「農業×地域おこしで、むらの未来を変える」をモットーに活動する地域おこしサークル「東大むら塾」がクラフトビールを開発した。慣れないホップの栽培・加工、ブランドデザインなど初めての試みに対し、どのように取り組み、何を感じたのか。ビールプロジェクトのリーダーを務めた志賀智寛さん(農・3年)に話を聞いた。
(取材・友清雄太)
ホップ栽培という新たな試み
東大むら塾(以下、むら塾)は千葉県富津市相川・梨沢地区と福島県飯館村を主な活動拠点とする、設立から8年目の地域おこしサークルだ。これまで、ふるさと納税の返礼品となる独自のブランド米の開発や地域の子どもに勉強を教える「寺子屋」、全国の学生を富津市に集め地域おこしプランを立案する「むらおこしコンテスト」などの取り組みを行ってきた。
そんなむら塾が今回新たに始めたのがクラフトビール造り。クラフトビールとは小規模な醸造所で作られるビールのことで、その地域の特産品などが原料に使われることも多い。むら塾はもともと内部向けの野菜作りをしていたが、育てた作物を商品化したい、と今年の5月にホップの栽培を新たに試みた。
「ホップ栽培のノウハウはなく、試行錯誤の日々でした」と志賀さんは語る。栽培1年目で成功することは少なく、中にはビールの素となる毬花(まりはな)が全く咲かない場合もある。さらにホップは寒冷地域で栽培されることが多く、温暖な気候の千葉県で成功するか未知数だったという。それでもメンバーが交代で毎週欠かさず富津市に足を運び、世話をしたことが功を奏し、毬花が咲いた。一気に可能性を感じたと語る。
クラフトビールは人をつなぐ
夏休み、東北旅行でホップの一大栽培地である岩手県遠野市をふらりと訪れた志賀さん。ホップ農家を見学し、地元の酒場に行ってみると「ビールを中心に人がつながる『ビール文化』がありました」。クラフトビールを介して地元住民や店員、クラフトビール愛好家と交流し、ホップ栽培のノウハウなどを教わった。クラフトビールが人と人とをつなげて地域に貢献する姿を体感し、本気で取り組むことを決意したという。
ホップからビールを作るには醸造所での発酵などいくつかのプロセスを経る必要がある。志賀さんは富津市の南に位置する鋸南町(きょなんまち)のクラフトビール醸造所「鋸南麦酒」に思い切って連絡を取った。学生の思い付きで加工ラインを使用させてもらえるか不安だったというが、入念にプレゼンテーションを準備し、いざ話してみると引き受けてもらえることに。「何かあっても責任を持てないし、いざ持ちかけて断られたら、と不安でいっぱいでしたが、思い切って人に会いに行く大切さを学びました」
ついに完成
こうして、むら塾発のクラフトビール「相川ふるさとエール」が無事に完成した。サークル内でブランド化チームを募り、ラベルのデザインやネーミングの検討などに取り組んだ。消費者目線でどう捉えられるかや言葉の使い方などを意識したという。ホップ900グラムから生まれた330本のビール。収穫直後しか使えないフレッシュホップ(生ホップ)を使用しているのが売りだ。
クラフトビールには人の思いが詰まっている
志賀さんは、半年間にわたる活動を通じて、クラフトビールの多様性、地域性に気が付いたという。クラフトビールは、その地域の気候、特産品、工程などで味に違いが出る。さらに、地元の農業を助けたい、地元の人同士のつながりを作りたいなどの思いを持ってビール作りに励んでいる人がいる。実際、志賀さんもクラフトビールを介して普段接する機会がない人と新しいつながりが生まれた。「しかもお酒なので楽しく飲めます。この気軽さはビールならではですね」
外部の学生が、地域のブランド商品を作る意義について「新たな視点で地域に貢献できたのは嬉しかったです。ひとえに学生という立場で自由に活動することを周囲の大人の方達が支えてくれたおかげです」。地域の人からも「相川ふるさとエール」は好評だという。「ゆくゆくはホップ栽培を通じた耕作放棄地の活用など、地域全体で新たな取り組みにつなげられたらと思っています」
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