吉兼隆生特任准教授と芳村圭教授(ともに東大生産技術研究所)は機械学習を用いて気候モデルシミュレーションを高解像度化する手法を開発した。成果は6月9日付で英科学雑誌『Scientific Reports』に掲載された。
温暖化のような気候変動の予測のためには長期間の気候モデルシミュレーションが不可欠だ。一方で、降水は地形などの局所的な要因に強く影響されたり、地域によって気候特性が異なったりするため、気候変動による水災害リスク・水資源への影響の推定のためには地域詳細の降水特性を推定しなければならない。しかし、気候モデルシミュレーションを高解像度で実施するには膨大な計算機資源が必要であり、実現は困難だった。
吉兼特任准教授らは、それを解決するためにモデルバイアス補正手法を応用した。モデルバイアス補正手法とは広域の降水空間分布特性と局地降水の関係性を機械学習でパターン認識し、予報モデルに局所的な地形の影響などを組み込む手法。これを応用し、低解像度の気候モデルシミュレーションを高解像度化する手法を開発した。この高解像度化により気候モデルシミュレーションのバイアスを補正して局地降水の気候特性が再現可能であることを示した。
本手法を用いて過去60年分の気候モデルシミュレーションから高解像度の降水を推定することで、近年の梅雨期の降水の気候変動特性が明らかになった。観測結果との比較から、過去60年間の降水頻度、月降水量、強雨は温暖化による影響よりも自然変動の影響が極めて大きいことが分かった。自然変動は、台風や梅雨前線などの異なる時空間スケールの現象が相互作用することで生じたり、地形などの局地的要因とも相互作用して局地降水を強化したりする。今までは豪雨被害が少ない地域でも、今後は被害が大きくなることも想定される。このシミュレーションによって地域ごとの水災害リスクの推定精度が大幅に向上することが期待される。