2. チュートリアルを通じて、得られた知識をどう活用するか考えさせられる
NUSでは、授業一つ当たりが平均して週に130~190分程度あり、課題も毎週リーディングが課される。最近一コマ105分に増えたものの、文系では学期末を除くと課題は少ないことが多い東大の授業と比べると、かなり長い学習時間が要求される。
NUSの授業数は正規の学生で5~6つ程度、留学生で4つ前後だが、授業一つ当たりに求められる学習量の多さゆえに、正規の学生はかなり忙しく、留学生もよい成績を取ろうと思えば遊んでばかりはいられない。東大の一部の授業のように、ただ出席して外国語の文章を訳していれば優確実ということはまずなかった。
学習量の多さの理由の一つが、基本的に授業時間の約3分の1を占めるチュートリアルだ。これは、比較的少人数のクラスで双方向的に進められる授業で、自分の調べた内容を発表したり、ディスカッションに参加したりすることが求められる。最近話題のアクティブ・ラーニングの一種とも言えるこの仕組みは、学んだ知識を実際に活用することで定着させる点や、コミュニケーション能力を高める点で、効果があるように感じた。
NUSから東大に留学し、卒業後、日本で就職したシンガポール人の友人も、チュートリアルを両校の授業の違いとして挙げていた。彼は、成績が100%期末試験で評価される一部の東大の授業に違和感を持っており、次のように話していた。「本を読んで、講義で先生が言ったことを覚えたら100%取れるけど、それだと実際に使ってないし、ただ覚えてるだけじゃないですか」
得られた知識をどのように応用するか、という点に常に注意を払うNUS生の姿勢は、優れた論文を書く能力を育て、大学ランキング「引用(研究の影響力)」項目の高評価にもつながっているのかもしれない。
東大でも近年、少人数制の英語論文執筆授業ALESS(Active Learning of English for Science Students)やALESA(Active Learning of English for Students of the Arts) の導入によって、能動的な学習を促す授業形式が増えてきたようだ。しかし、受動的に教授の講義を聞いて学期末のテストやレポートで評価を受けるタイプの授業の方が、まだ多数派だろう。そうした授業を受ける際は、友人と意見を交換することなどを通して、学んだ知識を咀嚼する工夫が必要なのかもしれないと感じた。
NUSのキャンパスにて、ダンスのイベントに集まった学生たち(記者撮影)
3. 授業計画や評価基準が明確で、資料配布やフィードバックの仕組みも整備されている
NUSでは、授業計画や参考資料、評価基準が、東大よりも詳しい形でシラバスに明示されていることが多い。さらに実際に提出したレポートやテストは、多くの場合、採点後に返却される。そのため学生は、学習の結果がどのように評価されるのかだけでなく、自分の提出物が実際どのように評価されたのかまで知ることができる。
東大では、採点後のレポートやテストを返却する教員も稀にいるものの、全体的に見ると、現状の評価システムには閉鎖的な部分が大きい。そのため、学生は自分のレポートの問題点や改善すべき点を知らないまま学年を重ねてしまう場合がある。
私自身、3年生の終わりになって初めて、友人の指摘を受けたことで自分の論文の書き方に初歩的な問題があることに気づかされた経験がある。そのため、課題を提出するごとに教師からフィードバックを得られる点で、NUSの制度は優れていると感じた。
またNUSでは、IVLEというインターネット上のプラットフォームを通して、学生に資料を配布したりレポートを提出させたりする点も特徴的だった。このシステムの長所の一つは、映像資料を配信することもできるため、授業の幅が広がることだ。変則的な時間に授業をする場合に、出席できない学生のために講義を録画してネット配信をする例や、日本文化の授業で、映画をアップロードしておき、授業の前に学生に見せる例が見られた。
どちらが優れているか断言することはできないが、自分の研究が第一で教育にはあまり熱心でない教授も散見される東大と比較すると、NUSは学生が学ぶための環境整備に熱心な学校であった。
NUSへの留学に関心があるなら
以上の点から、学部生に対する教育という点では、NUSの方が環境をよく整備しているというのが私の意見だ。THEの評価では、「教育」の項目について東大がNUSを上回っていたが、私が経験した限りでは、NUSの仕組みのほうがよく整っている部分が大きいように感じられた(THEの「教育」項目に「学習環境に対する学生の評価」等の要素は含まれていないため、この二つが連動しないのは当然かもしれないが)。
特に留学という観点から見ると、NUSは東大を大きく引き放して優位にあるように思われる。日本の相対的な経済規模が縮小傾向にあるいま、ビジネス志向の学生にとって日本語や日本文化を学ぶ意義が大きいとは考えづらい。
その一方、シンガポールは、中国企業や東南アジアの中華系企業が成長を続ける中で、世界の共通語である英語を基本としつつ、中国語や中国文化に触れる機会も提供することができる。マレー系やインド系の文化とも深いつながりを保っており、アジアの多様性を理解するためには、最適な場所と言えるだろう。
もちろん、キャンパスの国際色が豊かであることや、英語でアジアの多様性を学べることは、あくまで一つの特徴でしかない。イギリスの一教育機関が発表したランキングなどに一喜一憂し過ぎず、自分が入った大学において本気で学びたいと思う分野を見つけて、それに打ち込むことも重要だろう。
NUSへの留学に関心がある方には、この記事を参考にしつつ、自分が何を目的に留学したいのか考えてもらえれば幸いだ。