今年で89回目となる*五月祭が5月14日(土)15日(日)の2日間本郷キャンパスにて開催された。様々な企画がとり行われ、模擬店やステージパフォーマンスで盛り上がる中、年代問わず人気を集めた企画がある。東京大学医学部五月祭企画だ。東大医学部では毎年4年生が中心となり、五月祭にて様々な企画を行っている。2016年度の医学部企画全体のテーマは「情熱医学」。最先端の医療展示や手術などの体験企画、健康について考える講演会、医師と考える症例検討会など様々な企画が行われ、来場者数は2日間でのべ1万人を超えた。
*五月祭:毎年5月に本郷・弥生キャンパスで開催され、今回で89回を数える伝統ある学園祭。
体験企画〜東大で医師体験〜
数ある医学部企画の中でとりわけ親子連れが目立ったのが体験企画だ。手術を体験できるブースでは、参加者自ら手を動かし、筋膜(筋肉を覆う膜)を縫い合わせる、人工血管をつなぐ、内視鏡を覗くといったことができ、ブースの外にも長い列ができていた。実際の器具や練習キットを用いこともあり、大人も子供も真剣な面持ちで手術体験に臨んでいた。
また、白衣を着用し聴診器を首にかけて撮影できる白衣撮影ブースも設けられた。子供用に小さいサイズの白衣も用意され、はにかみながら白衣に袖を通す子どもや照れくさそうに撮影されるお父さんの姿が印象的だった。
白衣を着た女の子
展示企画〜最新の医療に触れる〜
展示のブースには、細部まで緻密に再現された*臓器モデルがずらりと並べられた。あまりのリアルさに思わず足がとまる。それもそのはず、ここで展示された臓器モデルは3Dプリンターを利用し、患者さんのCT/MRIデータをそっくりそのまま3次元モデルとして印刷されたものなのだ。臓器や骨を透明につくることで、内部の血管や腫瘍が見えるように、さらには形状だけでなく、素材を選ぶことで生体の軟らかさ・硬さなどの「質感」まで再現されている。性格が人それぞれ異なるように、臓器の大きさも形も微妙に違ってくるという。ひとりひとりにあった医療を提供する上で、こうした臓器モデルも一役買いそうだ。
また、展示企画では臓器モデル以外にも、3Dグラフィクスの人体モデルなどを用いた解剖学展示や医学生による最新医療の解説を聞けるポスター展示、「CUBIC」という技術により組織を透明化された「透明マウス」の標本展示など工夫を凝らした様々な展示が軒を連ね、多くの人々で賑わった。
*今回展示された臓器モデルは名古屋大学情報基盤センターから五月祭の展示用に貸与された。
医学を身近に
先に述べたように、本年度の医学部企画のテーマは「情熱医学」であった。医療展示や体験企画、講演会を取材する中で、五月祭企画に対する医学部生の並々ならぬ思いは節々に感じられたが、彼らがテーマに掲げる「情熱医学」の情熱とは一体どのようなものなのか。テーマに秘められた熱い思いを聞くことが出来た。
学問は幅広い。化学、物理学、哲学、経済学など、〇〇学と名のつくものを数え上げればきりがない。学部は学科に分けられ、深めたいテーマにそってさらに細分化される。とはいえ専門分野での学びが職に直結する人は多くない。化学を学ぶ人は必ずしも化学者になるわけではなく哲学を学ぶ人が哲学者になるとも限らない。では医学はどうだろう?医学を学ぶ人の大半は医師になる。医学という学問は、その専門性と医学部入試の難しさとあいまって、高尚でとっつきにくいイメージが強い。
「医学は医師だけに与えられた特別な学問ではない」 そう語るのは企画広報担当の古川渉太さん(医・4年)だ。「医学は、ひとりひとりが自分の身体を知るための知恵になる。この企画を通して医学を身近に感じてほしい」と語る。たとえばどんな器官が身体のどこにあるかを知ることで身体の不調に気づきやすくなり、健康に関する様々な言説を鵜呑みにすることなく正しい判断ができるようになる。また、ヘルスリテラシーを高めることは、食事や生活習慣の改善につながる。
”医学を身近に”という情熱からうまれた本年度の医学部五月祭企画、「情熱医学」。彼らの情熱は参加者に届いたに違いない。
(文・久野美菜子 撮影・石井達也)
【五月祭 医学部企画イベントレポート】
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