黒河内寛之助教(東大大学院農学生命科学研究科・研究当時)らは、かずさDNA研究所との共同研究で、マツタケがもつ13本の染色体の塩基配列とミトコンドリアの環状DNAの塩基配列を全て決定することに初めて成功した。成果は4月25日に国際学術雑誌『DNA Research』でオンライン公開された。
マツタケのゲノムはデータベース上に4種類が登録されているものの、断片的で情報の活用は進んでいなかった。また、マツタケのゲノム上にはレトロトランスポゾン(RNAに転写されたのちに逆転写されゲノム上の位置を転移する塩基配列)の中でも最大6000塩基対程度の比較的大きいものが多数存在しており、一度に約200塩基程度の配列を解読する従来の技術ではDNAの断片を染色体レベルにつなげることが困難だった。しかし、10000塩基以上の長い配列を連続して読み取ることができるロングリード技術の精度改善など近年のゲノム解析技術の進歩によりマツタケのゲノム上のリピート配列(繰り返し出現する塩基配列)の全体像を把握することが可能になった。
研究の結果、マツタケがもつ13本の染色体それぞれの塩基配列とミトコンドリアの環状DNAが完全に解読された。マツタケは21887個の遺伝子を持つこと、リピート配列がゲノムの71.6%を占めることも明らかになった。
マツタケは近年生育環境の悪化により生産量が激減しており、解読されたゲノム情報がマツタケの生態解明による保全、マツタケの大量生産や人工栽培につながると期待されている。また、今回の解析で使用されたゲノム解析技術のロングリード技術は、マツタケ以外の多くの菌類のゲノム解析にも使用されることが期待されている。
【記事追記】2023年6月18日、2段落目および3段落目に追記を行いました。