日本時間の今月21日、イギリスの教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が、最新のアジア大学ランキングを発表した。シンガポール国立大学(National University of Singapore = NUS)が首位に立つ一方で、昨年まで3年連続で1位だった東大は7位に後退した。
→ THEアジア大学ランキング、東大は7位に転落 QSでも順位下げる
NUSが同ランキングで1位となるのは初めてだが、昨年10月に発表された同誌の世界大学ランキングでは、すでに43位の東大を上回る26位につけていた。また、イギリスの教育機関クアクアレリ・シモンズ(QS)社が14日に発表したアジア大学ランキングにおいても、NUSは首位の座に就いた。
イギリスの機関が評価をする以上、これらのランキングが英語を公用語とするシンガポールの大学に有利であることは考慮に入れなければならない。だが今回の結果は、見方によれば、NUSが「アジア最高の大学」としての国際的な評価を確かなものとしつつあることを示すものだとも考えられる。
記者は東大文学部の学生だが、2014年8月から約10カ月にわたり、全学交換留学制度を利用してNUSに交換留学した。この経験から、実際に両校で教育を受けた学生として、東大を比較対象にNUSの特徴について考えたい。
まず、今年のTHEのアジア大学ランキングにおいて、東大とNUSがそれぞれどの分野で高い評価を受けたのか概観しよう。東大は、収入や研究といった項目ではNUSと拮抗し、教育では10ポイント近く上回ったが、国際性及び引用の項目で大きく水を開けられた。特に国際性は60ポイント以上の大差がつき、東大の抱える課題であることが浮き彫りになった。
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東大 |
NUS |
総合 |
67.8 |
77.4 |
教育(学習環境) |
78.3 |
69.3 |
国際性(スタッフ、学生および研究) |
30.3 |
96.2 |
産業収入(知識移転) |
50.8 |
49.8 |
研究(量、収入および評判) |
79.5 |
84.3 |
引用(研究の影響力) |
60.9 |
79.4 |
Times Higher Education発表の資料より東京大学新聞社作成
THEによる両校の評価も踏まえ、以下では記者が一人の文系学生として実際にNUSに留学した経験をもとに、NUSとはどのような大学なのか、大きく3つの特徴に分けてご紹介したい。
1. 学生・教授ともに国際色が豊か
「東大の授業」と聞いて、あなたはどのような光景を思い浮かべるだろうか。もちろん個人差はあるだろうが、日本人の教授がひとり教壇に立ち、日本人が多数を占める学生陣が講義を聞く、という画を想像する人が多いのではないかと思う。
東大が5月に発表した統計によると、今年度、東大に在籍する学部学生は全体で14,047人だが、そのうち外国人学生は3.2%(444人)に留まる。大学院ではこの比率は19.9%に高まるが、学部で卒業する学生は、留学生とほとんど関わらないまま大学生活を終えることが珍しくない。
教員についても、ある統計によれば、平成27年5月時点で外国人教員・研究者は全体の8.9%に過ぎなかった。したがって、東大は学生・教員の8~9割が日本人で占められた大学であり、THEの評価通り国際性が高いとは言えない。
一方のNUSでは、マレーシアや中国、インドネシアなど近隣国を中心にアジア各地からの留学生が多く在籍していた。特に、シンガポールのメイン・ストリームである中華系住民と同じ属性を持つ東南アジアの華僑が多く、私のルームメイトの一人も中国系マレーシア人だった。
統計は入手できなかったものの、NUSでは目測のかぎり学生の2割程度がこうした外国人留学生だと思われた。大学本部は交換留学協定の締結にも積極的なようで、私のようにNUSに交換留学する日本人学生が常に20~30名程度おり、留学希望者の多い韓国やドイツからは100名を超える学生が来ているという話も聞いた。
また、NUSでは教員も非常に多国籍だった。私が留学中に授業を受けた教師だけを考えても、その出身国は以下の7ヵ国・地域に上る。シンガポール(日本研究、中国語)、日本(日本研究)、台湾(中国語)、インド(比較政治)、イラン(比較政治)、韓国(国際関係)、そしてアメリカ(日本研究)だ。英語が公用語であることを生かし、あらゆる国と地域から適した人材を引っ張ってくる大学だという印象を受けた。
UNESCO Institute for Statisticsによれば、2013年時点でシンガポールへの留学生数は48,938人であり、500万人強の人口の約1%を占めるほど留学生が多い。同じく2013年時点で留学生数が総人口の0.1%程度に過ぎない135,803人に留まる日本とは、国レベルで比較しても大きな差がある。
もともと中華系、マレー系およびインド系の移民が集まって形成され、英語を公用語とするシンガポールの大学が、国際性の面で高い評価を受けるのは当然とも言える。英語が得意でなくとも、国内の研究が高い評価を受けてきた日本の大学が、国際化に積極的でないのも理解できることだ。
しかし、情報通信技術の発展によって、知識や技術を国境にとらわれず容易に共有できるようになった今日、学生の国際理解を高めることやグローバルな研究の流れに遅れずついていくことの重要性は、増加しても減少することはないだろう。日本の大学がNUSの国際化に対する姿勢から学べる点は、少なくないと思われる。