「日本式教育は、検証したり改良したりというのにはすごく向いていますよね。ただ、まだない未来を想像して、周りに伝えていくというようなことは苦手な人が多い」
DMM.make AKIBAをプロデュースし、株式会社nomadやABBALab(アバラボ)を立ち上げて、ソフトウェアだけでなくハードウェアを作るスタートアップの支援をしている小笠原治さん。
小笠原さんは、「IoTによって様々な情報が集められることで、今まで知られていない新たな相関関係を知ることができる」と指摘する。前編では小笠原さんのキャリアとIoTによって加速する「知の集積」について伺った。今回の後編では、「知の集積」を現実に進めるために必要な過程や、新しい未来を生み出すリーダーに求められていることについて聞いた。
(前編はこちら:IOTによる知の集積の時代。ネット黎明期によく似ている DMM.make小笠原治さん1)
ストーリーを伝えて妄想を具現化するのがリーダー
――(前編をうけて)そのようなIoTによる「知の集積」を進めていくには何が必要なんでしょうか?
今できないことが、こうなればいいなってみんなが思うと、その分野の知を積み上げようとする人たちがきっと出てきます。「こうなればいいな」という空想や妄想ってとても大事だと思っていて、さらにそれを人に押し付ける事のできるリーダーも必要になってきます。それをいやいや押し付けるんではなく、やる気にさせちゃう。共感させちゃう。
ソフトバンクの孫さん、なんて特にそうですよね。IoTのセンサーを一人の人間に1000個持たせろって言ってる。1000個て(笑)って荒唐無稽に思えるじゃないですか。でもそれを聞いて、身体のどこに1000個のセンサーをつけるか考えてみる人が出てくるわけですよ。どんなものに何をつけたら、って考えながら数えていくと、意外と900くらい行くんですよね。
そういう共感させる力ってすごく大事で、「孫さんが言うなら、まずここのセンサーから試してみよう」っていう風になる。そういうのってリーダーにとって大事です。
――妄想ってアイデアのことだと思うんですけど、アイデアを思いついてもそれを活用するのは難しいと思います。
妄想って言いましたが、ちゃんと定義づけるとストーリーと言えると思います。空想話。アイデアって「点」なんです。点だけだと人に伝えづらいんですが、点をいくつか集めてストーリーにすると理解してもらえるし、相手の中に残りやすくなる。そのアイデアに至るまでの経緯とかなしに、アイデアだけ渡しても価値が生まれにくい。ストーリーが説得力につながるんです。
そのアイデアに至った経緯があるときはそれを話せばいいんですが、ただ思いついちゃったって言う時がありますよね。そういうときは話せる経緯がないので、アイデアの利用シーンを並べてみて、自分で肉付けする。
「こんなのがあればいいよね」っていうアイデアは誰にでもあります。それを膨らませて、ゴールとか利用シーンをイメージして、人に伝えて巻き込むことのできる人が、僕の思うリーダーですね。
――今までの話をうかがっていて、モノとモノであったり人と人であったり、小笠原さんは「繋ぐこと」に重点を置いているように思いました。
そうですね。この人はこれができて、この人はこれができる、というのを繋げていこうというのがDMM.make.akibaの目的です。
単体でいると変化は起こりにくいですが、繋ぐことで変化が起きることがある。机がただ置いてあるだけだとただの机ですが、椅子とセットになると座って仕事ができる。複数の机をつなげるとこうやって話し合うことができる。色んな物を意図的につなげて、意図どおりに良い反応が起きるとすんごい楽しいですよ。
僕がインターネットが大好きなのは、インターのネットワークだからなんです。ネットワークとネットワークの間で、ネットワーク同士をつなぐものです。インターネット・オブ・シングスも、本当はインター・シングスだと思います。相互に繋がることで、新しく価値を生み出そうということ。それを自分が生きているうちにもっともっと見れたらいいなあと思いますね。そういうのに人をどう巻き込んでいくかが、これからの課題ですね。
過去のモノづくりの栄光にすがらず、新しい未来を想像せよ
――新しい物を作るということで、海外と日本の違いってなんなんでしょうか。日本はモノづくりの国だとよく言われますが。
日本式の教育の良い結果として、過去20年前くらいまでの50年間がありました。モノづくり日本というのは、この何百年のうちのたった数十年しかないわけです。しかも周辺国の戦争による特需であったり、過去の戦争で培った技術の民転であったり、人口ボーナスであったり、というすごく優位な状況で起こったこと。売れたポイントとして、精度やクオリティが評価された時代背景があった。日本のモノづくりの復権というのは、もちろん元気になって欲しいですけど、すこし違うような気もします。
日本が高齢化していく中で、繰り返し作業のところは必ず機械化します。AIだって人間を超える部分のあるAIが出てくる。そうなったときに、過去の形を求めて、未来を想像するのはやめたほうがいい。
日本式教育は、検証したり改良したりというのにはすごく向いていますよね。ただ、まだない未来を想像して、周りに伝えていくというようなことは苦手な人が多い。教育のせいなのか文化のせいなのか、というのはわからないですけど。
やっぱり「恥」の文化は、未来をつくるときにはスピードを殺しますよね。
――未来のものを創りだそうというメンタリティを持つためには何が必要なんでしょうか
ものすごくしんどい思いをするか、ものすごく楽しい思いをするかのどちらかでしょうね。戦争体験のようなものすごいしんどい思いをしたから、その後の経済成長があったわけですよね。
今はある程度みなが楽しめる状態があるので、「楽しんじゃいけない」みたいなブレーキを一回外した方がいいなと思いますね。おもいっきり楽しんじゃって、「みんなにもそういう楽しい思いをさせてあげたいな」とか、「もっと楽しみたいな」という捉え方の方が、今は合っているんじゃないですかね。
「こっちはしんどい思いして働いてんのに、なんであいつはあんな楽しんでんだよ」っていうメンタルや、「そう思われるのが嫌だからあんま楽しまない」っていうメンタルがよくありますよね。「昼からビール飲んでると、これをSNSに上げるのはちょっと良くないかな」という気になりますよね。まあ気にせずあげちゃいますけど(笑)
人と人をつなぐことで、自分にはできないプロダクトが生まれる
――学生の頃はスポーツをやっていたということでしたが、何か今に影響していることはありますか?
スポーツをやったことは良かったですね。ラグビーをやっていたんですが、それぞれに役割があることを教えてくれた。僕はキッカーにはなれないし、スクラム組んでるときにラインには並べないわけです。
自分にできる仕事と、誰かに頼むべき仕事があるということですね。僕は学力的に他の人には劣るんですよ。知ってる知識量が他の人のほうが多いんです。だったら、それを持っている人とやったほうが良い。絵は下手だけど、レイアウトのデザインは自信あります。だからイラストレーターの人と組んで資料を作ったほうが良い。
こういうことを知って、自分で何でもやろうとし過ぎなくはなりましたね。
――そういう経験があって、小笠原さんは人と人をつなぐ良さを考えるようになったのかなと感じました。
僕は自分のやりたいことのために、「その人達つながっていい結果出してくれないかな」と思って繋げてるんです(笑) 僕のやりたいこと、こうあって欲しいと思っていることがまずあって、それについて人がつながってプロダクトが生まれました、そのプロダクトが売れました、となれば、ここ(DMM.make AKIBA)に来る人が増える。増えたらまたその組み合わせが増えるかもしれないし、それによって僕の持っているthingsをもっとつなぎあわせることができるかもしれないわけですよね。
――学生もDMM.make AKIBAを使っていますか?
そうですね。DMM.makeでスカラーシップに応募できて、数ヶ月無料で使えるサービスも有ります。学生起業している人たちは、事務所として見れば安いです。ロッカー借りて郵便物ここで受けて、登記もできるし(登記代は別途)、打ち合わせしようとすればこういうふうに使える。起業するときに使う人は多いですね。
――最後にモノづくりにたずさわろうとしている学生へのメッセージをお願いします
工学系の人、ものを作る人は、今のうちにネットやソフトの人間ともっと話しておいて欲しいです。メーカーに就職したりすると、びっくりするほど分野ごとに分断されてしまうので、今のうちにソフト・ネットの見方を知っておいてください。学生のうちに横の横断をしておいて欲しい。
リーダーになる人は、そういう横のつながりを今から作っておいたほうが良い。ソフトの時はソフト、ハードの時はハード、ネットのときはネットという風に学ぶ人が多いと思いますが、リーダーになる人は自分がやりたいことのために、将来何が必要かわからないわけです。人脈みたいな軽い言葉ではなくて、誰に何を聞けばいいか。聞いた人が自分にちゃんと答えてくれる関係を、意識しておいた方がいいんじゃないでしょうか。人脈という言葉はうさんくさいですが、一対一の関係を築くこと。そしてそれが幅広い分野にまたがっていることは大事なのかと思います。
楽しいことを一緒にやった奴とは話しやすいですし、そういう関係を築いてください。
――ありがとうございました!
(取材・文:須田英太郎 撮影:小川奈美)
前編はこちら→ IOTによる知の集積の時代。ネット黎明期によく似ている DMM.make小笠原治さん1
インタビューの動画はこちらでご覧いただけます。
この記事はソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成(GCL)プログラムとの共同企画です。