モデル:鈴木千尋(ミス専修コンテスト2013グランプリ)
3月中旬のこの時期、就職活動業界においては、多数の就活生の「亜種」が確認されています。 例えば、こんな感じです。
- 修整職人:自分の写真の修整に熱をあげすぎてしまい、面接で実物と写真との差が逆にマイナスイメージを与える
- 企業理念ジュークボックス:数々の企業説明会に行って聞いてきた企業理念などの表面的な情報を、人になんでも話してくれる
- ドM・PRマン:自己PRを友達に披露し、ダメだしされることに喜ぶドM
- 愚痴聞きコールセンター:就活に悩む女の愚痴を、電話でひたすら聞く男。2人で会おうとすると拒絶される
- 曖昧仕事ソムリエ:あんまり仲良くもないくせに「お前にはこの仕事向いてるよ!」とか適当なことを言ってくる
このような中でも、特に個体数が多く、またこの連載を読んでくれているような、情報アンテナの高い皆さんでも、気づかぬうちになってしまいがちなのが「OB訪問ビッチ」です。OB訪問ビッチとは、「OB訪問をしまくる人」の意味。決して、OB訪問に行って、ビッチになってしまう人のことではありません。 (余談だけど、OB訪問に行って、「面倒みてあげようか」とか、どんなに良さげな話をもちかけられても、社員ひとりの考えで採用が決まることなんてほぼ皆無なので、女子のみんなは、騙されないように気をつけてね!)
もちろん、このOB訪問をしまくるという行為自体は、やりようによっては相当な効果を発揮します。ただ、やり方を間違えると逆効果。そこで、今回は、効果的なOB訪問をしてもらうため、皆さんに「正しいOB訪問ビッチのなり方」を伝授したいと思います。 まずは、間違ったOB訪問ビッチのケースから。 OB訪問をするときに、エントリーシート(以下、ES)を持参する人が多くいます。これ自体は間違いではありません。むしろ、OB訪問では、企業説明会などでされるような「多くの人に向けたアドバイス・情報」ではなく、「自分に向けたアドバイス・情報」を採集する必要があるので、ESを持っていって意見をもらうという行為は正解です。それを多くのOBに繰り返していけば、いいESができると思うかもしれません。
しかし、ここに正しいOB訪問ビッチになるか、間違ったOB訪問ビッチになるかどうかの分かれ道があります。 重要なのは、それらのOBの意見を全部取り入れようとしてはいけない、ということです。 色んな会社の色んな人にESを見まくってもらい、全ての意見を取り入れると、結果的に、トゲの抜かれたような、個性のないごく普通のESになってしまうのです。 これは、個々のOBの意見が正しいのか、正しくないのかとかそういう問題ではありません。仮にそれぞれの意見が正しくても、全員の意見を取り入れるのは危険なのです。
新卒の魅力とは、まだ社会に染まりきっていない部分にあります。長年働いてきた人には出てこない発想だったり、視点だったり。 KinKi Kids風に言えば”変わったかたちの石”だからいいのです。たとえ、その石がゴツゴツしていて、荒くて、さわりにくくても、その粗さこそが新卒の魅力なのです。 でも、OB訪問や選考を通して、多くの人や企業という川を流れるほど、粗さは削られて消え、丸い石になってしまいます。それは、さわりやすいかもしれないけれど、社会の常識の影響を中途半端に受けてしまった、おもしろみのない石なのです。 超大量採用をする銀行などは、さわりやすく丸い石をたくさん並べようとするかもしれません。
一方で、マスコミや人気のベンチャー企業など、倍率が高く、採用人数が少ないような企業ほど、あえてゴツゴツした石を取りに行く攻めの採用をします。 だからこそ、OB訪問の時点では、多くの人に会った上で、誰かひとりかふたりくらい「この人だ!」と思った人の意見のみを取り入れる、くらいがちょうどいい。そんな人を見つけたら、自分の核となる部分をさらけ出し、「いい粗さ」をより磨いて貰えばいいのです。
ですが、そんな信頼できる人を見つけても、まだ、それ以外の多数のOBから仕入れておくべき情報があります。それは、その会社の常識を教えてもらうことです。 その成功例として、僕が見てきた就活生の中でも、尊敬に値する熟練したOB訪問ビッチである、今岡くるみちゃん(仮名)のやり方を紹介しましょう。
広告代理店志望だったくるみちゃんは、まずはESを数パターン用意。といっても、数企業分ではなく、1社のESで、自己PRや志望理由などを変えたものを作成しました。そして、同じ企業の社員で、若手からオジサンまで職種もバラバラな人たち20名にOB訪問。毎回数パターンのESを持参し、机に並べます。そして、どれがいいかを選んでもらって、いちばん票の多いESを使用する、という行動に出たのでした。 このような”ES総選挙”を実行すると「その会社の人の感覚に最もウケる仕様になったES」ができあがります。
選んでもらうだけでなく、「ウチだったらこういう言い方をした方がいいね」とか「これに近い仕事はウチでいうと◯◯だね」なんてコメントがもらえれば最高。1社だけで、これだけの数の、しかもバラエティに富んだOBのジャッジを経ると、最大限、「その会社の感性」に近づいたESへと変化をとげていきます。
ちなみに、以前、めちゃめちゃモテている、普通のビッチ・あかりちゃん(女子大・3年生)にそのモテの秘訣を取材したときに、こんな話を聞きました。 あかりちゃんは、まず、意中の男にメールで、好きな映画や音楽などを聞く。相手が答えると、「マジ!? ウチもそれ好き!」と返す。もちろん、好きなものが被ることなんてほとんどない。そこで、その後、速攻でTSUTAYAまで走り、その作品を借りてきて鑑賞。話を合わせる。すると、相手は、あたかも偶然気があったかのような感覚に陥り、グッと距離が縮まるのだそうです。自然に見えたあかりちゃんのモテは、このような裏での涙ぐましい努力に支えられていたのです。 こんなふうに、人はひとつ好きな映画が共通しているだけで、急に運命を感じたりするものです。
それと同じで、面接官はひとつでも、”ウチの会社っぽい”部分を見つけると「このコ、アリかも」と思い始めます。「これ、ウチの会社の田中の意見に近いな……」なんて感じさせたら、もうその場は勝ったようなもの。まあ、当たり前ですよね、我々OB訪問ビッチは、その田中さん本人から聞いた上で、合わせてるんですからね。 そう、くるみちゃんにもあかりちゃんにも共通する、”努力して情報収集をした上での運命の演出”は、男にも就活にも効果的な、尊敬に値する行動なのです。 「こんな面倒くさい努力して演出してどうするんだ!面接なんて素がいいんだろ?」と思う人もいるかもしれません。
でも、”何もしない”は”素”とは違います。周到に準備したからこそ、安心して自然に振る舞える。それこそが、本当に有効な”素”の姿なのです。
POINT
- POINT 「この人は!」と思えるような大人を見つけたら、半分勝ったようなもの。
- POINT 社会の常識に合わせる必要はない。だが、その会社の常識を知る努力は必要。
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霜田明寛 (しもだ・あきひろ) 1985年生まれ、東京都出身。国立東京学芸大学附属高等学校を経て、早稲田大学商学部を卒業。2008年の大学在学中に、第四回出版甲子園準グランプリを受賞し、執筆活動を始める。雑誌記者・ライターとして活動する傍ら、『夢をかなえるゾウ』著者の水野敬也氏に師事し、『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』『マスコミ就活革命(レボリューション)~普通の僕らの負けない就活術~』の著書を出版。 その後、就活生相談や全国の大学からの講演依頼が殺到。アナウンサーをはじめ、テレビ局、出版社、広告代理店など、マスコミを中心に多くの就活生を送り出す。2013 年からはPR会社に勤務する傍ら、早稲田大学で就活講座を担当。主宰するセミナー『就活エッジ』も好評を博している。