新規大卒者の入社から3年以内の離職率が3割を超えるが、そこには終身雇用にとらわれず、多様な生き方をする人が増えているという側面がある。東大の卒業生で企業の社員として働いた経験を持ち、現在は新たな道を歩んでいる3人に転職の経緯やアドバイスを聞いた。就職活動やその先の人生設計の参考としてほしい。1人目は、ファームサイド株式会社代表取締役の佐川友彦さんだ。
(取材・趙楠)
道なき道を行く
環境問題に関心を持ち、後期課程では農学部を志望。大学時代は環境問題に関する行動を起こすサークルを立ち上げ、東大、環境省と企業が連携して世の中に環境意識を啓蒙するプロジェクトに携わった。当初は公務員志望であったが、民間を全く知らないのはもったいないと思い、修士1年次から就活を始めた。
企業について調べていくうちに、環境に対して低負荷な材料の開発など、化学の力で環境問題や持続可能性に取り組んでいるデュポンを知る。入社後は中央技術研究所先端技術研究部に配属され、主に太陽光発電パネルの研究開発や各事業部の調整を行った。
国内の民間企業を集めて日本初の高信頼性太陽光電池パネルの開発を目指す産業技術総合研究所の共同事業にも会社の担当として4年間派遣された。「デュポンだけでなく、さまざまな企業の働き方が見られたのでとても良い経験でした」
しかし、出向先だけでなく本社の仕事もあるため、時差の関係で深夜に海外の拠点と会議をするなど負担の大きい勤務が続いた。また、ビジネスと研究の折り合いを付けることにも悩む。「科学である以上望ましい結果が必ず出るとは保証できませんが、営利企業として実績が求められるので深刻に考え過ぎてしまいました」。研究開発よりもマネジメントの方が適性があると感じ、転職を決意。
ベンチャー企業での経験を経て、ローカルビジネスに関わりたいと思うように。NPO法人の紹介で阿部梨園のインターンに参加。「実際に現場を見てみると課題の山でした。農業でも製造業同様に生産管理や経営管理をしなければ報われません」。4カ月間で約100件の業務改善を提案するとチームや農園全体がどんどん変わっていく実感があり、とても面白いと感じた。農業の現場を改善する可能性をもっと掘り下げたいと思い、インターン後フルタイムで就職した。
現在は農業コンサルティング会社を起業し、阿部梨園で得たノウハウを全国の農家と共有することを目指している。
転職の際にはロールモデルがないことに不安を感じたという。「東大生のような能力のある方こそレールから降りてみんなが行かない希少価値の高いキャリアを歩んでほしいです」
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この記事は2020年7月14日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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キャンパスのひと 中村陽太さん(文Ⅲ・2年)
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