「見聞きしたことしか書かない」
2016年4月に開校した学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校(N高)。2年目を迎える今年は入学者が2000人を超え、設立2年目にして約3900人が在籍するマンモス校になった。「ネットの高校」として従来にない新しい学校を目指すN高を取り上げた記事はオンライン上でも既に多いが、実際に生徒たちはどういう日常を過ごし、何を考えているのか。「N高生のリアル」と題して、東大生記者が体当たりで迫る。本連載の核は「実際に見聞きしたことしか書かない」。果たして、N高は「サブカル好きがおふざけで作ってみた学校」なのか、それとも「未来からやって来た、我々の理解の範疇を超えた近未来学校」なのか。
N高の概要
「実際に見聞きしたことしか書かない」とは言え、連載に当たって、最低限の概要は必要なため、それらをまとめたいと思う。
N高は、2016年に開校された。設立の背景となる問題意識については、回を追うごとに深めていくことにしよう。
高校設立に当たって、制度は「通信制」というのを利用している。通信制には狭域と広域の二つがあり、そのうち「広域」は全国から生徒を集めることができる(狭域は地域限定。公立が多い)。通信制と言えど、ハコモノとしての「学校」も設置のためには必要で、N高の場合は沖縄の伊計島という離島の廃校を利用している。校舎はかなりお洒落なものであるが、この廃校の利用の許可が地元から出るまでには大変な苦労があったという(詳しくは崎谷実穂著『ネットの高校、はじめました。』)。
N高では年に5日程度、学校に通学して授業を履修する「スクーリング」が求められており、生徒たちは沖縄伊計本校での対面授業と合わせて修学旅行のような5日間を過ごす。とはいえ広域制であるN高は、沖縄伊計本校の他に全国の主要都市にも11箇所のスクーリング会場を設け、事情があって沖縄までは来られない生徒にも近場の会場を提供している。
通信制のメリット 無駄な時間を削り、個性を伸ばす
N高が通信制高校である理由について、学校側はこのように説明している。
「N高校が通信制という形態を取るのは、人生で最も吸収力があり体力もあり余る、10代後半という黄金期に従来型のカリキュラムをただ学習するだけでなく、もっとより多くの選択肢を若者に提供したいが故です」(「設立の背景とN高等学校の特長について」N高等学校 入学広報部)
N高では、高卒資格をとるために必要な必須履修科目を、普通の全日制高校の3分の1程度の時間で、オンライン学習を中心にして達成する。効率化して作られたその時間は、「自らの個性を伸ばす時間」に当てられる。
広報の村田喜直さんによれば、「従来の高校では授業の他に部活動があり、塾や予備校に通うことも考えると毎日の拘束時間が長い、本当の意味で自分の将来につながる勉強をしたいと感じた生徒たちが多く来ている」という。実際にN高では、「課外授業」として、実力は予備校講師による大学受験対策授業以外にも、ドワンゴによるプログラミング授業、KADOKAWAによる文芸小説創作授業、電撃文庫とコラボしたエンタテイメント授業、Vantanと提携したファッション・パティシエ・ビューティ・ゲームなどのクリエイティブ授業がオンラインで提供されている。それらの課外活動によって「想定できる職業」として、プログラマ・SE・アプリエンジニア・小説家・漫画原作者・編集者・ライター・ライトノベル作家・漫画家・イラストレーター・ゲームクリエイター・デザイナー・スタイリスト・ファッションプロデューサー・パティシエ・シェフ・ネイリスト・ヘアメイク・声優などが挙げられている。
このような触れ込みは、大変魅力的に映る。ほかにもVRでの入学式やドラゴンクエストⅩを使ってのネット遠足、文化祭の場でもあるニコニコ超会議の企画で小泉進次郎衆議院議員や小池百合子東京都知事とN高生が対談するなど、話題性には事欠かないN高。
これら、派手なメディア露出の裏にある、N高生のリアル・スクールライフとは? 筆者は、N高が起こそうとしているムーブメントの「目撃者」として、現場に飛び込み、記録を残す。
【N高生のリアル】