東大には多数の学内メディアが存在する。その内東大新聞・UT-BASE・UmeeTの3団体の「中の人」同士、座談会を開催。果たしてその「中の人」たちがどのような考えで活動しているのか、そして各メディアの特色や発信内容がどのように受験生に役立つのかを聞いた。(構成・溝口慶)
参加者
●東京大学新聞社
溝口慶(文I・1年)
高倉仁美(文III・2年)
●UT-BASE
宋佳芮(ソウ・ガセイ)さん(文III・2年)
イ・ジェウさん(文III・2年)
●UmeeT
龍池壮磨さん(養・3年)
雨堤若菜さん(法科大学院・2年)
各組織の紹介
──各組織の活動について、東大新聞から順に簡単に紹介お願いします
高倉 東大新聞の理念の一つは「東大を動かすメディア」です。学内に向けては活躍している東大生や卒業生、あるいは活躍していたり逆にあまり知られていなかったりする部活・サークルに取材しています。加えて、受験生に向けて、勉強法のアドバイスのような有益な情報を発信しています。これらは現役東大生が発信することに意義があると思うので、部員が自ら執筆して発信することを心がけています。
──UT-BASEさん、お願いします
宋 柱として「MVV」というのがあって、MはMission、二つのVはVisionとValueとを意味しています。Missionには「東大生の挑戦・熱中・学びの機会を最大化する」ということを、Visionには「東大を世界一の学び場にする」ことを、Valueには「団体内外での挑戦・熱中・学びを、まずメンバーが体現する」、「お互い支え合い、想いを形にする」、「学生目線を忘れず、一人一人の問題意識を大切にする」、「責任を持って全方位に至誠を尽くすということ」の四つを掲げています。今の執行部は5代目です。今の代は昔と比べるとかなり留学生メンバーの数が増えているということもあるので、この代からはMissionの最初に「全ての」を加えて、全ての東大生の学びの機会を最大化していきたいと思っています。一般生向けだけでなく、最近はUT-BASE English(英語版ページ)を開設するなど留学生にも対応できるようにしています。
イ 機会の最大化に焦点をあてているのが特徴です。十分な情報をもとにして多くの選択肢に出会えるサイトの整備に重点を置いています。学内向けが主で、高校生向けにも最近は少しずつ力を入れつつあります。そもそも情報格差という課題を乗り越えよう、という流れが私たちのモチベーションの核心にあります。コロナの時はオンラインの情報発信で、獲得できる情報を最大化しようとしました。最近は留学生と一般生の間の情報格差にも注目しつつ、いろいろ工夫をしているところです。
──なるほど。情報格差によって一部の人の機会が減少しているから機会の最大化を目指し、今でも継続しているという感じですね
宋 私たちの強みはサークルや学生団体と学部・学科の紹介記事です。全ての学部・学科が含まれているので、進路選択に役立つかと思います。また昨年の五月祭では東大生の進振り体験を一人一人に聞いて集めた雑誌「進振り体験記」を販売しました。プログラムや私設奨学金についても記事にまとめて出していて、東大生の選択肢の問題を解消するための力になりたいと思います。
──ではUmeeTさん、お願いします
龍池 UmeeTはかなり自由度が高い記事を書いています。東大生が天才だとかガリ勉だとかいうイメージばかりではなく、ありのままの姿にフォーカスしようとしています。普段は東大の教員やサークル、いわゆる有名東大生にインタビューしたり、企業からの依頼を受けて記事を書いたり、われわれメンバーが普段思っていることをエッセイにしたりと好きに記事を書いています。あまり実用的な記事は書かないけれど、隙間時間にぬるっと読めるのがUmeeTの特徴だと思っています。
雨堤 UmeeTは2015年の秋にできて、今年で10年目です。名前の“meet”が示すように東大の面白い人同士をつなげたいというのが創立者の理念です。今もその思いを継いで、身の回りの面白い人に取材しつつ、別個の記事で取材した方同士を引き合わせて座談会を開くなど、企画を通じて縁をつなぐこともしています。一般に抱かれがちな偏った東大生のイメージと違う面白さを外部へ発信するという目線もあると思っていて、学内向けと学外向けの割合としてはUT-BASEさんよりは外向き、東大新聞さんよりは内向きだと思っています。
UmeeTは面白さを追求している(写真はUmeeT提供)
──ライターが面白い話題を好きに書くうちに、ビジョンに則るものが自然とできているのですか
雨堤 ライター自身が書くこともあれば、面白そうな人を見つけて寄稿してもらうこともあります。どちらにせよ、各人が魅力的だと思う人やものを集めることが、この大学の面白さを発信するというビジョンにつながっていると思います。趣味や専門を極めている人、起業している人など、何かに愛を持って行動している魅力的な東大生を紹介したいです。
──東大新聞は東大の研究に関するもの、プレスリリースで出したものなども記事にしていて、これは東大新聞にしかないと思ったのですが
雨堤 そこがすみ分けの部分でもありますね。UT-BASEは学部・学科全部の記事を作成したと聞いていますし、東大新聞も東大のニュースを全部押さえていてどちらも網羅性が高いですよね。UmeeTは規模が小さくて網羅性はないけれどその分一人一人が面白いと思ったことだけピックアップして、それにたまたま出会ってくれた人が面白いと思ってくれればいいなと思ってやっていて、差別化にもなっているのかなと思います。
新媒体として SNS の運用について
──東大新聞は紙面とオンラインの2軸で発信しています。一方、UT-BASEさんとUmeeTさんはオンラインとSNSに注力しています
高倉 東大新聞は1920年の創刊からずっと紙面を主軸の発信媒体としていました。デジタル版需要の高まりに応じて、97年からウェブサイトの運用を開始しました。
しかしデジタル担当は現在1人しかいないため、紙面の運営で手一杯でオンラインを活発化させていくのは難しいというのが現状です。秋からは私がデジタル事業部長に就任しました。これからは、オンラインも SNS も活発化させていきたいと思っています。
実は東大新聞は学内の知名度が下がりつつあると思っています。UT-BASEさんやUmeeTさんは多くの東大生に知られていると思っているのですが、どのように知名度を爆上げしてきたのか聞いてみたいです。
龍池 UmeeTはInstagramとXとFacebookという三つのSNSを運営しています。新しい記事が出たらその担当の人が投稿しています。
雨堤 でも東大新聞の知名度が低いという認識はないですね。知名度とSNSは関係があるんですかね。
高倉 そうかもしれないですね。情報収集の媒体として選ばれるのがUT-BASEさんという感じはします。
イ UT-BASEは、LINEとXが主な配信媒体です。ユーザーがフォローさえしておけば必要な情報を逃すことがないように、という責任感を持って発信を行っています。先輩の代から毎年追加されてきた膨大な量のデータを維持しつつ、さらに更新して情報の信頼性を保とうとしています。まるでロボットがやっているように見えるくらい情報を流し続けていることで、多くの東大生に使ってもらえているのだと思います。学費値上げの時に、経緯などをまとめた記事を書きましたが、その時の情報収集に関しても東大新聞さんが発信していらっしゃる情報を参考にさせていただくことが多かったです。具体的なテーマに関しては東大新聞が、一方でInstagramやSNSではUmeeTさんの方が強いのかと思っています。
高倉 東大新聞もInstagramを運営していたのですが、しばらく途絶えていました。更新するキャパシティがないため、テンプレートやAIを活用して効率化していきたいです。UT-BASEさんは、東大生が求める需要と供給が本当にマッチしています。メディアはそういう媒体であるべきだと思っているのですが、どこで需要を見つけてくるのでしょうか。
宋 学生にとっては履修登録などの締め切り前のリマインドの情報はいつも重要度が高い情報だと思っています。学部・学科やプログラム・施設・サークルの情報についてはだいぶ前の情報を基に今も更新されています。常に学生目線で何が必要な情報なのかを考えていて、これらは新入生が入学後最初に知りたいことだと思っているからです!
「中の人」たちの本音
雨堤 事務的な情報に対する学生の注目が高いのは分かるけれど、それを追って発信し続けるのはしんどいですよね。そのモチベーションは使命感でしょうか。
イ 自分たちもUT-BASEに入る前に恩恵を受けたから、それを返していきたいと思っています。利用者として受けた利益を返したいということがモチベーションになっています。
宋 東大生にとって、「UT-BASEのXさえ見れば履修登録などの学務情報を見逃すことがないようにすること」が目標です。
雨堤 東大新聞さんは速報性や発信情報の網羅性が特徴ですが、どのように保っていますか。
高倉 学費問題に関しては、少数精鋭で回して速報性を担保しています。ただ、部活の試合速報を1週間とか2週間後に出すなど、満遍なく速報を出すのは難しいです。
メディア系の学生団体でも、入部理由は違いますよね。東大新聞は、「教授に話を聞きたい」「書くことが好き」といった自分の関心を発信したい人が多いと思います。皆さんはどういうメンバーが多いですか。
雨堤 「書くことが好き」、というのはUmeeTも同様ですね。UmeeTの入会者には東大新聞も見ていたという人が多いです。その中で東大新聞に行かずにUmeeTに来る理由としては元々UmeeTの読者だったというのを聞くけれど、龍池くんはどう?
龍池 僕は、UmeeTは自由に書いている印象だったからそれで選びました。書くものに制約を受けたくないという理由で選んだメンバーも多いのかなと思います。
イ UT-BASEに入ってくる人は、「SNSの発信をやってみたい」「多くの人々に影響をもたらすことをしたい」など、動機はそれぞれだと思います。全体的に多様な場所で活躍をしている人は多いです。休日にボランティアをしている人、芸能系・芸術系のサークルや他のメディアに所属している人、交換留学生と英語でおしゃべりするのが好きな人、それぞれ興味も違いますが、より多くの東大生に情報を届けるためにより貢献してもらえたらうれしいと思っています。しかし、それぞれがUT-BASEの活動の他に忙しいことがあるので、UT-BASEでの活動と自分のやりたいことのバランスをとることに難しさを感じるメンバーも少なくない印象です。
高倉 東大新聞も兼サーしている部員は多いです。1年の時は掛け持ちとかしているけれど、2年生になると役職がある人は他のサークルを辞めることも多いです。
雨堤 役職に就いたら兼サーできないというのは忙しいからですか?
高倉 忙しさの他、役職に対してお金が支給されるため、中途半端な仕事はできないというのが大きいです。
龍池 そうですね、UmeeTもみんな何か他の活動もしていますね。僕はレゴ部にも入っています。UmeeTは少人数なので、メンバーの都合に合わせて会議の日程を決めたり、役職をあまり固定せず手の空いている人が対応したりなど、みんなで協力しながら柔軟に活動しています。
高倉 私たちは決まった発行日に新聞を出しているので、締め切りを必ず守らなくてはいけません。毎月発行するし印刷が遅れると多くの人に迷惑がかかるから、そういう責任感からも役職者は掛け持ちをしにくいです。
宋 UT-BASEでは、昨年確認してみたところ、全員が他のサークル活動と掛け持ちをしていました。しかし活動している内に、他の団体の活動にはあまり関われなくなるというのはよくあって、私もそうです。メンバーみんな忙しくしていますがUT-BASEの中でやりたいことがあるから、UT-BASEの活動も頑張りつつ他の団体の仕事も注力しつつという感じですかね。
イ みんな忙しいので、時期によっては連絡がつきにくいメンバーがいます。先輩たちはコミットできないからといって落ち込むことはしないで、入ってくれていること自体がうれしいよと言ってくれていました。メディア系はみんなそういう感じなのかな、と。
──読者からのリアクションをもらったことはありますか。東大新聞はXの引用リツイートなどがあります
高倉 公式のInstagramやストーリーズ、Xにこういう記事を書いたよって投稿して、感想などの反応をもらうことはありました。外部の有識者から成る編集諮問委員や評議員の方からも感想をいただくことはあります。ただ学生からのフィードバックはあまりないですね。
雨堤 学生からのフィードバック欲しくないですか。もっと学内でどう読まれているか知りたいですよね。
高倉 UT-BASEさんの評判は日常的に聞く気がします。実感はありますか?
宋 同じクラスの子に「UT-BASEで活動しています」って言うと「お世話になっています」って言われるような反響はあります。サーオリ(各団体が新勧活動を行うイベント)に今年参加した時も「UT-BASE知っています」と声を掛けられました。
イ 学費値上げの記事が新入生たちのLINEグループで共有されていたことがあったと聞いてうれしかったです。感想が届くとみんなのモチベーションも上がるし、記事を何回見られたかくらいは分かったらうれしいです。
雨堤 UmeeTは感想フォームを設置していて、たまに感想が届くのがうれしいです。継続的にいただくにはプレゼント企画みたいな動機付けがないと厳しいんですかね。
参加メンバー。読者のリアクションが欲しいと意見が一致した(撮影・溝口慶)
受験生のための活動として
──東大新聞では、毎年秋から春にかけて受験生・新入生向けの特集号を発行していて、他に受験生応援連載も組んでいます。皆さんは、受験生に有益な情報を直接届けるためにどのような工夫をしていますか
高倉 東大新聞は学校に配達する契約をして全国の学校に置いてもらっています。一般的に新聞を好んで読むのは大人が多いので、親御さんがとっていたり、塾の先生や学校の先生に勧められたりして情報を手に入れたというのは聞きます。歴史ある東大新聞について知っていた大人から、多くは人と人をつなげて受験生へ情報を届けているのかなと思います。特に地方の受験生は情報が限られているので、東大新聞をゲットしたという話はよく聞きます。あとは受験生応援本兼東大情報本の『東大を選ぶ』を毎年発行しています。東大新聞は新聞・オンラインサイト・情報本の三つの媒体を通じて、全国の受験生に情報を届けています。
──UT-BASEさん、UmeeTさんは頑張っていることはありますか
宋 UT-BASEの一般的なユーザーは東大生です。さらに今注力していることの一つとしては、高校生向けのページを作って受験生向けに学生団体の情報などをまとめています。東大という枠に限らない活動をしている団体の情報も掲載していますが、一般的なユーザーは東大に興味を持っている受験生になると思っています。
龍池 特設サイトや単行本こそありませんが、UmeeTにも受験生向けの記事が過去にあり、自分自身も参考にした記憶があります。受験会場の部屋の椅子がどうとかトイレがどうとかそういったニッチな情報を扱う記事は、幅広いテーマを扱えるUmeeTの得意分野なのかなと思います。第二外国語についてまとめたのもありましたね。特設サイトや本の出版はしていませんが、受験生が検索ページで「東大 受験会場」と調べたら出てくるので、受験生に参考にしてもらえたらと思っています。
雨堤 実は受験会場の記事を書いたのは私なんです。受験生向けの記事は他よりも反響をもらえるので、うれしいですし、未来の東大生に向けた記事を書きたいというのもあります。自分たちも高校生の時に受験生向けのものを読んで助けられてきましたから。
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