報道特集

2022年12月23日

【検証、ミス・ミスターコン】②東大は「ルッキズムや伝統的な男女のイメージを強化するかのようなイベント」と認識

 

 例年、駒場祭で注目される出し物の一つとして東大広告研究会によるミス・ミスターコンを挙げる人も多いだろう。一般に「未婚女性の美人コンテスト」と定義されるミスコンと、その男性版であるミスターコン。大学におけるミス・ミスターコンのありようは、ルッキズムの助長・性の商品化であるといった批判意見を受け多様化しつつある。

 

 法政大学が「『ミス/ミスターコンテスト』のように主観に基づいて人を順位付けする行為は、『多様な人格への敬意』と相反するものであり、 容認できるものではありません」として、大学としてコンテストを容認しない姿勢を示したのが2019年のこと。20年には、上智大学の従来のミス・ミスターコンが廃止され、ジェンダーなどを問わない出場者たちの社会問題に関する発信力や自己PR力を競う趣旨の「ソフィアンズコンテスト」が新設されて話題を呼んだ。さらに21年、立命館大学で顔を隠したコンテスト「ミラクルガール立命館」が開催されたり(従来の形式のミスコンも例年通り開催された)、22年東京女子大学でミスコンが廃止され、新たに発信力を競うコンテスト「VERA CONTEST」が創設されるなど、改革の動きは広がりつつあるといえるだろう。

 

 では東大はどうか。本年のコンテストのテーマは「東大versity」だった。コンテストによって「リアルな東大生像を発信し、多様(diversity)な東大生の姿を世間に伝えていきたい」と公式サイトには記載されている。

 

 東大のミス・ミスターコンは変わるのか。コンテストを通じて多様性を発信することは可能なのか。コンテストの目的は、持続可能な在り方は? 本企画では、コンテストや批判の内容・意義について検証していく。(全3回)

(取材・鈴木茉衣)

 

【第1回はこちら】

【検証、ミス・ミスターコン】①発信力の裏にはSNS疲れも? 過去の出場者に聞く

 

【関連記事】

【東大ミス・ミスターコン、そろそろ辞めません?①】今、ミスコン開催の是非が問われる理由

【東大ミス・ミスターコン、そろそろ辞めません?②】ミスコン反対の声に、主催者の反応

【東大ミス・ミスターコン、そろそろ辞めません?③】過去の出場者のホンネ

【東大ミス・ミスターコン、そろそろ辞めません?④】専門家は論点をどう見る

 

 

東大「教育・研究活動と一切関係ない」

 

 「東京大学憲章」前文や「東京大学ダイバーシティ&インクルージョン宣言」などに示された、東大の多様性を重視するという姿勢。では、学生の自主的な活動として運営されるミス・ミスターコンに対して、そのような姿勢はどう働くのか、またどう働くべきか。

 

 東京大学新聞社は林香里理事・副学長(国際、ダイバーシティ担当)および、ミス・ミスターコンテストを運営する広告研究会と同様に学生によって構成されている駒場祭委員会に、それぞれメール取材を行った(以下、質問文はともに要約)。

 

林理事・副学長への質問内容および回答文

 

【質問】

・ミス・ミスターコンはルッキズムや性差別を助長するといった批判を受けることがあり、東京大学憲章前文や東京大学ダイバーシティ&インクルージョン宣言で示されている指針と必ずしも一致していない可能性があるが、学内構成員の自主的な活動に対し、東大本部としてどのような方針で対応しているのか。

 

・主にミスコンにより、学内では少数派である女子学生のリアルな姿を中高生が知るきっかけになったという語りも存在する。東大としても特に女子生徒への広報に力を入れている中、この点に関して広報をはじめとした東大本部はどのように考えているか。

 

・学内のダイバーシティとインクルージョンにまつわるテーマについて考え議論する際、学生にどのような意識を持ってほしいか。

 

 

【回答】

 本イベントは、主催は東京大学広告研究会という非届出団体によるもので、『リゼクリニック・メンズリゼ』という企業がスポンサーとなり、同社の宣伝活動にも利用されている商業的活動です。したがって、東京大学の教育・研究活動とはいっさい関係のないものです。しかしながら、残念なことに、「東大」という名前がイベント名につけられていることから、世間ではこうした活動が東京大学によるもので、あたかも東京大学がこうしたルッキズムや伝統的な男女のイメージを強化するかのようなイベントを支援しているように受け止められることが多く、大変遺憾に思います。東京大学では、本年6月に『東京大学ダイバーシティ&インクルージョン宣言』を発出し、多様性理念の再確認をしております。今後とも東京大学は、これまでと変わらず、大学のすべての活動において、構成員の多様な視点が反映されるよう日々努力を重ねてまいります。

 

駒場祭委員会「恣意的な判断基に制限できないと認識」

 

駒場祭委員会への質問内容および回答文

 

【質問1】

 ミス・ミスターコンテストに対しては、性差別・外見差別を助長するという観点からの批判が寄せられることが多くある。一方、東京大学憲章の前文や2022年6月に定められた「東京大学ダイバーシティ&インクルージョン宣言」には、大学の全ての構成員の多様性を重視し、特定の属性による差別されず大学の活動に参画することを保証する方針が示されている。

 

 駒場祭は学生によって企画・運営される行事であり、「東京大学の組織・運営に関する基本原則」である東京大学憲章によって運営方針が定められるものではないが、「東大の学園祭」として行われる行事の中で、前述のような批判が寄せられることもある企画の出展がなされていることについて、どう考えているか。

 

 

【回答1】

 ミス・ミスターコンが性差別や外見差別を助長するという批判を受けることがあるということは委員会としても承知しております。企画の合意および自治委員会での承認を経て成立した第73回駒場祭自主規律には「来場者や大学周辺の住⺠など駒場祭に関わる他の人々に対して迷惑を掛ける行為や、公序良俗に反する行為を行わない」とあります。

 

 一方で、ミス・ミスターコンテストが実際に性差別や外見差別を助長するか否かについては見解の分かれるところです。このため、委員会による恣意的な判断をもとに、あくまで一企画であるミス・ミスターコンテストの出展自体を制限することはできないものと認識しております。

 

 ただし、ご指摘の通り駒場祭は学生によって企画・運営される行事でありますから、ミス・ミスターコンテストという企画のあり方もまた学生全体によって定められるものであると考えます。

 

 

【質問2】

 駒場祭の企画出展要件として、「企業などの営利団体、政治・宗教団体、その他学外の団体・個人の宣伝を目的としないこと。/営利を目的とした企画を行わないこと」と定められているが、ミス・ミスターコンには2019年からリゼクリニック・メンズリゼが協賛企業として名を連ね、候補者がSNSを通じて協賛企業の広告活動に協力している。この点は企画出展要件に抵触しないのか。

 

コンテスト公式サイトのスクリーンショット

 

【回答2】

 駒場祭に出展する企画は、学生が主体となって実行される必要があります。学生の主体性を担保するため、企画要件や外部団体(企業など)との関わりに関する基準を設けています。

 

 この実際の運用として、企業との関わりなどを「外部団体関連行為」と定め、これを行う際には以下の基準を満たすよう求めています。

 

• 企画実行において、外部団体と関わることやその程度に十分な必要性が認められること

• 外部団体が企画の主体性を侵害しないこと

• 外部団体の宣伝が直接の目的となる行為を行わないこと

• 外部団体の意思に基づいた営利活動や直接的な宣伝行為を行わないこと

• 政治団体・宗教団体の宣伝に該当する行為を行わないこと

• 外部団体の顕示やそれを含む物品の配布・掲示は原則として企画場所のみで行うこと

 

 外部団体関連行為にあたっては、事前にその内容を委員会が把握し、基準をみたすもののみ許可を出すという形となっています。また、駒場祭当日などに上記の基準に反するものや、基準を満たしていても事前に委員会に申請していない外部団体関連行為がみられた場合、駒場生の自主性を大きく損なうものであるため、「罰則」を課すなどの対応を行っています。実際、過去に事前に申請に申請された内容と異なる、外部団体の過度な宣伝が行われた企画は罰則が課せられております(ミス・ミスターコンも過去にこのような罰則の対象となったことがございます)。

 

 そのため、ミス・ミスターコンに関しても、協賛企業との関わりやその企業宣伝が一律で認められないわけではなく、これらの行為が基準を満たしているかを元に判断を行っています。

 

 東大の名を冠して、学園祭という場でミス・ミスターコンというイベントが開催されていることのデメリットとは何なのか。最終回となる次回の記事では、エッセイスト、タレントで、メディア表現とジェンダーに関する発信も多い小島慶子さん(東⼤⼤学院情報学環・客員研究員)に聞く。(第3回へ続く)

 

【連載】

【検証、ミス・ミスターコン】①発信力の裏にはSNS疲れも? 過去の出場者に聞く

【検証、ミス・ミスターコン】②東大は「ルッキズムや伝統的な男女のイメージを強化するかのようなイベント」と認識

【検証、ミス・ミスターコン】③強化されうるステレオタイプな東大生像とは? 小島慶子さんと考える

 

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