近い将来、現在の仕事の大半が人工知能(AI)に取って代わられると言われる現代。車、駅、ビル、街全体の自動化の可能性が出てくるとともに、農業機械・農作業の自動化も見込まれるように、機械学習の可能性は多方面に広がっている。しかし、機械学習研究が日々進歩を遂げその可能性が広く認識されている日本でも、車の自動運転をはじめ機械学習の社会実装にはまだ道のりがあるように思える。
AI研究の進展の鍵を握るのが機械学習だ。そして機械学習に使えるデータの種類やその有無で社会実装の可能性が影響される。日本における機械学習研究の現状と課題はどのようなものか、データの収集と活用のあり方はどうあるべきか。これらを明らかにしつつ、日本でのAIの社会実装の意義、それに伴う課題や予想される社会の変化に迫る。
今回は農業分野にAIを活用する研究を行う海津裕准教授(農学生命科学研究科)に話を聞いた。
(取材・撮影 曽木悠美)
「日本では農業人口が年々減り続け、農家の方たちは常に人手不足で悩まされています。だからこそ、AIの導入は今後の農業を支えるためにも切実な問題です」と海津准教授は語る。土地管理や農作業において、一人にかかる負担が大きすぎる現状を変える切り札に、AIはなり得る。
海津准教授の研究室では現在、AIを実装した草刈り機や農産物の形状を特定する機械などの技術を開発中。「最近は、湖の水草を刈り取る機械や、干し柿の製造過程で柿の形状を特定する技術などを研究しています」。画像処理の分野で活躍するAIは、障害物検知や周囲の状況確認などに大きな効果を発揮するという。
海津准教授が研究の際大事にしているのは「農家の生の声」。現在は農業機械が進歩し、農作業の全てを手作業で行うことはないが、それでも農家に重い負担を強いる部分は多く残る。例えば、田んぼの水管理。一つの水田には普通、水門が一つ付くのだが、数百筆の水田を所有する農家では、水門の開け閉め作業だけで一日が終わることもある。「農業の効率化・省力化は重要な問題ですね」
しかし現在の日本では、AIを実装した農業機械の実用化はされていない。アメリカなど広大な土地で農業を行う国では、すでにGPS機能を活用した農業機械の自動運転が実用化されているが、狭い土地で農業を行う日本ではハードルが高い。「複雑な地形や周囲の木々の影響で、GPSが正確に機能しない場合があります。畑の形状や季節による気候の問題もあり、考慮すべき要素は山積みです」。どんな地形や気象条件でも高い能力を発揮する「ロバスト性」をいかに高めるかが今後の課題だ。
学生の頃から画像処理技術に興味があったという海津准教授。今から30年ほど前にも「ニューラルネットワーク」というAIの初期段階の技術が話題になったが、それは「機械の学習能力により、情報の入力とその結果を一致させる技術でした。当時の技術には限界があり私の研究では思うような成果は得られませんでしたが、技術の進歩が進んだ今、当時の経験が研究に生かされています」
現代は、AIなど最新技術が農業の発展に欠かせない時代となりつつある。しかし昔からの「土作業」的なイメージも残り、農業分野に興味を抱く若者は非常に少ない。海津准教授は「農業分野が、最先端技術をフル活用する可能性に満ちあふれた分野であると知ってほしい」と語る。
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海津裕准教授(かいづ・ゆたか)(農学生命科学研究科)
94年農学部農業工学科卒、96年農学研究科農業工学専攻修士修了。農学博士。株式会社クボタ、農学生命科学研究科助手、北海道大学農学研究科准教授などを経て、11年より現職。
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