キャンパスライフ

2020年10月17日

「リトルヤンゴン」を学ぶ ディープでおいしい高田馬場のミャンマー料理店の数々

 新型コロナウイルス感染症の流行は、日本に暮らす外国人の生活にも大きな打撃を与えている。しかし、彼らが普段どのようにして生活を営み、そして現在どのような状況に置かれているのかを知る機会は多くないだろう。そこで今回は、日本で形成される外国人コミュニティーの一つである東京の「リトルヤンゴン」を取り上げ、その特徴や歴史、さらに「リトルヤンゴン」の飲食店を支援するプロジェクトについてプロジェクトの参加メンバーに寄稿してもらった。

(寄稿=「ビルマのたべごとプロジェクト」参加メンバー)


東京の「リトルヤンゴン」

 

 東京都、高田馬場。早稲田大学をはじめ、多くの大学や専門学校の学生で賑わうこの街を散策していると、ある不思議なことに気付かされます。駅からわずか数100m圏内に、日本ではあまり見かけることのないミャンマー料理店がいくつも見つかるのです。いったい、なぜでしょうか。

 

 実は、高田馬場は、ミャンマーと非常に縁の深い街。このエリアでは合計2000人近いミャンマー人が暮らしているといわれており、地域のミャンマー料理店や雑貨店の数は優に10軒を超えます。高田馬場の愛称として知られている「リトルヤンゴン」は、ミャンマー最大の都市ヤンゴンにちなんで名づけられました。

 

高田馬場周辺には、合計10店舗以上のミャンマー料理、雑貨店が立ち並ぶ。(写真は「ビルマの食べごとプロジェクト」参加メンバー提供)

 

高田馬場が「リトルヤンゴン」となったわけ

 

 では、そもそもなぜ高田馬場がミャンマー人の集住地域になったのでしょうか。ミャンマー料理店「スィウミャンマー」の店主、タンスエさんにその理由を伺いました。

 

店主のタンスエさん(写真左奥)と。「スィウミャンマー」店内にて。(写真は「ビルマの食べごとプロジェクト」参加メンバー提供)

 

 「リトルヤンゴン」の歴史は古く、その始まりは1988年まで遡ります。

 

 1988年といえば、ミャンマー(当時はビルマ)で大規模な民主化運動が行われた年。大学で先生をしていたタンスエさんも、軍事政権への異議を唱えて民主化運動に参加しました。しかし、民主化を求める市民に対して、軍部は徹底的な弾圧を遂行。その結果、数多くのミャンマー人が母国を追われ、日本を含む世界各国へ逃れることとなりました。

 

 日本へ逃れたミャンマー人が最初に直面したのが、住居の問題。当時、日本語の不自由な外国人の入居を受け入れる不動産屋は多くありませんでした。そんな中、彼らに救いの手を差し伸べてくれたのが、新宿区の中井駅周辺にアパートを持つ一人の大家さんだったといいます。

 

 その方が多くのミャンマー人に部屋を貸してくれたことがきっかけで、次第に中井周辺にミャンマー人が集まるように。地域にはミャンマー料理店や雑貨店も生まれ、中井がいわば、最初の「リトルヤンゴン」となりました。

 

 「リトルヤンゴン」が高田馬場へと移ったのは、それから10年ほど経った1990年代後半のこと。山手線沿線に仕事が多かったことから、中井駅から西武新宿線で2駅先の高田馬場駅周辺に移り住む人が徐々に増えていったのではないかと、タンスエさんは話します。ミャンマー人の移動に伴ってミャンマー料理店や雑貨店も高田馬場への移転が進み、現在では高田馬場近辺にミャンマー関連の店舗が集まるようになりました。

 

 高田馬場が「リトルヤンゴン」となった背景には、実はこのような深い歴史があったのです。

 

「リトルヤンゴン」のミャンマー料理店

 

 「日本には、インド料理、タイ料理、いろんな国のレストランがあるけど、ミャンマー料理だって味は負けていない。日本でもっと、ミャンマー料理を有名にしたい。」と語るタンスエさん。

 

 実際に「リトルヤンゴン」で食べるミャンマー料理はどれも本当においしくて、日本にいながらミャンマーの豊かな食文化を感じることができます。

 

 ここからは、「リトルヤンゴン」のミャンマー料理店と、各店舗の人気料理を紹介していきたいと思います。

 

スィウミャンマー

 高田馬場駅から西に延びるさかえ通りを、まっすぐ歩いた場所にある「スィウミャンマー」。お店の名前にある「スィウ」はミャンマー語で「家族、友達」を意味するそうです。その名の通り、お店は家庭的な空気に包まれており、和やかな雰囲気の中で本格的なミャンマー料理を楽しむことができます。

お店の外観(写真は「ビルマの食べごとプロジェクト」参加メンバー提供)

​​

おすすめ料理・・・ダンバウ

 ​ミャンマーでダンバウといえば、お祭りやお祝いの時に食べる特別な料理。作るのに手間がかかるので、現地では普段なかなか味わえないごちそうだといいます。よく味の染み込んだ大きな骨付きの鶏肉はフォークで取り分けられるほど柔らかく、ご飯はミャンマーから直輸入したこだわりのスパイスで香り豊かに味付けされています。

ダンバウ(写真は「ビルマの食べごとプロジェクト」参加メンバー提供)

 

ルビー

 高田馬場駅を北に上り、神田川を渡ったところにあるミャンマー料理店「ルビー」。ミャンマー雑貨が飾られた店内は広々としていて、とても居心地の良い空間です。お昼にはランチビュッフェを楽しむことができ、さまざまな種類のミャンマー料理を食べられると大人気です。

お店の外観(写真は「ビルマの食べごとプロジェクト」参加メンバー提供)

おすすめ料理・・・モヒンガー

 ミャンマーを代表する伝統的な麺料理。レモンやナンプラーで味付けされた魚介ベースのスープは味わい深く、そうめんのように細い米粉麺はつるつると喉を通ります。全体的にさっぱりとした味付けが特徴で、ミャンマーでは定番の朝ごはんだそうです。​

モヒンガー(写真は「ビルマの食べごとプロジェクト」参加メンバー提供)

 

ノングインレイ

 JR高田馬場駅早稲田口の正面のビル「TAK11(タックイレブン)」の1階に位置する「ノングインレイ」。テレビドラマ「孤独のグルメ」でも紹介された人気店です。ここでは数あるミャンマー料理店の中でも珍しく、少数民族であるシャン族の料理を提供しています。

お店の外観(写真は「ビルマの食べごとプロジェクト」参加メンバー提供)

 

おすすめ料理・・・シャンカウスエ

​ こちらはモヒンガーと同じ麺類でも、シャン族の伝統料理。米粉でできた平麺と、鶏肉の出汁が効いたあっさり系のスープがよく合います。砕いたピーナッツが散りばめられていて、それがまた味と食感のアクセントに。シャンカウスエもまた、現地のシャン族の間では朝ごはんとしてよく食べられるそうです。

シャンカウスエ(写真は「ノングインレイ」提供)

「ビルマのたべごとプロジェクト」ご支援のお願い

 

 現在、難民問題に関心を持つ有志の学生が集まり、「ビルマのたべごとプロジェクト」を実施中です。本プロジェクトではクラウドファンディングを用いたミャンマー料理店支援を通じて、「リトルヤンゴン」の活性化、さらには多文化共生理解の推進を目指しています。

 

 昨今の新型コロナウイルスの流行に伴い、多くの飲食店が厳しい経営状況に陥っていますが、それは「リトルヤンゴン」のミャンマー料理店も例外ではありません。いくつかのお店にお話を伺ったところ、「緊急事態宣言下の4月には、売上が昨年と比べて1割程度までに落ち込んだ」、「今でもお客さんは例年の5割程度」などという声が聞かれました。このままでは、お店の存続も危ぶまれる状況です。

 

 しかし、ミャンマー料理店は「リトルヤンゴン」で生活するミャンマー人にとってなくてはならない場所。彼らはここで故郷の味を楽しむとともに、同国人と出会い、日本で生活する上で大切な情報を共有し合います。

 

 ミャンマー料理店を訪れるのはもちろん、彼らだけではありません。お店には日本人のお客さんに加え、時にアジア圏の留学生なども集まり、店内ではさまざまな言語が飛び交うこともしばしば。そんな「リトルヤンゴン」のミャンマー料理店では、思わずここが日本であることを忘れてしまうような、ちょっとした旅気分を味わうことができます。そして同時に、普段の生活では意識する機会の少ない、日本の中の多様性の存在に改めて気付かされます。「食」という気軽な入口から多文化共生を肌で感じられるこの体験は、きっと日本に住む外国人への理解を深めるきっかけとなるはずです。

 

 今回、「ビルマのたべごとプロジェクト」では、「リトルヤンゴン」のミャンマー料理店を対象に資金援助を実施します。さらに、店舗のデリバリー制導入支援や「リトルヤンゴン」を紹介するウェブサイトの作成も予定しています。これらのプロジェクトを通じて「リトルヤンゴン」の実態やその背景が広く知れ渡り、地域の活性化および多文化共生理解の推進につながればと思っています。

 

 クラウドファンディング上でご支援を頂いた方には、先ほど紹介したミャンマー料理店で使用できる食事券などをお届けしています。プロジェクトの詳細は下記リンク先のページにてご確認ください。

 

 「リトルヤンゴン」の今後のために、ご支援、ご賛同いただければ幸いです。

 

クラウドファンディングの実施サイト: https://readyfor.jp/projects/littleyangon

 

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