PROFESSOR

2021年11月18日

コロナで変わった?「祭りの在り方」を問い直す

 

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、人々の生活様式は大きく変わった。駒場祭も2年連続でオンライン開催となったように、全国各地の祭りもオンライン開催となったものが多い。開催様式の変化に伴って「祭りの在り方」は変わったのだろうか。日本中世の芸能を中心として、民俗芸能や儀礼を研究している沖本幸子准教授(東大大学院総合文化研究科)に話を聞いた。(取材・安部道裕)

 

神様のいる祭りから現代の多様な祭りへ

 

 祭りは元来、地域や共同体の中で、自然や死者などの神に祈り、願うイベントだったという。しかし今の時代、神に祈りを捧げるわけでもない駒場祭などの文化祭があるように、祭りの意味は拡張されてきた。また祭りの文化は国によっても異なってくる。例えば学校の文化祭という祭りに注目してみると、実は世界中で見られるわけではないという。「私は米国の大学に1年ほどいましたが、大きな行事は卒業式で、日本の大学の文化祭のようにいろいろな学生活動を一時に披露することはありませんでした。日本の中学、高校では文化祭があり、基本的には全員が参加しますが、こういった祭りが学校教育のプログラムとして正規に位置付けられているのは、世界的に見ても珍しいことだと思います」。他にも日本人には、地域おこしや地域づくりをするときに祭りをしようとするという面白い特徴があるのだという。「日本は祇園祭のように神を祭るものから、地域おこしの祭り、文化祭まで、本当に祭りだらけです」。日本の祭り文化の興味深さはここからも垣間見える。

 

コロナ下で再考する「祭りとは何か」

 

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で中止に追い込まれた祭りも少なくない中、駒場祭をはじめ多くの祭りはオンラインでの開催となったが、当然対面でできないことで失われるものはある。祭りは、一緒に練習をして汗をかいたり、一緒にご飯を食べたり、時には一緒に寝たりと、同じ場所で同じ時間を共有するものだ。そのプロセスを経て最終的には祭りに集まった人の心が一つになっていく。「渋谷のとある町会ではみこしを担ぐときに必ずみんなで木遣(きや)り唄を歌います。何百キロというみこしを一斉に動かすため、力を合わせるために唄を歌うのです。朝、みこしを担ぎはじめる頃にはばらばらなのですが、一日渋谷の町を練り歩き、夕方、地元にみこしが戻ってきて、これが最後の木遣りという時になると、ピタッとそろうんです。その後水を打ったように静まり返って。それは感動的な体験でした」。祭りならではのこうした経験が、オンラインだとどうしても希薄化してしまう。

 

 逆に開催形式がオンラインになることによって得られたこともある。空間的な制約がなくなったことだ。これまでは練習のために何度も帰省することが負担になっていた、進学や就職のために地元を離れた人にとって、練習などにオンラインで参加できるという発見は大きかったのではないかと沖本准教授は話す。また今年度はリモートで海外の祭りに参加するという活動も見られた。「空間を越えて場を共有できる可能性が広がったというのは意義のあることだと思います」

 

前年度の駒場祭、クラス企画はオンラインで配信された(写真は駒場祭委員会提供)

 

 コロナ禍は祭りとは何か考え直す良いきっかけにもなったという。1992年に「地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律」、通称「お祭り法」が制定されて以来、祭りは観光の側面が強くなっていた。「観光のため、つまりお金のための祭りというのは利害関係が生じるなど多くの問題をはらんでいました」。しかし、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大によって、観光ができない状態になり、祭りの開催も危ぶまれる事態に陥った。そうした中で「祭りは地域や自分たち自身にとって何なのだろうかと、人々が再考する機会になったのです」

 

 コロナで変わったこともある一方で、祭りが持つ「一緒に何かを成し遂げる」ことの魅力は変わらないと沖本准教授は指摘する。「つながり成し遂げる場所や機会があることの大切さを覚えているから、コロナの苦境の中でも、形を変えても祭りを続けようとしているのだと思います」

 

祭りには非日常を日常に戻す力も

 

 コロナ禍とは異なるが、東日本大震災の時も人々の生活は一変した。当時、被災地では生活の復興に苦労する中でも祭りを行うところが多かったという。「震災で変わり果てた故郷に呆然と立ち尽くし、何をすれば良いか分からなかったとき、ふと祭りの笛を練習する音が聞こえてきて、ハッと我に返った、という話を福島で聞きました」。大震災という非常事態の中で、祭りが日々の暮らしを思い出すきっかけになったのだろうと語る。祭りは非日常的なものだと考えられているが、それが毎年繰り返され日常に埋め込まれることによって、震災などの非常時には日常を取り戻す原動力にもなり得るのだという。「伝統的な祭りと文化祭とは違いますが、祭りは日常を取り戻すための心のよりどころにもなるのだと思います。オンライン開催の駒場祭が、大学の日常、学生生活の日常を取り戻す糧になってくれたらと思います」

 

沖本幸子(おきもと・ゆきこ)准教授(東京大学大学院総合文化研究科)04年東大大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。青山学院大学教授などを経て、20年より現職。著書に『乱舞の中世─白拍子・乱拍子・猿楽』(吉川弘文館)など。

 

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