山上遥航研究員(海洋研究開発機構)、渡部雅浩教授(東大大気海洋研究所)らは、メキシコ湾流域における海面水温の長期的な上昇が、ロシア北部に接するバレンツ−カラ海での冬季海氷減少を引き起こしていることを明らかにした。研究成果は7月15日付の国際科学雑誌『Nature Communications』オンライン版で公開された。
バレンツ−カラ海では冬季に顕著な海氷の減少が見られ、気圧配置の変化によって大陸を寒冷化させることが知られている。大陸で形成された寒気は数日で日本に到達するため、日本の冬の寒さとも密接に関連している。日本などの北半球中緯度地域の異常気象につながるバレンツ−カラ海の海氷減少速度分析は気候予測に欠かせないものとなっている。従来の北極海氷減少に関するシミュレーションでは、海氷減少速度を実際よりも過小評価する傾向にあった。また、海氷面積は北大西洋由来の温かい海水、暖気、風向きの影響を受けることは知られていたものの、北大西洋の海面水温の与える影響は知られていなかった。
山上研究員らはメキシコ湾流域における海面水温の変動がバレンツ−カラ海の海氷減少速度に与える影響を調査。過去の気候を再現するシミュレーションと、メキシコ湾の海面水温を実測値に修正したものの結果を比較するなどした。海流の変化に伴う大西洋側からの熱輸送の強化によって、バレンツ−カラ海での速い海氷減少が生じていることが分かった。
シミュレーションと観測結果のずれを説明するメカニズムは、人為起源のエアロゾルによる北大西洋の気候変動予測の精度向上に貢献すると期待される。今後は、気候変動予測の精度向上に向け研究を進める。