですね」(佐野さん)。今後はオンラインという特徴を生かして海外大の学生との交流の機会を模索するなど、新型コロナウイルス感染終息後も見据えた展開を構想する。
雑談で学生に寄り添う
昨年度まで開講されていた前期教養課程の主題科目「ココロのトリセツ」の参加学生は、ウェブ会議システム「Zoom」を使用した交流イベントを昼休みの時間帯に実施している。駒場Ⅰキャンパスの初年次活動センターで例年開催されている、さまざまなテーマに沿った交流イベント「駒場しゃべランチ」のオンライン版という位置付けだ。学生のみが参加するものと教員を交えたものの2種類があり、8日から不定期で開催されている。
きっかけは、ゼミ生と担当教員の細野正人特任助教(東大大学院総合文化研究科)の間でオンライン授業について話し合ったこと。大学生活で重要な、授業後の雑談などの機会が十分でないという意見で一致し、交流の場を設けた。
細野特任助教はオンライン授業の導入に当たり「どうしても取り残されてしまう人」が生まれてしまうことを指摘。「大学側は可能な限り学生へのサポートを整えようとしていますが、不足している部分もあります。ゼミ生と協力しながらサポートについて考えていきたいです」。運営に携わるゼミ生の1人、大久保紗佳さん(理Ⅱ・2年)も「クラスメートとあまり仲良くなれなかったり、授業に疲れてしまったりといった、交流の場を必要とする学生の居場所になってもらえれば」と思いを語る。
今後の開催に際し、細野特任助教は参加への敷居を下げることと雑談の重要性を知ってもらうことを課題に挙げる。「人と会えない今だからこそ、雑談が重要だと感じられる場を提供したいと思っています」
東大シャッフルランチのTwitterアカウント
@lunch_utokyo
駒場しゃべランチのTwitterアカウント
@shabelunch
この記事は2020年5月19日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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