東大は9月24日、来年度の学部入学者から授業料を約10万円値上げすることを発表しました。20年ぶりとなる授業料改定。東京大学新聞社は、授業料改定の検討が明かされた5月から約4カ月間にわたって、この学費問題に注目してきました。なぜ東大は授業料を引き上げることにしたのでしょうか。そして、この決定に反対してきた学生や教職員は、どのような批判を行っていたのでしょうか。今年は2004年の法人化から20年目の節目でもあります。学費問題を法人化20年の枠組みの中で捉え直したとき、何が見えてくるでしょうか。10月号では、授業料値上げを深掘りする特集を掲載しています。
こちらのページでは10月8日発行の「学費問題&法人化20周年特集号」の見どころを一挙に紹介します!
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授業料値上げの詳細
今回の授業料値上げと支援拡充の概要や増収分の使途など、来年度からの授業料改定の詳細を掲載しています。その他、東大の財政状況や学内の議論も特集しています。学費問題の全体像を詳しく知りたい方におすすめです。
学費問題早わかり 基本Q&A
授業料改定に至る意思決定プロセスやその内容に学生からの疑問の声も高まりました。そもそも授業料はどのように定められ、今回、なぜ引き上げられるのでしょうか。今後授業料引き上げの対象となる受験生や、学費問題について初めて知る人を対象に、学費問題にまつわる疑問を解説します。
国立大学法人化を理解するためのポイント
授業料値上げなど現在進行形で変化が進んでいるとき、その背景が見えにくい場合が多々あります。そもそも東大が授業料を上げられるのは、2004年の法人化で授業料の設定主体が国ではなくなったからですし、授業料改定の理由とされた東大の財政難には法人化後に導入された運営費交付金の減少が関わっています。その上、値上げに反対する教員も少なくない中、教授会の議決なしに大学の執行部中心に議論が進められた背景には、法人化による組織体制の変化が関わっていると言えるでしょう。学費問題を理解するためには法人化を避けては通れません。この記事では、何を目的に法人化が行われ、その結果、大学がどのように変わったのかをまとめました。
第27代東大総長・佐々木毅名誉教授インタビュー
法人化が本格的に議論されていた 01 年に就任し、04 年の法人化を乗り切った後、1年間新しい国立大学法人としての東大を経営した佐々木毅・元総長。法人化前後の 03 〜 04 年度には国立大学協会の会長としても法人化に関連する対応に奔走した経験も。国立大学の先陣を切って法人化と向き合った佐々木元総長に、自身から見た国立大学を取り巻く環境の変化、法人化の経緯について話を聞きました。
第28代東大総長・小宮山宏名誉教授インタビュー
法人化後に初めて選出された総長として05 年に就任し、法人化から間もない東大の経営に注力した小宮山宏・元総長。就任後には自身の任期中の活動指針をまとめた「アクション・プラン」を発表し、現在にも引き継がれる総長室直属の組織・プロジェクトを続々と立ち上げました。東大基金の立ち上げや社会連携の推進に関わった経験を基に大学経営の在り方や、大学と社会の関係について話を聞きました。
これからの大学運営を考える
国立大学法人が根本的に抱えてきた課題が学費問題を機に顕現しているようにも見えます。この危機を前にして東大は進むべき方向へと舵(かじ)を切れるのでしょうか。海外の事例は一つの羅針盤となり得るかもしれません。米国の大学を中心とした比較大学論を専門とする福留東土教授(東大大学院教育学研究科)に、大学経営や意思決定の場への学生の参画について話を聞きました。
10月号発行責任者より
学費問題は法人化20年の総決算だと言えるかもしれません。国からの安定した支援が伸び悩む一方、国際競争は激しさを増すばかり。この20年の結果が、教育環境も十分に維持できない現状だとすれば、東大が積み重ねてきた「赤字」を、学生の授業料値上げで補填(ほてん)するかのようにも見えます。
授業料値上げの内容に目を向けると、在学生は据え置きする「激変緩和措置」がうたわれています。安田講堂前で反対の声を上げる在学生には配慮して、まだ意見を表明できない受験生には来年度から値上げを行う決定と言い換えることもできるでしょう。10万円の差額を説得的に説明できるほど、新入生の教育環境が在学生よりも良くなるのかは疑いたくもなります。
授業料を「出資する」学生たちが批判したのは、値上げそれ自体だけではありませんでした。不十分だったと言う意見もある「総長対話」も、大学側が実施したアンケートも1度のみ。大学の意思決定プロセスから学生が外されているかのように感じる人も少なくはなかったのかもしれません。教員からも議論が拙速だとの批判がありました。今回の授業料値上げ案は教授会でも報告が行われただけだったようです。
10月号の特集では、法人化20年という大きな枠組みの中で学費問題を捉え直すことを意識しました。東大の藤井輝夫総長は、学生と「一緒に考える仕組み」の構築を目指すと公言しています。法人化20年の決算は赤字に終わりましたが予算はまだこれからです。東大は一体どこに向かおうとしているのでしょうか。これからも1人の記者として学費問題を追い続けたいと思います。そして、今回の特集だけでなく、これからの東大新聞の発信が、授業料値上げについてより深く考えるための一助となれば幸いです。(2年・岡拓杜)