学術ニュース

2023年3月11日

エンハンサー由来の非コードRNA 遺伝子発現を抑制

 浜本航多さん(総合文化・博士)、深谷雄志准教授(東大定量生命科学研究所)らは、エンハンサー領域からの非コードRNA合成による遺伝子発現抑制の分子メカニズムを発見したと発表した。成果は2月20日付の英科学誌『Nature Communications』オンライン版で発表された。

 

 DNAからRNAが転写されるが、そのうち非コードRNAは、タンパク質へ翻訳されないRNAの総称。「コード」はタンパク質への翻訳を指し、ゲノムDNAにはコード領域と非コード領域の二つが存在する。「エンハンサー」はゲノム上の領域で、特定のコード領域からの転写効率を向上させる働きを持つ。近年、エンハンサー領域から非コードRNAが転写されていることが明らかになっていたが、エンハンサーからの非コードRNAの転写がどのようにコード領域の転写を制御するのかについては分かっていなかった。

 

 浜本さんらは、二つの最先端の転写可視化技術を組み合わせ、生きたショウジョウバエ初期胚でコード領域と非コード領域からの転写を同時に可視化する新規実験系を確立。エンハンサー領域と対象のコード領域からの転写反応を同時に、リアルタイムで可視化できる。この技術を用い、エンハンサー領域での非コードRNAの転写が活発に起こるほどコード領域からの転写活性が低下することを観察した。別の手法を用いて、RNAの合成を担う転写酵素がエンハンサー上を進行すると転写因子の集合が妨害され、結果、コード領域の転写が抑制されるというメカニズムも明らかにした。

 

エンハンサーは特定のコード領域からの転写効率を向上させる働きを持つが、RNAの合成を担う転写酵素がエンハンサー上を進行すると転写因子の集合が妨害され、コード領域の転写が抑制される
(図)エンハンサーは特定のコード領域からの転写効率を向上させる働きを持つが、RNAの合成を担う転写酵素がエンハンサー上を進行すると転写因子の集合が妨害され、コード領域の転写が抑制される

 

 成果は生物の遺伝子発現制御システムの理解に大きく貢献する。将来的に遺伝子発現や細胞運命を制御する技術の開発や、疾患の発症メカニズムの解明をもたらすことが期待される。

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