インタビュー

2014年12月23日

東大生には、リフティング上手ではなく泥臭くシュートを打ってほしい LINE森川社長

今やスマートフォン必須のアプリとも言えるLINE。総務省他の調査では、20代の8割以上が使用していると言われる。そんなLINE株式会社をまとめているのが、森川亮代表取締役社長だ。急成長を続ける同社をいかにしてまとめているのか? ITが描く未来の社会とは? 「東大生は、知ったかぶりしがちな人が多い」という率直な印象とともに、東大生へのメッセージをもらいました。(本インタビューは、2014年11月28日に実施しました)


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LINEの社長になるまで

−−学生時代から今に至るまでのご経歴を教えて下さい。

大学時代は、筑波大学第三学群情報学類でコンピュータの研究をする傍ら、ジャズサークルに所属していました。どちらかと言えば、あまり大学に行かず、バンド活動に打ち込んだ学生生活でしたね。

音楽関係の仕事がしたいと思い、日本テレビ放送網に入社しましたが、入社後は、テレビ向けのシステム開発の仕事に取り組みました。当時、コンピュータを使える人がほとんどいなかったんです。

まず、ニュース編集システム、速報システム、選挙の予測システムを作り、報道のデジタル化を目指しました。その後、視聴率を紙ベースではなく、デジタル情報としてデータマイニング可能にするツールを開発し、マーケティングのデジタル化を図りました。そして、番組のデジタル化として、クイズ番組におけるリアルタイム集計機能の開発にも携わりました。

−−TV局の中で、デジタル化という先進的な仕事をされてきたのですね。その後、SONYに移られたのはなぜでしょうか?

当時は、マルチメディアブーム、続いてインターネットブームが叫ばれ、新しい事業が次々に立ち上がっていました。ただ、当然ですがテレビ局はテレビが一番。それ以外の事業はやりづらい環境でした。

そんな時、SONYでは、当時の社長だった出井さんを中心に、コンテンツと端末を組み合わせ、グローバルにチャレンジする新しい取り組みが始まっていました。この環境に惹かれ、SONYに移りました。3年ほど、さまざまな事業にチャレンジしました。

−−そこから、現在の会社に移られました。

ブロードバンド事業に携わる中で、この分野では韓国が進んでいることが分かり、韓国に未来が見えたんですね。ブロードバンドというと、当時はゲーム、それからコミュニティサービスに近い分野がメジャーでした。今で言う、「ソーシャル」の走りでした。そうした背景もあり、当時まだ社員数30人ほどの、ハンゲームジャパン株式会社(後のNHN Japan株式会社、現LINE株式会社)に入社しました。入社1か月後に事業責任者となり、2007年に社長に就任、そして3年前の2011年からLINEがヒットしているという状況です。

「管理をしない」リーダーシップ

−−急成長を続けるLINEの社長という立場で、リーダーシップについてどのようにお考えですか?

基本的には管理をせずに、社内にいる専門家や、社内でやりたい人に任せるスタイルで経営しています。

会社が小さい時と大きい時でリーダーシップのあり方も変わってきますが、現在のLINEはさまざまな国で、またさまざまな事業を展開しています。すべてを自分一人で判断しようとしたら、スピードも遅くなるし、付いて来ない人も出てしまうでしょう。細かなことをチェックするというより、社員みんなをエンパワーメントすることを心がけています。

大企業における成否は、リーダーシップというよりマネジメントによる部分が大きいと思います。ただ、IT業界という変化の激しい業界においては、従来型の管理中心とは違うリーダーシップが必要ではないでしょうか。

−−森川社長は、よくLINEにおける経営は「野球ではなくサッカーだ」と発言されています。

そうですね。個々の役割が決まった野球というよりは、状況に応じて臨機応変に動くサッカーに近いと思っています。

今のLINEの状況に関して言えば、フォワードがほしい。得点力がある人、つまり、ヒット商品を出せる人を求めています。最終的には、事業を成功させられる人が重要です。

そして、そういう得点力がある人は、往々にして変わり者が多い。そういう人が働きやすい環境を作ることが、社長としての役目です。

−−具体的に、働く環境を作る上で、気をつけていることはありますか?

ルールはなるべく作らないようにしています。日本人はルール作りが好きですが、自分で自分のクビを締めていることも多いと思います。

最近よく紹介する「動物園とサバンナ」の例で説明すると、ベンチャーに比べて大企業は動物園に近いと言えます。餌の時間が決まっていて、ほとんど檻の中にいる安全な環境です。でも、それだと中にいる身としては楽しくない。

そうではなく、サバンナという自然だけれども過酷な環境で、生き残れる人が活躍できるようにしています。そういう環境でないと、得点力がある人は育ちにくいでしょう。

LINEの今後、ITの未来

−−LINEの将来像について教えてください。

会社のコンセプトとしては、今までもこれからも、ユーザーの人が求めるものを作る会社です。決して、「僕が作りたい物を作っていく」わけではありません。それは、一番マズい会社のあり方だと思います。

「自分がやりたい」という思いがすべての始まりですが、それだけでは小さすぎます。何より、それだけでは人が付いて行きにくいでしょう。社会やお客さんに対して目を向けていることで、チームがまとまりやすくなります。それが理想的なリーダーシップではないでしょうか。

−−いかにして、ユーザーが求めるものや、将来の事業を見据えているのでしょうか?

そもそも、未来を予測することはできません。そうした中で先が見えるとしたら、しっかり考えているからに他なりません。まず、「こうなったらいいな」という理想があり、なぜその理想が実現していないかを考える必要があります。その上で、現在地からゴールへの道筋を見据え、「今日何をしなければいけないか」「この1時間で何をしなければいけないか」を自問しながら動いていく。その結果としてリーダーシップがあるのだと思います。

−−より具体的に、今後、世界に向けてのチャレンジはいかがですか?

もう少し具体的に言うと、「オンラインだけでなく、オフラインへ」とうことになります。従来のインターネットは、サーバーの中にあるものを見せたり交換したりするだけでした。それがモバイルになり、サーバーの外にあるものとの結びつきが極めて強くなった。お店などが持つLINE公式アカウントを見て、店頭に行き買い物をする、といった流れが、今後ますます進んでいくと思います。そして、こうした事業を具現化するのが、さきほどのフォワードたち、ということになります。シリコンバレー中心のIT業界で、アジア発でグローバルに通用するイノベーションを起こしていきたいです。

同時に、「マネジメント3.0」と言える、新しい自由な働き方を提示していきたい。会社そのものは、ある意味でインキュベーションオフィスに近くなるでしょう。そこにいる何人もの起業家を伸ばす場所だと思っています。管理する経営学ではなく、”ひと”中心の経営学が必要なのです。

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−−より広い意味で、ITの持つ力は、今後ますます大きくなってくるのでしょうか?

テレビ局にいた時、ワイドショー番組の担当の人が、「なぜワイドショーを作るかと言えば、ワイドショーが求められているから作るんだ」と言っていました。

たぶんGoogleやFacebookもそうで、基本的にはユーザーが求めているものを作っていますよね。民間企業なのだから、当たり前です。

ただ、「ユーザー中心」だけだと、悪いものを助長する可能性も当然あります。ある程度の部分は、ビジョンを持って国がバランスを取ったほうがいい気もします。

−−ITについて言えば、今、人工知能がホットな分野になっています。森川社長は機械が人間の頭脳を超える日(シンギュラリティ)が来ると思いますか?

技術的には、シンギュラリティは到達可能でしょう。問題は、「機械に何を求めるか」だと思います。いきなりすべての物事が人間から機械に切り変わるわけではなく、人間の身体の一部分の機能が変わっていくはずです。そうなると、何が人間なのか分からなくなってきますよね。でも多くの人は、「自分は人間だ」と言い続けているから、そうした事態になかなか気づかないかもしれない。

「Googleを使うと記憶力が悪くなる」という研究もあるそうですが、世の中が便利になればなるほど、人間は退化してしまう側面があることは否めない気がします。技術だけを考えたら、もしかすると「人間がいないほうがいい」という結論になるかもしれません。だから、何もかも人工的にするというよりは、ある程度は、自然に近い状態の方がいいかもしれません。

東大生への印象は、「知ったかぶりしがちなひとが多い」

−−今年7月には東大の講義「メディアコンテンツ特別講義Ⅰ」にも登壇されましたが、東大生にどういった印象を持っていますか?

全員がそうではないと思いますが、「おれ、何でも知っている」という風に、知ったかぶりをしがちな人が多い気がします。本に書いてあることは知っているかもしれないけれど、それだけという印象です。悪く言ってしまうと、「揚げ足を取るのが得意そう」なイメージです。例えば、東大生がアプリを中心事業に起業しても、「たかがアプリだろ?(笑)」という反応が多いと聞きます。

東大生は、リスクを取ってでも点を取りに行こうとするフォワードではなくて、評論家に終始してしまいがちです。そうではなくて、バカみたく突っ走った方がいい時もあります。東大生には、リフティングが上手いけどサッカーが下手な人よりも、泥臭くもシュートを打ちにいって、点が取れる人になってほしいと思います。

−−グローバルに活躍したい学生へのメッセージをいただけますか?

よく言われることですが、アメリカがすごいのは、そもそも社会に多様性があることです。人種の違いから貧富の差まで、違いが大きく目線が広くなる。目線が広くなると、その中における自分の位置づけを嫌でも意識します。

日本だと、自分が何者か分かりにくい。だからこそ、極端な振れ幅のなかでさまざまなものに触れて、多様性の中で自分の位置を説明できるようになるといいと思います。

(取材:荒川、澁谷、森、構成:荒川)

この記事は、GCLプログラムとの共同企画です。

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